誓 い


 

            「へへっ。今日は俺の誕生日ってことは、ひーちゃんに
            無理なお願いしても、OKってことだよな!」
            う・・・・そうくるか、京一。にこにこと嬉しそうに笑うんじゃない!
            「そうだな・・・・何がいいかなぁ・・・・。」
            嬉々として考え込む京一に、俺はもしかして墓穴を掘ったのかと、
            少し、後悔し始めていた。うーん、京一の言う、≪無理なお願い≫って、
            口では言えないようなことだったりして・・・・・。
            京一の誕生日を祝いたいという気持ちは、誰にも負けない自信があるが、
            やはり、物事には限度がある。
            俺は内心の動揺を悟られまいとして、さり気なく話題を逸らそうとした。
            「あのさぁ、京一・・・・・・。」
            「よし、決まった!」
            えぇっ、もう決まったんですか?京一サン!少し早すぎやしませんか!
            年に一度の誕生日だぞ!もっと真剣に、なおかつ≪優しいお願い≫に
            してくれないかな・・・・・。
            仕方ないか。年に一度のことだし・・・・・。俺は覚悟を決めて、じっと
            京一が何を言い出すのか、固唾を飲んで見守った。
            「今日、江ノ島へ行こうぜ!」
            「江ノ島?」
            それのどこが≪無理なお願い≫なんだろう・・・・。
            「なんで江ノ島なんだ?」
            俺の疑問に、京一はただニヤニヤ笑うだけで、何も答えてくれない。
            江ノ島・・・・・って、ただの観光地だよなぁ。何か他にあったっけ?
            訝しげに思いつつも、俺は京一と江ノ島へと出かけていった。


            「うううう・・・・寒い・・・・。」
            やはり、冬の海は寒い。何で好き好んでこんな所にこなきゃいけないんだ。
            俺、実は寒いの苦手なんだよなぁ。文句の一つでも言ってやろうと、
            元凶である京一の方を向くと、勝手に一人で歩いているじゃないか!
            「京一!」
            俺の呼び声を無視して、京一は一人歩いていく。それが恋人への態度か?
            「ったく・・・・。」
            俺は溜息をつくと、慌てて京一の跡を追いかけた。

            「やっと、追いついた。」
            江島神社の辺津宮の大きな樹の所で、やっと京一に追いついた俺は、
            開口一番、京一に文句を言おうとしたが、京一の嬉しそうな笑顔に、
            つい見惚れてしまう。
            我ながら重症だな、これは。
            「よぉ、遅かったな。早速だが、これに名前を書いてくれないか?」
            嬉々として、俺に絵馬を差し出す。
            「何だよ、これ・・・・・。」
            「いいから。いいから。」
            京一は俺にペンを手渡すと、ニヤニヤ笑いながら、言った。
            「今日は俺の誕生日だろ?文句を言わずに書け。」
            そりゃ、そうだけど・・・・・。何で絵馬を書くことが・・・・・って、あれこの
            絵馬、普通のと違う。
            「これは、縁結びの絵馬なんだ。」
            京一の言葉に、なるほどと頷く。だから、絵馬にでっかくハートマークが
            書いてあるのか・・・・・。
            「今日で俺、18歳だろ?18と言えば、結婚できる歳なんだぜ。」
            意味深な京一の言葉に、俺はドキリとする。
            「俺は婚姻届なんて、ただの事務的なことだと思っている。それは今でも
            変わらないんだが、折角18歳になったんだから、ここは一つ、神様にでも
            誓っとこうと思ってな・・・・・。」
            確かに、男同士の俺達じゃあ、永遠に婚姻届なんてものとは、無縁だ。
            でも、絵馬だったら・・・・・?
            「これが、俺の≪無理なお願い≫だ。・・・・ひーちゃん、泣いてんのか?」
            泣くほど嫌だったのか?という京一の言葉に、俺は大きく頭を払った。
            「違う。違うんだ、京一。俺・・・・・。」
            嬉しくっても、人ってこんなに涙が出るものなのか。そんな俺を京一は
            優しく抱きしめてくれた。
            「俺、蓬莱寺京一は、緋勇龍麻を永遠に愛することを誓います。」
            耳元で囁かれる京一の真剣な声に、俺もにっこり微笑んだ。
            「俺、緋勇龍麻は、蓬莱寺京一を永遠に愛することを誓います。」
            俺の言葉に、京一は嬉しそうに微笑んだ。そして、お互いどちらともなく
            瞳を閉じると、大きな樹の下・・・・・縁結びの樹の下で、誓いの口付けを
            交わすのだった。



                                            FIN.