しのぶれど・・・・・。 

 

 

            初めて会った時から、その人のことが忘れられない。
            でも、相手にとって私は<龍神の神子>でしかなく・・・・・。
            お願い。私に優しくしないで。
            私・・・・期待してしまう。もしかしたらって・・・・・。




            初めてお会いした時から、ずっと気になっていた。
            だが、あの方は<龍神の神子>であり、この<京>を
            守る聖なる存在。
            そのお心は慈愛に満ちており、敵ですら、その対象になる。
            そのようなお方を、私1人だけのものにしたいなどという、
            大それた望みを、いつしか抱くようになった。
            聖なるお方に、なんという邪な想い。
            この想いは、いつしか神子殿を汚してしまうやも知れない。
            だから、この想いを悟られてはならない。
            私はこの想いを忠誠心という名で封印することにした。



            「あら?天真殿、その怪我、如何なされましたの?」
            藤姫は、手に包帯を巻いた天真を見つけ、驚いて尋ねた。
            「あぁ・・・・。それより、頼久は?」
            「?頼久なら、神子様のお供で出かけておりますが。」
            天真は、さらに心配そうに、尋ねた。
            「他に供はいるのか?」
            「いいえ。何故か皆様、都合が悪いらしく・・・・・。」
            表情を暗くする藤姫とは対照的に、急に天真は明るい表情をした。
            「そっか!ならいいんだ!」
            1人納得している天真に、藤姫は訳が判らず首を傾げる。
            「何がいいんですの?いくら頼久を共に連れているとはいえ、
            神子様に何かありましたら・・・・・。」
            「藤姫。その方が都合がいいんだよ。我々にとっても。そうだろ?
            天真。」
            突然、背後からかけられた声に、藤姫と天真は驚いて振り返った。
            「まぁ、友雅殿。まるで神子様に何かあった方がいいような言い方。
            八葉に選ばれたお方の言葉とも思えませんわ!」
            憤慨する藤姫に、友雅は判った判ったと言うように、軽く手を上げた。
            「藤姫。私はそういうつもりで言った訳ではないんだよ。・・・・ちょっと
            席を外して貰えないかな。天真殿と少し話がしたくてね。」
            「・・・・わかりました。下がります。」
            納得がいかないが、友雅の性格上、これ以上ここにいても無駄だと
            いう事を悟った藤姫は素直に下がった。そんな藤姫の姿が
            見えなくなると、友雅は天真に同情を込めた瞳を向けた。
            「また、随分派手に頼久にやられたね。」
            「・・・・昨日、頼久が左大臣の護衛とやらで、あかねと外出できなくって
            さ、代わりに俺があかねと一緒に出かけたんだが・・・・。」
            「その事を知った頼久が、今朝の訓練で本気を出したってことか・・・。」
            天真の言葉を友雅が引き継いで、2人は顔を見合わせると同時に
            溜息をついた。
            「私もね、この前頼久と一緒に神子殿の供をしたんだが・・・・。」
            そこで一旦言葉を切ると、また溜息をつく。
            「神子殿に手当てをしてもらった私が気に食わないらしく、その程度の
            腕で、近衛府が勤まるのですか、などと嫌味を言われたよ。」
            天真は腕を組むと、憮然とした表情を浮かべた。
            「傍で見ていると、あの2人苛々すんだよ。あんなにお互いが想いあって
            るんなら、さっさと告白すればいいんだよ。」
            友雅は苦笑する。
            「あの、2人の性格ではねぇ・・・・。」
            「でも、このままじゃ、敵を倒す前に俺、頼久に殺されるんじゃないかと、
            最近、心配なんだよ・・・・。」
            項垂れる天真の肩を、友雅は軽く叩く。
            「他の八葉には言ってきたんだが当分、必要なこと以外で神子殿と
            出かけるのを止めにしよう。そして、頃合を見計らって、2人をくっつける。
            その時は天真、協力してもらうよ。」
            「乗りかかった舟だからな。いいぜ。協力は惜しまねぇ。」
            その言葉に、友雅はにっこりと微笑んだ。
            その後、友雅の陰謀で、天真は死にそうな目に合うのだが、それは
            もう少し先の話。今は、頼久とあかねの恋を静かに見守る二人だった。



                                                 FIN.