逢いたくて・・・・逢いたくて・・・・・。
逢えなくて・・・・・・・。
1年前、土砂降りだった七月七日。
今年、満天の星空の七月七日。
1年前、二人で雨を眺めていた場所。
今年、たった一人で星空を眺めている。
東京と中国じゃ、夢通わせるのも、遠すぎる。
逢いたいのに・・・・・。
逢えない・・・・・・。
1年前に交わされた約束を、奴は憶えているだろうか・・・・・。
「京一のばかー!!」
テーブルの上に置いた子機に向かって、俺は悪態をつく。
「何が、ひーちゃんを絶対に離さねぇだよ。」
グビッと缶ビールを飲む。既に2・3、テーブルの下に缶ビールが
転がっているが、俺の心を占めているのは、明日の掃除ではなく、
ここ暫く音信不通の薄情な恋人のことだけだった。
「京一〜。会いたいよおぉぉぉ。」
ぎゅっと子機を握り締めると、俺はだんだんと意識がなくなるのを感じた。
やばい・・・・・。飲み過ぎ・・た・・・・・か・・・・・?
トゥルルルル・・・・
あれ?何だろう?音がなっている・・・・・。
もういいや・・・・。
眠いし・・・・・・。
「う・・・・ん・・・・。今何時だ?」
俺は眠い目を擦りながら、起き上がろうとして、何時の間にかベットに
寝ていることに気がついた。しかも、パジャマに着替えている。
「なんで・・・・・。」
俺、全然記憶ないぞ。もしかして、俺の隠された才能?・・・・な訳あるか。
飲み過ぎて、記憶が曖昧になっているだけだ。
「・・・・眠気覚ましに、水でも飲むか・・・・。」
水でも飲めば、少しは頭の回転も良くなるだろう。ついでに、着替えをして
ベットで寝た記憶も、思い出すかもしれないしな。俺はそう思い、軽く
伸びをすると、ベットを降りた。
「誰だ!」
ベランダに誰かいる。俺は反射的に身構えた。ベランダにいる奴は、俺の
声に、気がつくと缶ビール片手に部屋の中に入ってきた。
「よぉ。」
短い挨拶。逆光で顔が判らないが、その纏っている≪氣≫や声。
それだけで、誰だかわかる。でも・・・・・何故奴が・・・・?
「なーに、惚けてんだよ。ひーちゃん。」
まさか・・・・でも・・・・。
「夢・・・・なのか・・・・・?」
俺の言葉に、奴はゆっくりと俺に近付く。
「夢じゃねぇよ・・・・。龍麻・・・・・。」
京一の腕が伸びてきて、俺はきつく抱きしめられた。夢じゃない。夢じゃないんだ。
「京一!!」
俺は嬉しさのあまり、京一の頭を思いきり抱きしめた。
「・・・・・京一。何で・・・・・。」
どうして中国にいるはずの京一がここにいるのか。俺の疑問の声は、京一の唇に
よって、封じられた。先程のビールと荒々しい口付けによって、俺の思考は早々に
その役目を放棄する。焦がれていた京一が今、自分の側にいる。これ以上、
何を望むっていうんだ?俺は京一の首に腕を絡ませると、自分に引き寄せた。
その夜、俺達だけの七夕が、秘めやかに行われた・・・・・・・。
チチチチチチチ・・・・・・・・。
小鳥の囀りで目が醒めた俺は、慌てて飛び起きた。
「良かった・・・・。夢じゃない。」
傍らに眠る、愛しい京一の姿に、ゆっくりと俺の顔は綻んだ。
「京一・・・・。お帰り。」
起こさないように、そっと京一の頬に口付けをすると、いきなり抱きしめられた。
「へへっ。おはよう!ひーちゃん!」
「京一!お前、起きてたのか!!」
「それにしても、びっくりしたぜ。新宿についた時、電話しても出ねぇから、
てっきりまだ帰ってないのかと思って、部屋に行ったら、ひーちゃんが
子機を抱きしめて寝てるしよ。おまけに、寝ぼけて俺に悪態つくし。」
「そ・・・それは・・・・。」
真っ赤になった俺に、気を良くした京一が、強引に唇を重ねてきた。
「きょ・・・・京一・・・・。」
「会いたかった。ひーちゃん。」
漸く解放され、京一の胸に身体を預け、荒い息を吐く俺に、京一はニヤリと
笑う。
「さてっと。そろそろ、行くぜ。」
え?
「行くって・・・・中国?」
俺の問いに、京一は妙に晴れ晴れとした顔で頷いた。
「あぁ。まだ、修行が途中だしな。」
京一はベットから降りると、身支度をし始めた。そりゃあ、修行は早くても
五年くらいって聞いたよ。でも・・・・。
「何で、修行の途中で戻って来たんだよ。」
つい口調が責めるように、ぶっきらぼうになった。だが、京一はそんな事を
気にせず、振り返ると明るく言った。今はその明るささえも恨めしい。
「約束しただろ?一緒にいるって。」
約束を覚えていてくれたことは嬉しい。でも、また目の前からいなくなるなら、
帰って来るなよ。期待させておいて、突き放すなんて、そんなの残酷だ。
そうすれば、こんなに暗い気持ちにならずに済んだし、その方が、どれほど
救われたか。また1年、京一と会えないってこと、俺はもう耐えられそうに
ないのに・・・・・。
「・・・・なぁ、ひーちゃん。卒業式に俺が言ったこと、覚えているか?」
京一の言葉に、俺はのろのろと視線を京一に向ける。京一は真剣な表情で
俺を見つめていた。
「あの日、何故俺がお前を中国に誘わなかったのか、わかるか?」
そんなの知らない。俺は京一の視線に耐えきれずに、下を向く。
「俺がひーちゃんに中国に一緒に行こうって誘ったの、柳生の件が終わる前だった
だろ?」
そう。京一は確かに俺を誘ってくれた。だから、卒業式のあの言葉は、最初
信じられなかったんだ。
「俺、柳生を倒してからずっと考えていた。中国に来ることをひーちゃんが承諾したのは、
本心からだったのかって。」
「な・・・何言ってんだ?」
俺は驚いて顔を上げる。
「あの時、俺達は不安に押しつぶされそうだった。そういう状況での約束は、一時の
気の迷いかもしれねぇ。だから、暫く冷却期間を置こうって思ったんだ。お互いの心が
真実かどうか。」
そこで京一は言葉を区切ると、俺に近付き目線を俺に合わせた。
「俺は、龍麻を愛している。それに偽りはねぇ。だから、一緒に中国に来てくれ。」
真剣な表情で俺を見つめる京一に、俺は溜息をついた。
「京一の馬鹿。」
俺の言葉に、京一はウッと顔を顰めた。
「本当に、何考えてんだ?」
「ひーちゃん・・・・・。」
情けない顔の京一に、俺の怒りはさらに煽られた。
「お前みたいな奴は、頭なんか使うんじゃない!全く・・・・普段使わない頭を使うから、
こんなややっこしい事態になるんだぞ!わかってんのか!!お前みたいな単細胞は、
常に直感で行動してりゃあいいんだよ。・・・・・・フォローには、いつでも俺がいるし・・・。」
「ひーちゃん!!」
見る見る笑顔になった京一は、俺を抱き寄せた。
「京一。もう俺から離れないでくれ・・・・。」
「あぁ。絶対に<約束>は守る。もう、二度と離さねぇからな!!」
俺達は、二度と離れることのないように、きつく抱きしめ合った。
FIN.