「明日、晴れそうだな。」
夕食が終わり、2人並んでベランダでコーヒーを飲みながら
夜景を見ていると、京一が月を見上げながら、ポツリと
呟いた。その言葉に、俺も釣られるように月を見上げた。
「明日、とうとう卒業かぁ・・・・・。」
俺にとっては、たった1年だが、京一にとっては3年間通った
学校だ。俺よりもずっと感慨深いだろうなぁ・・・。
そんな事を考えている俺に、京一は能天気な事を言う。
「これでやっとひーちゃんと2人っきりだな♪」
・・・・・・・・・・・。
・・・・・・・・・・・。
・・・・・・・・・・・。
はぁ?それが卒業式を前日に控えた、卒業生の言う台詞かぁ?
もっと、こう、何て言うか、一抹の寂しさとかないのかよ。
「あのさ・・・・京一・・・・・。」
「ん?どうした?ひーちゃん。そんな呆れた顔をして。」
「だって・・・・。」
俺は上目遣いに京一を見ながら、疑問を口にする。
「それだけか?」
「それだけって?・・・あぁ、そうか。」
京一はポンと手を打つと、俺に右手を差し出した。
「?」
訳が判らず首を傾げると、京一はニヤリと笑いながら、言葉を
続けた。
「くれっ!!」
「・・・・・・・何を?」
京一さん。俺、全然話が見えてないんですけど・・・・・。
「何って・・・卒業と言ったら・・・・。」
「まさか、俺から卒業祝いを取る気じゃ・・・・。」
何で俺がお前に卒業祝いをあげなくっちゃいけないんだ?
第一、俺だって卒業生だぞっ!!
「違うって。早トチリすんじゃねーよ。ひーちゃん。」
ククク・・・・と笑う京一を俺は睨んだ。
「じゃあ、何だよ・・・・。」
頬を膨らませる俺に、京一は真剣な表情で言った。
「ボタン。」
「ボタン?」
俺の言葉に、京一は大きく頷いた。
「そっ。第2ボタン。やっぱ卒業式には、好きな子の第2ボタン
だよな!!だから、俺にひーちゃんの第2ボタンをくれ。」
「何だそんな事か。いい・・・・・。」
いいと言いかけて、次の瞬間、ある事に気付いて、俺は
慌てて首を横に振った。
「駄目!!絶対に駄目だっ!!」
俺の急変に、最初驚いて眼を丸くさせていた京一だったが、
だんだんと眼が据わってきた。ひぇええええ〜。怖いよぉ〜。
「何でだよ。ひーちゃん。」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」
理由を聞かれて、俺は黙り込んだ。そんな俺の態度に、ますます
京一の瞳に凶悪な光が宿る。
「・・・・・・・・・誰かにあげるのか?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」
黙ったままの俺を、京一は乱暴に抱き上げると、そのままベットへと
向かう。
「・・・・・京一・・・・・?」
「言いたくなければ言わなくてもいい。その代わり。」
そこで言葉を区切ると、ニヤリと笑う。
「手加減なしだぜ。」
そのまま乱暴にベットの上に降ろされた俺に、京一は不敵な笑みを
浮かべながら、覆い被さろうとした。
「言う!正直に言うからっ!!」
俺は必死に京一から逃げようと、身体をバタバタさせた。
「だから、くすぐるのだけは止めろ〜!!」
「へへっ。じゃあ、誰にあげるんだ?」
ニコニコと笑いながら、京一は再び問いかけた。俺の目の前に
猫じゃらしをちらつかせながら。
「・・・っていうかさぁ・・・・。交換したんだ・・・・。」
「誰とっ!!」
俺はゆっくりと指で京一を指す。
「京一と。」
「へっ?」
鳩が豆鉄砲をくらったような顔で、京一は俺の顔をまじまじと
見つめた。あまりにもじろじろ見るから、俺は居心地が悪くなって、
口早に事の顛末を語った。・・・・・・本当は言いたくないんだけど。
「だ・・・だからさ・・・・明日は卒業式だろ。きっと女の子達、京一の
第2ボタンを狙っているからさ・・・・。その・・・取られる前に・・・。」
「取れってか?」
京一の言葉に、俺はコクリと頷いた。途端、力強く京一の胸に
抱きしめられた。
「ひーちゃん。メチャメチャ嬉しいぜ!!」
京一は素早く俺の顎を持ち上げると、唇を押し付けてきた。
充分俺の唇を堪能すると、名残惜しげに唇を離し、ニヤリと笑う。
「明日は大変だな。お互い第2ボタンを死守しなければならないし。」
京一はゆっくりと右手を俺のパジャマのボタンにかける。
「絶対に、ボタンを取られるなよ。」
京一の言葉に、俺はニヤリと笑う。
「京一こそ・・・・・。」
俺は、京一の首に腕を絡ませると、ゆっくりと瞳を閉じた。
FIN.