「俺、ひーちゃんが好きだ!!」
夕闇迫る放課後の校庭。シュチュエーションばっちりの状況で、
蓬莱寺京一は緋勇龍麻に告白した。
「俺も、京一のこと、好きだよ。」
対する龍麻は、大輪の華を思わせるような、笑みを浮かべながら
頷いた。
「やったぜぇええええええー!!」
龍麻の言葉に、京一の絶叫が校庭に響き渡る。
クラブ活動を真面目に行なっている、一般生徒達は何事かと
2人に注目しているが、当の本人達は気にしない。なんせ、両想いに
なったのだから、そんな些細な事など眼中にない。ひたすら2人だけの
世界驀進中である。
「なぁ、今日ひーちゃんの家に行ってもいいか?」
「来るなって言っても、来るくせに。」
2人、じゃれ合いながら、校庭を後にする。後に残された一般生徒達は、
何事も無かったように、練習を再開する。
“ふふふふ。これでひーちゃんは俺だけのモン!”
まさに、この世の春を謳歌中の蓬莱寺京一、17歳。隣を歩いている
龍麻を横目で見つめながら、フフフと不気味な笑みを浮かべている。
その頭の中では、既に18禁的内容にまで想像を膨らませていた。
・・・・だがね、京一君。世の中、そんなに甘くないって、知っていた?
“おかしい・・・・。”
ここ数日、京一は悩んでいた。どれくらい悩んでいたかと言うと、
お昼寝タイムである、生物の授業にすら寝ずに、ひたすら起きて
考え事をしていた。その、あまりの不気味な、いや、珍しい光景に、
生物教師犬神杜人から、
「蓬莱寺、お前身体の具合が悪いんじゃないのか?」
と、心配されたくらいだった。
「京一、具合悪いのか?」
生物の授業も終わり、お昼休みになると、龍麻は心配そうに京一の顔を
覗きこんだ。
その拍子に、普段長い前髪で隠されている、龍麻の両目が露になる。
“ドキン”
途端、京一の中で押さえに押さえていた欲望が、溢れ出してきた。
“う・・・・やべぇ。もう限界かも・・・・・。”
「・・・・・ここじゃあ、場所が悪い。屋上にでも行こうぜ。」
そう言うと、龍麻の返事を聞かず、なかば引き摺るように龍麻を連れて
屋上に上がる。
幸いにも、屋上には他の人間の姿はなく、京一はさりげなく、ドアに
鍵をかけた。
「あのよぉ・・・・・・。ひーちゃん。お前、俺のこと何だと思っているんだ?」
「いきなり、何言ってんだよ。」
呆れ顔になる龍麻に、京一はさらに言葉を繋げた。
「いいから、答えてくれ。」
「・・・・・・相棒。」
龍麻の言葉に、京一はがっくりと肩を落とした。
「やっぱり・・・・・。」
「な・・・何だよ。その“やっぱり”って・・・・。」
京一は溜息をついた。
「やっぱ、おかしいと思ったんだ。ひーちゃんの言っている“好き”って、
あくまでも友情だったんだな。」
「京一?」
意味がわからず、首を傾げる龍麻に、京一は自嘲した笑みを浮かべた。
「俺は、恋愛対象として、ひーちゃんを好きと言ったんだぜ。」
「そんなの、知っているよ。」
あっけらかんと龍麻は答えた。
「・・・・・・・なんだってぇ?」
「だから、俺もこの前、京一が告白してくれて嬉しかった。俺も京一に
対して、恋愛感情を持っていたから。」
ニコニコと微笑みながら、龍麻はきっぱりと言った。
「・・・・・じゃあ、何で何も変わらないんだ?」
だんだんと京一の目が据わってくる。
「ひーちゃん、ぜんぜん触れさせてくれねぇし・・・・・・。俺、マジで悩んだ
んだけど・・・・。」
告白してOKもらっても、清い関係のままの今の状況に、京一は悩みに
悩んだのである。で、導き出された答えが、自分と龍麻の“好き”の意味が
違うのではないかっという事だったのだが、龍麻の告白に、京一は首を
捻るばかりだった。
「まっ、いいか。」
とにかく、龍麻も自分の事を恋愛対象として見ていることが分かって、少し
京一の機嫌が直る。京一は龍麻を引き寄せると、そっと唇を合わせようとした。
「八雲!!!」
あと数ミリで重なろうかという時、龍麻の技が見事に決まる。
「ひ〜ちゃ〜ん。何故なんだよぉおおおお。」
泣きながら自分に縋ってくる京一に、龍麻は真っ赤な顔をして叫んだ。
「キ・・・・・キスは駄目だっ!!」
「なんで!」
そうなのだ。京一が龍麻に触れようとする度に、龍麻は技を繰り出すのである。
おかげで、この短期間で龍麻のレベルはどんどんUPして、今ではレベル99を
誇っている。対する京一は、レベルこそ上がらないが、龍麻の技の実験台に
されているためか、防御力が確実にUPしていた。
「恋人同士なら、当然の行為だろ!」
「だ・・・だから・・・・・。」
真っ赤になった龍麻は、京一の視線から目を逸らすと、小さな声で呟いた。
「京一、今までいろんな人と付き合ってたんだろ?俺、初めてだから・・・・。
キスが下手だって、京一に嫌われるんじゃないかって・・・・・。」
「・・・・はぁあああ?」
そんな理由で拒まれていたのかと、京一は頭を抱えたくなった。だが、真っ赤に
なって俯く龍麻の姿に、京一は愛しさで一杯になる。
「ひーちゃん・・・・。」
そっと龍麻を抱きしめる。
「馬鹿だなぁ。俺がひーちゃんを嫌う訳ねぇだろ?それに・・・・・。」
掠めるように唇を合わせると、京一は不敵な笑みを浮かべた。
「へへっ。ごちそーさん。うまかったぜ。」
「きょ・・・京一!!」
真っ赤になった龍麻を、京一はきつく抱きしめた。
「あのよぉ。練習しなければ、いつまでたっても下手なまんまだぜ。ひーちゃん。
・・・・・・俺が教えてやるから、いいだろ?」
「京一・・・・。」
ゆっくりと2人の影が重なり、ようやく2人は相棒兼恋人へと発展したのだった。
FIN.