12月31日。龍麻の部屋の前では、龍麻と京一が言い争いをしていた。 「何でだよぉ。」 京一は思いっきり不服な顔で、龍麻を見た。 「だ〜か〜ら、何度も言ってるだろ。大晦日くらい、家に帰れ!」 対する龍麻は容赦なく、ドアを閉めようとしたが、京一に阻まれてしまった。 「俺の家は、ここだろうがっ!」 「京一・・・・。ごめん。」 龍麻は、そう言うと、京一の鳩尾に、容赦ない一撃を与えた。 「ぐ・・・・。」 崩れ落ちる京一に、龍麻はにっこり微笑むと、掠め取るようにキスをしながら、 京一の身体を軽く押し、さっさと扉を閉めてしまった。 「ひーちゃん・・・。そりゃないぜ・・・。」 その後、何度チャイムを鳴らしても、扉が開くことはなかった。 「今頃、京一は何をしているかな・・・。」 あと少しで日付が変わるという時刻、龍麻はのんびりとテレビを見ながら、 ふと京一の事が気になった。 「自分で決めた事とはいえ、やっぱ少し・・・かなり・・・寂しいな・・・。」 龍麻は溜息をついた。本当だったら、今頃は京一と一緒に年越しをする はずだったのに・・・。 「くそー!これというのも、全てあの派手な赤い学ラン男のせいだ! 明日は絶対に倒してやる!」 決意を新たに、龍麻は、そろそろ寝ようかとテレビのリモコンに手を 伸ばしかけた時、電話が鳴った。 「ったく・・・。誰だよ。こんな夜中に・・・。」 明日は大事な決戦なのだ。寝不足では赤学ラン男に、思いっきり怒りを ぶつけられないではないか。いいや。俺は寝る。誰だか知らないが、 俺は絶対に出ないぞ! 「・・・って、思いながらも、ついつい出ちゃうんだよなぁ・・・。」 誰からだろうと、何気なく表示されたナンバーディスプレイを見て、 龍麻は慌てて電話に出た。 「も・・・もしもし!」 「よぉ。出るの遅いじゃないか。ひーちゃん。」 少し笑いを含んだ、京一の声に、龍麻は安堵の息を漏らす。 “良かった・・・。京一、怒ってない・・・・。” 昼間、無理やり追い出した形になってしまって、内心京一が怒っているのではと、 少し心配していたのだ。 「なぁ、ひーちゃん。」 ピンポーン。 京一が何か言いかけたとき、玄関のチャイムが鳴った。 「ごめん。京一、誰か来た。」 龍麻は保留ボタンを押すと、玄関へと急いだ。 「夜分遅くすみません。宅急便ですが、お届物です。」 “こんな時間に?” 訝しげに思いながらも、龍麻は玄関の扉を開けた。すると、そこには、 携帯を片手に、京一が微笑んで立っていた。 「よぉ!こんばんわ。ひーちゃん。」 「京一・・・。何で・・・。」 呆然と立ち尽くす龍麻の横を京一は擦り抜けると、さっさと部屋の中に入ってしまった。 「ちょっと待て!京一。」 慌てて追いかけると、京一はコートをベットの上に脱ぎ捨てていた。 「外、すごく寒いぜ。やはり家は暖かくっていいな。」 「京一、俺の質問に答えろ!お前、実家に帰ったんじゃなかったのか?」 睨みつけてくる龍麻に、京一は真剣な顔になると、龍麻を抱き寄せた。 「ちょ・・京一!」 「ひーちゃん。何故俺を今日実家に帰らせようとした?」 「そ・・・それは・・・。」 目を逸らそうとする龍麻を許さずに、京一は龍麻の顎を持ち上げると、龍麻の顔を 覗きこんだ。 「どうせ、ひーちゃんの事だから、決戦を前に、家族水入らずで過ごさせようとか、 思ったんだろう?」 図星を指されて、龍麻は何も言えずに黙り込んだ。そんな龍麻に京一は苦笑すると、 龍麻の左手の薬指に 嵌められている、指輪に口付けた。 「ひーちゃん・・・。俺を見くびるなよ。俺達は・・・絶対に死なない。どんなことがあっても 行き抜いてみせる。」 「京一・・・。」 不安げに揺れる龍麻に、京一は不敵な笑みを浮かべる。 「それに、俺は執念深いんだ。苦労して、やっと手に入れたひーちゃんを、手放すなんてこと する訳ないだろ?」 日付が変わる10秒前。部屋に流れるテレビの音が、カウントダウンを始めた。 10・・・・。 「なぁ、俺達、誓い合っただろう。」 9・・・・・。 「卒業したら、一緒に中国へ行くって。」 8・・・・・。 「・・・・・・・・。」 黙ったままの龍麻に、京一は耳元で囁く。 7・・・・・。 「俺・・・、それを信じている。」 6・・・・・。 「ひーちゃんも・・・。」 5・・・・・。 「信じてくれないか?」 4・・・・・。 真剣に見つめる京一に、龍麻は微かに頷く。 3・・・・・。 「ひーちゃん・・・。」 2・・・・・。 「京一・・・・。」 1・・・・・。 お互いを見つめていた瞳が、ゆっくりと閉じられる。 0・・・・・。 カウント0。二人の影が一つに重なった。 FIN. |