「なぁ、ひーちゃん。」
京一が、いきなり抱きついてきたと思ったら、ギュッと俺を抱き締めた。
「何?京一。」
ご飯食べたし、お風呂入ったし、歯を磨いたし、見たい番組も終わったし、何か他にあったっけ?
そんな事をつらつらと考えていたら、不埒な京一の手が、俺のパジャマの中に忍び込んできた。
「ちょ・・・。京一、明日体育があるから、今日は何もしないって・・・・。」
俺の抗議の声は、京一の唇によって、行き場を失う。
「なぁ、ひーちゃん。」
ゆっくりと京一が俺の耳を舐める。そして、そのまま耳元で囁くように尋ねる。
「ひーちゃんの、ファーストキスって、いつ?」
「な・・・・。」
あまりな言葉に、俺は反射的に京一から離れると、まじまじと京一の顔を凝視した。
「な・な・何・・言ってんだよ・・・・。」
辛うじて、漸くそれだけを言う。
「いつなんだ?」
対する京一は、馬鹿の一つ覚えのように、繰り返す。
京一の馬鹿っ!そんなの言えるかっ!
「きょ・・京一が初めてだなんて、言えるかーっ!!」
俺の秘拳黄龍が、見事に決まる。あっ、ドサクサに紛れて、言っちゃった。まっ、本人聞いちゃいないだろうな。
と、思ってたら、ニヤニヤした顔で、京一が復活した。
「へー、そうかー。俺がひーちゃんの<初めて>なのかぁ。」
う・・・煩い。俺は真っ赤になりながら、反撃した。
「そういう京一はどうなんだ?」
言ってしまって、俺は後悔した。俺と違って、モテる京一は、男だろうが、女だろうが、よりどりみどりで、キスの一つや二つ。Hの100や200あっても不思議じゃない。嫌だな・・・。だんだん気分が落ちこんできた・・・。
項垂れる俺に、京一は優しく抱き締めてくれた。
「俺のファーストキスって、ひーちゃんだぜ?」
え?嘘。
俺は、驚いて顔を上げた。
「嘘だ。」
上目遣いで睨む俺を、京一は笑った。
「本当だって。俺も最近気づいたんだけどさ。」
最近気づいた?何だ?それ?
「ひーちゃん、小学校の時、海で溺れそうになっただろう。」
そういえば・・・・・そんな事があったような・・・。確か、親類の家に遊びに行った時、溺れて・・・一緒に遊んでた子が助けてくれたんだっけ。
「あん時、ひーちゃんを助けたのは、俺。」
「へ?・・・京一〜?」
驚く俺に、ニヤリと京一が笑う。
「そっ。ちゃんと人工呼吸までした仲なんだぜ?俺とひーちゃん。」
「な・・・。そんな・・・。お前があの、キョーちゃん?」
「そうだぜ。ひー・ちゃ・ん♪」
京一は俺の顎を捉えると、軽く唇を重ね合わせた。
「へへッ。今日アルバムの整理しただろ?それで気づいたんだ。ひーちゃんが、あの時のひーちゃんだってさ。」
あぁ、だから今日一日、京一は俺を見てニヤけていたのか・・。
「やっぱ、俺とひーちゃんって、運命の恋人なんだって、感動したぜ。」
そう言いながら、京一の手は、ゆっくりと俺の身体を這う。
「きょ・・京一・・・・。」
明日体育だから、痕をつけるな・・・っていいたいけど、何か、そんなのどうでも良くなってきた。だって、京一じゃないけど、ちょっと感動したりして・・・。まっ、明日の事は明日考えよう!
俺は京一の唇が降りてくるのに気づいて、そっと瞳を閉じた。
FIN.