「神子殿!!」
倒れると思った瞬間、背後から腕が伸びてきて、
地面と激突する前に、支えてくれた。
「ありがと・・・う・・・・・。」
霞む視界の先には、珍しく怒りの表情を浮かべた
頼久さんの顔があったけど、ボーッとする頭では
何故ここに頼久さんがいるのかまでは働かずに、
ただぼんやりと、頼久さんを眺めていた。
そんな私の様子に、頼久さんは、軽く舌打ちすると、
失礼と小声で呟き、私を抱き上げた。
「え・・・・?あ・・・あの・・・・・?」
ふわふわする感覚に、私の思考はついていけず、
ただぼんやりと頼久さんの顔を見つめる事しか
出来なかった。
「・・・・・・・・・・。」
「あ・・・あの・・・・・。」
「・・・・・・・・・・。」
声をかけるけど、ずーっと頼久さんは無言のままで、
私は居心地の悪さを味わっていた。
ちらりと頼久さんの顔を見上げると、ここまで顔に表情を
出すのは珍しいほど、頼久さんは怒ってた。
ズキリ・・・・・。
頼久さん、私の事、すごく怒っている。
私の事、嫌いになったのかなぁ・・・・・・。
ずっと不安に思った気持ちまでもが
ぐるぐる混ざって、心の中は悲しみで一杯になってしまった。
ズキリ。
胸の奥が痛いよ・・・・・。
頼久さん・・・・・・・。
「み・・・・神子殿!?」
焦った顔の頼久さんに、私は知らず涙を流している事に
気づいた。
でも、頼久さんに嫌われたかと思うと、涙は止まるどころか、
ますます溢れてくる。
「きら・・・・な・・・っ・・・・う・・・うっ・・・・。」
「神子殿?」
嫌いにならないで。そう、頼久さんに言いたいのに、
喉が詰まって、ちゃんと言葉が出ない。
「神子。」
でも、頼久さんは、全て判っていると言ったように、
ポンポンと、あやすように、私の背中を叩いてくれる。
それだけで、心の奥底に澱んでいた不安が、少しずつだけど、
無くなっていくのを感じ、少し肩の力が抜ける。
「何故、お一人でお出かけになられたのですか?」
ピクリと私は肩を揺らした。
答えられず俯く私に、頼久さんは、さらに言葉を繋げた。
「今日は、神子殿の物忌みの日。」
そういえば、そうだった。だから、藤姫はあんなに慌てたんだ。
「あなたにもしもの事があったらと・・・・・。」
「・・・・・神子を守るのが、八葉の役目だか・・・ら・・・・?」
頼久さんの言葉を遮って、私はそんな言葉を口にした。
本当は、こんなに冷たく言いたくないのに。
本当は、1人で出てきてごめんなさいと言いたいのに。
本当は、迷惑をかけてごめんなさいと言いたいのに。
本当は、探してくれてありがとうと言いたいのに。
でも、頼久さんの態度が、あまりにも八葉としての
言葉だったから、ここ数日の不安が溢れてきて止まらない。
「神子・・・・。」
頼久さんが、ハッと息を飲むのが判った。
「・・・・・最近のあなたの様子がおかしいのは、
そういう訳だったのですね・・・・・。」
どこか安堵の表情を浮かべた頼久さんに、私は
どうしたらいいかわからなくなった。
「安心して下さい。私があなたを守りたいのは、
<神子>だからではないのです。あなただから・・・・。
元宮あかねだから、守りたいのです。」
判って下さい・・・・・。そう呟くと、頼久さんは、そっと
私に唇を重ねた。
頼久さんのKISSを受けながら、私は自分の心が、
今度こそ完全に満たされるのを感じた。
やっと手に入れた、<特別>な言葉・・・・・・。
FIN