リトル・まぁあめ(豆)エド

                    第14話

 

            
                  草木も眠る丑三つ時。
                  テクテクとエドは回廊を歩いていた。
                  「明日には、ここともお別れか・・・・・。」
                  明日一番に、リザ姫の国へと出発すると聞き、
                  エドは最後に一言、ロイに別れの挨拶をしたいと
                  訴えたのだが、何故かリザ姫に却下されてしまったので、
                  皆が寝静まったこんな時間に、テクテクと歩いている。
                  いつもはロイの肩に乗って移動している為、
                  気づかなかったのだが、ミニチュアサイズでは、
                  1メートルを歩いても、かなりの距離だ。
                  千里の道も一歩から。
                  しかし、その一歩すら、ミニチュアエドにしてみれば、
                  途方もない距離である。
                  「ふえっ・・・・。ここどこ・・・・?」
                  キョロキョロと辺りを見回すも、同じ景色ばかりで、
                  気がつくとエドは迷子になっていた。
                  道を尋ねようにも、こんな時間では人の姿はない。
                  エドは途方に暮れてエグエグと泣き出してしまう。
                  「ロイ〜。ロイ〜。」
                  エグエグと泣きながら蹲るエドの身体が、フワリと
                  浮かび上がる。
                  「ほえっ!?」
                  慌てて眼をゴシゴシしながら顔を上げると、そこには、
                  優しく微笑むロイの顔があり、エドはポカンと口を開ける。
                  「ロ・・・ロイ?どーして?」
                  「エディが泣いている気がして。」
                  そう言ってロイはエドに頬擦りする。
                  「可哀想に・・・こんなに冷えて・・・。さぁ、寝室へ行こう。」
                  そう言ってスタスタと歩き出すロイに、エドは慌てて
                  叫んだ。
                  「ちょっと待って!俺、ロイにお別れを言いに来たんだ!!」
                  「エ・・・エディ!?」
                  その言葉に、ロイはギョッと眼を見開く。
                  「ロイ・・・今までありがとう。俺、明日の朝一でリザ姉様の
                  国へ行くんだ!。だから・・・お別れに・・・・。」
                  「だ・・・駄目だ!そんな事は許さない!!」
                  ロイは、慌てて首を横に振る。
                  「第一、君はまだ元に・・・・。」
                  「あのね!リザ姉様が治してくれるって!!」
                  ニコニコと微笑むエドに、ロイの目が細められる。
                  「リザ姫が治すと?」
                  「うん!!明日元に戻るって!」
                  その言葉に、ロイはニッコリと微笑む。
                  「そうか。おめでとう。エディ・・・・ところで、もっと早く
                  元に戻りたいとは思わないかね?」
                  「ほえ?」
                  キョトンとなるエドの頭を、ロイは優しく撫でる。
                  「実は先ほど、君を元に戻す練成陣を書き上げたんだ。」
                  「えっ!?本当!?」
                  パッ!!と眼を輝かせるエドに、ロイは胡散臭そうな笑みを
                  浮かべて大きく頷く。
                  「ああ。だから、早く元に戻って、リザ姫を驚かせよう。」
                  「うん!!ありがとう!ロイ!!」
                  全くロイを疑わずに、ニコニコと笑っているエドの姿に、
                  ロイはニヤリと笑うと、邪魔が入る前にと、足早に
                  寝室へと向かった。








                  「エドワードちゃん!!エドワードちゃんは何処!?」
                  眼を覚ますと、何故かエドの姿が見えず、リザ姫は
                  半狂乱になって、城中を隈なく探していた。
                  「リザ姫、どこを探してもいません!!」
                  朝早くから叩き起こされて、ハボックはヨレヨレに
                  なりながらも、愛するリザ姫の為と、城中を
                  駆け回っていたが、どこを探してもエドの姿が見えず、
                  顔面蒼白になりながら、リザへと報告する。
                  「そんな!!誘拐!?あんなに可愛いんですもの!
                  誰かお持ち帰り・・・・まさか!!」
                  サッと顔を強張らせると、リザはハボックに
                  剣呑な眼を向ける。
                  「王子の所は、勿論探したのでしょうね?」
                  「エッ!・・・あ・・・その・・・・。」
                  シドロモドロに眼を泳がせるハボックに、リザは
                  詰め寄る。
                  「どうなの!?はっきり言いなさい!!」
                  「す・・・すみません。王子の寝室はまだです!!」
                  その言葉に、リザは、顔を青褪めると、
                  ダダダダダと駆け出す。
                  「お待ち下さい!!リザ姫〜!!」
                  その後を慌てて追いかけるハボック。
                  しかし、ハイヒールを履き、なおかつ、ドレスを身に
                  纏っているにも関わらず、リザ姫の走る速さは
                  尋常ではなかった。あっという間に、リザの
                  姿が見えなくなった。
                  




                  「助けに来たわ!!エドワード・・・・・・
                  きゃああああああああああ!!」
                  バンと音を立てて扉を蹴破るリザだったが、
                  次の瞬間、絶叫を上げる。
                  「リ・・・リザ姫!?お気を確かに!!」
                  目の前の認めたくない光景に、リザは
                  眩暈を覚える。そこをすかさず
                  ハボックが支えた。確かリザの足に付いて
                  いけずに、置いていかれたはずだったが、
                  そこは、土地勘がものを言った。
                  最短距離を駆け抜けたおかげで、
                  何とか間に合ったようだ。身体の
                  あちらこちらに、くもの巣やら葉っぱなどが
                  ついてるのは、その証拠だ。
                  「・・・・・うるさいな。静かにしたまえ。
                  私のエディ
                  起きてしまうではないか。」
                  そう言って、ベットから身を起したロイは、
                  腕の中ですぴょすぴょとあどけない顔で眠っている
                  エドの顔を微笑みながら見つめる。
                  「ん・・・?ろ・・・い・・・?」
                  騒ぎに眼を醒ましたのか、トロンと眼を擦る
                  エドに、ロイは蕩けるような笑みと共に
                  口付ける。
                  「昨日は無理をさせたからね。まだ寝ていなさい。」
                  そう言って、これ見よがしに、むき出しのままの
                  エドの肩に布団を掛けると、ニヤリと笑いながら
                  今だ固まっているリザに声を掛ける。
                  「夫婦の寝室に乱入とは・・・・・・・
                  無礼ではないか?リザ姫?」
                  「な・・・な・・・な・・・・な・・・・・。」
                  パクパクと声にならないリザに、勝ち誇った
                  笑みを浮かべるロイは、鋭い眼光をリザの
                  傍らにいるハボックへと向ける。
                  「・・・・・いつまでいるつもりだ?」
                  「ひっ・・・・ひ・・・し・・失礼しました!!」
                  ガシッとリザを抱き抱えると、ハボックは
                  脇目も振らずに、走り出した。
                  ダダダダダダダ・・・・と物凄い勢いで
                  駆け抜けるハボックの後姿を見送ると、
                  ロイは優しい笑みをエドに向ける。
                  「危なかったな・・・・。後少し遅かったら、
                  エディを連れて行かれるところだった。」
                  実際、エドの術の効力が切れたのは、
                  リザ姫突入3分前だった。
                  すぐさまエドを自分が作成した練成陣の中に
                  放り込んで、人間にしたと同時に、聞こえてきた
                  足音に、ロイは咄嗟にベットの中にエドと共に
                  潜り込んだのであった。
                  大きくなった為に、当然着ていた服は
                  破れてしまい、エドは裸。
                  お陰で一夜を共にしたとリザに誤解させる
                  事が出来て、ロイは大満足だった。
                  「これで君は私だけのものだ・・・・・・。」
                  あどけない顔で眠るエドの額に、
                  ロイは軽く口付けた。









                  「嘘つき!嘘つき!ロイの嘘つき!!」
                  「エ・・・・エディ・・・・・。」
                  うわあああああああんと盛大に泣いているエドの
                  前には、項垂れたロイが座っていた。
                  「何で人間なんだよ!俺は人魚に戻りたいのに!」
                  元に戻すって言ったのに!
                  嘘つき!!
                  眼が醒めて、自分の身体が、元の人魚ではなく、
                  人間になっていた事に、エドはショックを受けて
                  朝から盛大に泣いていた。
                  「しかし・・・私は君が人間に・・・・。」
                  「言ってない!そんなこと言ってないもん!!」
                  うわぁあああああああああんと再び泣き出すエドを、
                  隣に座ったいるリザが優しく慰める。
                  「エドワードちゃん・・・。可哀想に・・・・。こんな
                  無能に騙されて・・・・・。」
                  ギュッとエドの身体を抱きしめながら、リザは
                  勝ち誇った笑みを浮かべながらロイをチラリと見る。
                  「今からでも遅くないわ。私の城にいらっしゃい。
                  きっと元の身体に戻れるように、私も協力するわ!」
                  「リザ姉様!!」
                  ビシッと抱きつくエドに、ロイは慌てて口を開く。
                  「ま・・・待ちたまえ!何故リザ姫の所へ行くんだ!
                  私が必ず元に・・・・。」
                  「戻せなかったでしょう?」
                  ロイの言葉を遮って、リザはニヤリと笑う。
                  「うわあああああああああん」
                  「エディ!!」
                  リザの一言で、再び泣き出すエドに、ロイは慌てて
                  エドをリザから奪うと、きつく抱きしめる。
                  「すまない。私は君が人間になりたいとばかりに
                  思っていたんだ・・・・。」
                  くすんくすんと鼻を啜るエドに、ロイは真剣な眼差しを
                  向ける。
                  「全ての責任を取ろう!エディ!私と結婚してくれ!!」
                  「え・・・結婚って・・・・・。」
                  戸惑うエドに、ロイは蕩けるような笑みを浮かべる。
                  「幸せにするよ。エディ・・・・。」
                  「ストォォォォォップ!!
                  エドに口付けようとするロイの頭を、リザは容赦ない
                  力で叩く。
                  「油断も隙もない!責任を取るイコール結婚!?
                  なんて短絡思考なの!?責任を取るとは、この場合、
                  エドワードちゃんを元の人魚に戻す!これしかないでしょう!?」
                  ドサクサに紛れて、己の野望を押し付けようとするなと
                  怒るリザに、ロイは負けじと言い返す。
                  「何を言う!こうなってしまったのは、全て私の
                  責任だ!これからのエディの人生に責任を持つのは
                  当たり前だ!」
                  ロイは真剣な目をエドに向ける。
                  「エディ。初めて逢った時から、君を愛している。
                  私の妻になってほしい。」
                  「この無能!!エドワードちゃんから離れなさい!!」
                  ロイがギュッとエドを抱きしめると、負けじとリザ姫が
                  二人を引き離そうと、エドの腕を取る。
                  「ふえっ!い・・・痛いよぉ〜。」
                  両方から腕を引っ張られて、溜らずエドは泣き出す。
                  「エ・・・エディ!!すまない!」
                  「ごめんなさい!エドワードちゃん!!」
                  泣き出すエドに、ロイとリザは同時に手を離す。
                  「痛かった・・・・。二人とも酷い・・・。」
                  クスンと鼻を鳴らすエドに、ロイとリザはシュンと項垂れた。
                  「すまない。君の事になると、どうも冷静な判断力が
                  なくなるようだ。」
                  怪我はしなかったかい?とロイはエドの手を取りながら
                  すまなそうに言う。
                  「う・・ん・・・。直ぐに手を離してくれたから大丈夫・・・。
                   ところで・・・その・・・結婚って・・・・。」
                  真っ赤な顔のエドに、ロイは優しく微笑む。
                  「勿論、私と君に決まっているじゃないか!」
                  ハッハッハッと笑うロイだったが、次のエドの言葉に、
                  固まってしまう。
                  「え・・・?だって、俺、婚約者いるし。」
                  「な・・・なにぃぃぃ!!
                  「なんですってええ!!
                  ロイとリザの声が見事にハモる。
                  「そんな馬鹿な!!エディは私の妻になると
                  生まれる前から決まっているのだぞ!?」
                  「生まれる前から決まってるのは、アルフォンスの方だぞ?」
                  キョトンと首を傾げるエドに、リザは恐る恐る尋ねる。
                  「アルフォンス君って・・・あなたの弟では・・・・。」
                  「ううん?アルじゃないって!従兄のアルフォンス・ハイデリッヒ
                  の方!」
                  ふるふると首を横に振るエドに、ロイの目が細められる。
                  「従兄?」
                  「うん!父さんの双子の弟が西の海王なんだ。その息子が
                  アルフォンスって言って、俺の婚約者なんだ!」
                  にっこりと微笑むエドに、ロイはガックリと肩を落とすが、
                  直ぐに何かを思いついたのか、リザにコソコソと耳打ちする。
                  「リザ姫、ここは一つ、共同戦線といこうじゃないか。」
                  「共同戦線?」
                  胡散臭そうに顔を歪ませるリザに、ロイは重々しく頷く。
                  「ああ、西の海の王子に輿入れされると、君はもうエディと
                  逢えなくなるんだぞ?そこへ行くと、私とエディが
                  結婚すれば、君はエディといつでも会えるじゃないか!」
                  「それは・・・確かに・・・・。」
                  グラリと気持ちが傾くリザに、ロイはもう一息とばかりに
                  畳み掛ける。
                  「それに、君とハボックが結婚すれば、一日中でもエディと
                  一緒にいられるんだぞ?」
                  こんな美味しい話は他にはないぞと、エサをちらつかせる。
                  「・・・・・仕方ありませんね。」
                  ため息をつくリザに、ロイは内心ガッツポーズを取る。
                  こうして、ロイ&リザ連合は一時休戦、共同戦線を張る
                  事になった。





                   その後、ちゃっかり既成事実を作ったロイは、
                   あっさりと出来た子どもをネタに、エドと結婚する事に
                   成功する。
                   
                   しかし・・・・・。

   
                   「リザ姉様〜。こっちのケーキも美味しいぞ?」
                   「あら、本当に!こっちのケーキも食べてみて?」
                   ロイ達と同時期にハボックと結婚したリザが、
                   毎日毎日城に押しかけては、エドにベッタリな度に、
                   ロイとリザのエドワード争奪線が勃発しているのは
                   別のお話。



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漸く完結しました〜。
機会があれば、これの番外編なども書いてみたいです。
キャスト
 人魚姫→エド子
 王子→リザ
 隣の国の王女→ロイ
というキャスティングでした。
人魚姫のわりには、原作を無視してます。
しかし、原作にもある、隣の国の王女(ロイ)の一人勝ちだけは
外さなかったと思うのですが、どうでしょうか?