夕飯を食べ終わった京一は、のんびりとテレビを見ていた時だった。 キッチンで後片付けをしていた龍麻が、青い顔をして、リビングに戻って来た。 「ねぇ、京一・・・・。」 龍麻の声に、京一は振り返った。 「どうした?ひーちゃん。」 その姿が、今にも消えてしまいそうで、京一は慌てて龍麻の側に寄ると、ギュッとその細い身体を抱き締めた。 「・・・・俺、ここにいるよね・・・。」 「ひーちゃん?」 龍麻は、目の前にいる京一を見ずに、どこか遠くを見ているように、意味不明の言葉を呟いた。 「・・・・俺は・・・。」 京一は、無言で龍麻の身体をきつく抱き締めた。 「大丈夫だ。ひーちゃん。」 そして、耳元で囁く。 「ひーちゃんは、ずっと俺の側にいるんだ。絶対に離さない。」 龍麻は、まるでそれが命綱であるかのように、きつく京一の背に腕を回した。 「・・・・不安なんだ・・・。」 ポツリと龍麻は呟く。 「一体、どちらが<本当>で、どちらが<夢>なのか・・・・。」 「・・・何の話だ?」 京一は、龍麻の顔を覗き込むと、ハッと息を飲んだ。その時、龍麻の顔に、表情というものはなく、精巧な人形か何かのようで、京一を不安にさせた。その不安を打ち消すかのように、京一は龍麻の身体を抱き締める。 ドクン・・・。 ドクン・・・・。 規則正しい、龍麻の心臓の音に、京一は、ホッと安堵の溜息を洩らす。 「なぁ、ひーちゃん。詳しく話してくれないか?」 何がそんなに、不安なのか・・・。 京一の言葉に、龍麻はポツリと話し始める。 自分が<新宿>へ転校する前に、事故にあったこと。 今も、身体の傷は癒えずにいること。 そして、自分がいる場所は、寝殿造りの屋敷で、庭には、いつも櫻が狂い咲いていること。 <夢>か<現実>かの区別が、時々つかなくなることなどを、龍麻は言葉少なく語った。 全てを聞き終えて、京一は龍麻を抱き締めながら言った。 「俺がいるこの<世界>が、現実に決まっているだろ?」 それでも、まだ不安そうな龍麻に、京一はニヤリと不敵な笑みを浮かべながら、口付けする。 「それに、例え<ここ>が<夢>でも、俺は必ず、お前がいる<現実世界>へ行ってやる。ずっと、お前といる為に・・・・。」 「・・・京一・・・・。」 ゆっくりと近づく京一の首に腕を回しながら、龍麻は不安に押しつぶされそうな心と、必死に戦っていた。 “絶対だよ・・・。京一・・・。早く、俺を迎えに来て・・・・。” だんだんと深まる口付けに、龍麻は立っていられなくなり、二人は縺れるように、床に倒れ込んだ。 I miss you ・・・。 <夢>と<現>の狭間。 でも、この<想い>だけは<真実>。 あなたと、ずっと一緒にいたい・・・・。 |