「カボチャ〜♪カッボッチャ〜♪カボチャ大王〜♪」
キッチンから聞こえてくる龍麻の歌声に、買い物から帰った京一は、苦笑しながら上がると、キッチンの中を覗き込んだ。
「かっぼちゃ〜畑に〜カボチャ大王が現れて〜♪」
上機嫌で自作の『カボチャ大王』の歌を歌っている龍麻は、そこに京一がいることに気づかないで、先ほどからカボチャと格闘していた。
「へへっ。こんなにいっぱいカボチャがあると、作り甲斐があって、楽しいな♪」
中身を刳り貫いたカボチャに、眼と鼻と口をつけながら、龍麻は嬉々として、包丁を握る。
「よっ!只今!ひーちゃん!」
「うわああ!!」
いきなり、背後からかけられた声に、自分の世界にどっぷり浸かっていた龍麻は、驚いて、包丁を落としそうになる。
「おっと。危ねぇ。」
寸でのところで、京一の腕が伸びてきて、龍麻から包丁を奪い、まな板の上に載せた。
「急に声をかけるなよ。危ないなぁ。」
「すまねぇな。ひーちゃん。」
そして、そのまま京一はただいまのキスを、龍麻の頬にする。
「たくさん作ったな。カボチャ提灯。」
背後から覗き込む状態で、京一はカボチャ提灯の多さに、感嘆の声をあげる。
「どうだ?うまいだろ?」
得意げの龍麻に、京一は微笑んだ。
「手、痛くねぇか?」
さすがにこれだけの数のカボチャ提灯を、一人で作るとなると、手に負担がかかるに違いない。そう思い、京一は龍麻の手を取る。
「大丈夫だって。」
「大丈夫じゃねぇだろ?ほら、ここに切り傷作っているじゃねぇか。」
左手の薬指の傷に、京一は顔を顰めると、傷をペロリと舐めた。
「きょ!!」
途端、真っ赤になる龍麻に、京一はククク・・・と、笑う。
「消毒だよ。しょーどく♪」
「・・・・・・。そう言えば、ちゃんと頼んだもの、買って来てくれた?」
照れ隠しに、龍麻はそそくさと逃げるように、スーパーの袋を持って、リビングへと向かう。
「あぁ、ばっちり!」
袋から商品を取り出しながら、龍麻は満足そうに頷いた。
「うん!全部OK!・・・あれ?それは?」
ふとソファーの上に置いてある、東急ハンズの袋に、龍麻は不信そうに、手を伸ばすが、それよりも前に、京一が龍麻の目の前から取り上げる。
「これは、明日の夜のお楽しみだ。」
「えーっ。なんで?いいじゃん。今見たって。」
不服そうな龍麻に、京一は笑うだけで、それ以上、何も答えようとしない。
「それよりも、さっさとカボチャ提灯を作らないと、明日のハロウィンに間に合わないぞ。」
そんなことを言われ、龍麻はしぶしぶキッチンに戻る。その後姿を、京一は、満足そうに微笑んだ。