ガンガン4月号ネタ。ロイエド子SSというより、腹黒アルのお話。
それは、アルフォンスの一言から始まった。
「一体、どういうことだ?鋼の。」
セントラルのオープンカフェでお茶を飲んでいたエドの
前に、不機嫌も露なロイが現れた。嫌そうな顔をする
エドを無視すると、ロイはエドの向かい側に腰を降ろす。
「どうって?」
キョトンと首を傾げるエドに、ロイはイライラとした口調で
文句を言う。
「ここ最近の君の行動はなんだ!まるでスカーに見つけて
下さいと言っているようではないか!」
「ようではないかっ!じゃなくって、スカーに用なんだよ!」
負けじと、エドは言い返す。
「何だと!?」
剣呑な雰囲気のロイとは対称的に、エドは不敵に笑う。
「大佐を真似て、釣りをしてみようかと思ったんだ。」
その言葉に、ロイの眉が顰められる。
「釣りだと・・・・・?」
「姉さんをエサに、ホムンクルスを引っ張り出します。
姉さんは、ホムンクルスにとって、死なせてはならない
人材だから。」
ロイの疑問に、アルは静かに答える。
「エディ!危険すぎる!!」
「大佐・・・・・。それでも、俺達は、誰も犠牲にせずに、
前に進むって決めたんだ。」
エドは、そう言うと、椅子から立ち上がる。
「エディ!!」
慌てるロイに、エドは片手を挙げて、そのまま立ち去ろうと
したが、意外な伏兵が存在していた。
「姉さん!!」
急に怒鳴りだしたアルに、エドは驚いて振り返る。
「姉さん、全然食べていないじゃないか!」
アルの指し示す方を見ると、テーブルの上には、あまり手が
付けられていない料理が乗っていた。
「わりぃ。あんまり食欲がなくて・・・・。」
乾いた笑いをするエドに、アルは怒りも露にする。普段
温厚なアルを見慣れている人間にとって、そのあまりにも
珍しい光景に、ロイはただ茫然と2人のやり取りを見つめて
いた。そんな中で、アルの説教は、ヒートアップしていく。
「姉さん1人の身体じゃないんだよ!ちゃんと
バランスの取れた食事をしなくっちゃ、駄目じゃないか!!」
怒るアルフォンスに、エドは決まり悪げな顔で頭を掻く。
「でもさ・・・・・。」
「でも!もスト!もないでしょ!!今まであまり煩く言わなかった
けど、これからは、姉さんの食事の面は、ボクがしっかりと管理
するからね!!!」
アルの言葉に、エドはぎょっとして、慌てて抗議する。
「ちょ!!アル!?何を言って・・・・。」
「姉さんには、2人分の命を背負っているって自覚があるの!?」
アルは、ガシッとエドの両肩に手を置くと、威圧するように、上から
見下ろす。
「大体姉さんは・・・・・・。」
「エディ!!」
アルの言葉を遮るように、ロイは椅子から立ち上がると、アルを
跳ね飛ばし、エドをきつく抱きしめた。
「ロ・・・ロイ!?どうした!?」
唖然となるエドに、ロイは怒鳴る。
「何故私に黙っていたんだ!エディ!!」
「・・・・は?」
ポカンとなるエドを、ロイはギュッと抱きしめると、一気に捲くし立てる。
「結婚しよう。エディ!とりあえず、直ぐに入籍をしなければ。」
「何、訳のわからない事を言っているんですか!大佐!!」
ロイに跳ね飛ばされたアルは、何とか体勢を立て直すと、
最愛の姉にしがみ付いているロイを後ろから殴る。
普段なら、地面に倒れ込むところだが、今日のロイは、何かが
違っていた。アルフォンスの鉄拳を受けても、倒れずに、
それどころか、勝ち誇った笑みをアルに向けるほど、
余裕が伺える。
「フッ。姉を取られる嫉妬かい?だが、安心したまえ!
君のお姉さんは、私が責任を持って幸せにするよ。」
「だーっ!!いい加減にしろ!!ロイ!!」
エドは、ロイの腕から逃れると、慌ててアルの後ろに隠れる。
「何を恥ずかしがっているんだい。エディ。さあ、おいで。」
両手を広げて、ニコニコと微笑むロイに、不気味なものを感じ、
ますますアルの後ろに隠れながら叫ぶ。
「いきなり何だよ!訳わかんねーこと言ってねーで、そこを
どけよ!俺はスカーを誘き寄せる為に・・・・。」
「いかーん!!それは絶対に駄目だ!エディ!!」
エドの言葉を遮って、ロイは激しく抗議する。
「どうしてだよ!ホムンクルスを捕まえるには、こうするしか
ねーんだよ!!」
叫ぶエドに、負けじとロイも叫ぶ。
「君は・・・!!お腹の子がどうなっても構わないと
いうのかね!!」
「は・・・・?お腹の・・・子・・・・?」
いきなり、何を言っているんだコイツはと、訝しげなエドの
視線に気づかず、ロイは熱く語りだす。
「いいかい。エディ。今は私と君の子を守る事だけを考えなさい。
どうしても、スカーをおびき出したいのなら・・・・そうだな。
国中に、君と私の結婚式の事を新聞に載せよう。君のストーカーで
ある奴は、必ずや式をぶち壊しに来るに違いない!そこを捕まえる
ぞ!!」
「大佐、何か勘違いしてるんじゃ・・・・第一、捕まえたいのは、スカー
じゃなくて、ホムンクルスなんだけど・・・・・・。」
エドのツッコミも、熱くなっている男の耳には入らない。さらに、
ロイの語りは続く。
「男の子かな?女の子かな?君との子供だ。さぞや可愛らしい子に
違いない!!そうだ!子供部屋が必要だな。今の家は手狭だから、
これを機会に、大きな家に引っ越そう!!ああ、安心したまえ。
勿論、君との結婚式の事を忘れていないよ。最高のウエディング
ドレスを用意しよう。それで、ハネムーンはどこがいいかい?
君の好きなところに連れて行ってあげよ・・・・・・・う・・・・。」
永遠と続くかと思われるロイの機関銃トークに、エドがウンザリしかけた
時、それはエドの背後から抱きついていた。それを、真正面から
見てしまったロイは、発火布の手袋を嵌めながら、厳しい表情で
エドの背中に張り付いているモノを凝視する。
「何だね。君は。私のエディから、離れたまえ。」
「酷いヨ!エド!!君を俺の妃にするって宣言しただロ?」
妃という言葉に、ロイのこめかみがピクリとひきつる。
「何者だ。貴様・・・・・。」
「あっ、彼はシン国の王子で、リンです!」
ハッと我に返ったアルは、ロイにエドの背中にへばりついている
人間の名前を教える。
「シン国の・・・王子・・・・・?」
「そっ。アンタより、将来有望だヨ!」
ニコニコと笑いながら、リンは、さらにエドの身体を抱き寄せる。
自分の目の前で他の男が最愛の少女を抱きしめている状況に、
頭が血が上って、ロイは堪らず叫びだす。
「エディは私のものだっ!!第一、エドのお腹の中には、
私の子供が!!」
「うん。別に、そんなの気にしないヨ。二番目以降、俺の子供を
産んでくれればいいかラ。」
さらりと言うリン言葉に、ロイは更に剣呑を増した瞳で見据える。
「・・・・勝負といこうじゃないか。」
「方法は?」
リンも対抗して、鋭い視線をロイに向ける。途端、2人の間で
火花が飛び散る。
「ホムンクルスを釣った者が、エディを手に入れるというのは?」
「面白イ。了承しタ。」
2人の間に、再び火花が散る。そして、フイと顔を背けると、
2人、別々の方向へ歩き出す。
「・・・・なぁ、アル。あの2人、何を言っていたんだ?」
話がまるでわかっていないエドに、アルは首を横に振る。
「ボクにも判らないよ。それよりも、大佐とリンがホムンクルスを
捕まえてくれるっていうんだから、任せちゃおうよ。さぁ、姉さん、
食事の途中でしょ。一杯食べてね。扉の向こうのボクの分まで!」
そう言うと、アルは、上機嫌でエドの手を取って、椅子に座らせる。
何か言いたそうなエドだったが、最愛の弟の為と、再び食事に
手を付け始める。そんなエドの様子に、アルは内心ニコリと
微笑む。
”姉さんをエサに、下僕が釣れるなんて、やっぱ、釣りは止められ
ないね〜。もっとも、下僕なんかに、大事な姉さんをあげないけど。”
どこまでも黒いアルは、どこまでも青い空を見上げながら、早く
元の身体に戻りたいなぁと、暢気に思った。