奇跡を夢見た少女の死・・・。 “ククク・・・。悔しかろう。哀しかろう。かの者の死は、そなたの傲慢さが招いたもの・・・。所詮<人>の力とは、その程度のもの。真に<救える>訳はないのだ・・・・。さぁ、その苦しみ、痛みから、そろそろ我が救ってやろう・・・。クククク・・・・。” 闇の中、龍麻の脳裏に響く声。 “さぁ、我に全てを委ねよ・・・・。” 聞きたくなくって、龍麻は眼を固く瞑ると、両耳を塞ぐ。 “クククク・・・。無駄な事を・・・・。” 嘲笑う“声”に、龍麻はたった1人の名前を呟き続ける。 「助けて・・・。助けて・・・。京一・・・・。」 自分の傲慢さが招いた、彼女の“死”に、龍麻はショックを隠し切れない。一人、真っ暗な部屋の片隅に、膝を抱えて蹲っていた。そんな龍麻を心配した、他の仲間たちは、入れ替わり立ち替わり、龍麻の部屋の前まで来るが、当の本人は部屋から一歩も出ようとしない。そんな状況での、三日目の夜のこと。いつもなら、煩いくらいのチャイムの音が、この日に限り、たった一度しか鳴らなかった。不信に思った龍麻が、そっとドアを開けると、部屋の外には、誰もいなかった。 「なんだ・・・。気のせいか・・・。」 再び扉を閉めようとしたが、その前に、強引な力によって、扉は再び大きく開け放たれた。 「!!京一!!」 見ると、コンビニの袋を手にした京一が、不敵な笑みを浮かべながら、勝手知ったる何とかで、部屋に上がり込む。龍麻は、慌ててその後を追うが、京一は勝手にキッチンへ入ると、お湯を沸かし、持っていた袋から、カップラーメンを2つ取り出すと、鼻歌まじりに、バリバリと袋を開けた。 「京一!」 龍麻の怒鳴り声を無視しながら、京一は手早くカップラーメンの蓋を開け、中に粉末スープを入れようとしたが、龍麻に腕を掴まれる。 「京一、どういうつもりだ?」 睨みつけてくる龍麻を、京一は無言で見つめると、ポツリと呟いた。 「・・・・メシ・・・だろ。」 よく聞き取れなかった龍麻は、訝しげな視線を向ける。そんな龍麻に、京一はもう1度呟いた。 「・・・メシ、食うだろ。」 「・・・悪いが、今はそんな気分じゃ・・・。」 ない。と呟こうとしたが、京一の鋭い視線に、龍麻は口篭もる。 「・・・悪ィな。もう、開けちゃったんだよ。」 京一は、手早く粉末スープをカップラーメンの中に入れると、丁度湧いたお湯を注ぎ、カップラーメンを両手に持つ。 「ひーちゃん。俺、両手塞がってんだ。悪いが、箸を2膳持ってきてくれ。」 そう言うと、京一は、そのままリビングへと向かう。龍麻は言われたように、箸と、ついでに冷蔵庫から、ペットボトルのコーラとコップを2個持つと、京一の後をのろのろと追う。 「これ、新商品なんだってよ。」 テーブルの上に、カップラーメンを二つ並べながら、京一は龍麻を振り返ると、ニッと笑った。 「・・・・。」 だが、龍麻は無言のままに、テーブルの中央にコーラを、ラーメンの前にそれぞれ箸とコップを置くと、京一の前に座った。 「“わさびラーメン”か・・・。旨そうだな。」 「・・・・・・。」 「ひーちゃんってさぁ、わさび平気だったよなぁ。」 「・・・・・・。」 ずっと無言のままの龍麻に、京一は溜息をつくと、チラリと時計を見て、慌ててラーメンの蓋を開けた。 「もう、3分、過ぎたぞ。」 ラーメンを啜る京一を、ぼんやりと眺めながら、龍麻はポツリと呟いた。 「・・・俺に、何か言う事ないのか?」 「・・・あるぜ。」 京一は、食べていた手を休めると、ニヤリと不敵な笑みを浮かべる。 「麺が延びる。早く食え。」 そして、また食べることを再開する。そんな京一の姿に、龍麻は穏やかな笑みを浮かべると、ラーメンの蓋を開けた。 わさびの辛さか、京一の優しさか、龍麻はラーメンを啜りながら、溢れてくる涙を、拭おうとはしなかった。 「・・・・なぁ、ひーちゃん。」 夕飯が終わり、龍麻が落ち着いたところを見計らったように、京一は龍麻の顔を真剣な表情で見つめた。 ドキッ。 その真剣な表情に、一瞬京一に見惚れてしまった龍麻の隙を見逃さず、京一は簡単に龍麻を腕の中に収めることに成功する。 「きょ・・・京一!!!」 慌てて離れようとする龍麻を許さずに、京一は抱き締める腕に力を込める。 「・・・・ひーちゃん。俺の薄っぺらい胸で良ければ、貸してやる。だから、思いっきり泣いてもいいんだぜ・・・・。」 「京一・・・・。」 京一の優しさが嬉しくて、そのまま本当に泣きそうになったが、龍麻は何とか堪えると、京一に微笑んだ。 「その気持ちだけで十分。俺は大丈夫だから・・・。」 「どこがだよ!!」 京一は龍麻を怒鳴ると、その顎に持ち上げると、射るような瞳を向けた。 「こんなに辛そうで、どこが大丈夫だってんだよ!いいから、泣いちゃえよ!」 「・・・京一・・・。」 「1人で、何でも抱え込んで、そんなに俺達が・・・俺が頼りにならないのかよっ!!」 京一は、龍麻の顎を捉えたまま、乱暴にその唇を塞ぐ。 「ん・・・。」 龍麻の唇と舌でこじ開けると、逃げる龍麻の舌を絡み取る。何度も角度を変え、十分に龍麻の唇を堪能した京一は、漸く唇を離すと、呆然と自分を見上げている龍麻に向かって呟く。 「愛している・・・。」 「京一・・・・。」 京一は再び龍麻の唇を塞ぐと、ゆっくりと床に龍麻を押し倒した。その頃になって、漸く自分が置かれた状況を理解した、龍麻はなんとか京一の手から逃れようと、必死に暴れるが、それが逆に、京一の征服欲に火を点けた。 「嫌・・・。京一・・・・。」 何時の間にか、両手を1本に纏められて、ベルトで括りつけられている状況に、龍麻は恐慌状態に陥っていた。 「嫌だ!京一!!」 「嫌じゃねぇだろ?」 龍麻の首筋に顔を埋めながら、ゆっくりと龍麻のシャツを脱がしていく。頭の上で両手が束ねられているため、中途半端にしか脱がせられないのだが、それがかえって、淫乱な印象を与える。 「京一・・・お願い・・。止めて・・・。」 嗚咽まじりの龍麻の哀願が、京一の牡を、適度に刺激して、京一は知らず微笑む。京一は龍麻の首筋から、胸へと唇を移動させると、所有の印をつけることに夢中になっていく。真っ白な雪に、最初に足跡をつけるような感覚で、龍麻の白い肌は、みるみるうちに、京一がつけた所有の印がくっきりと浮かび上がる。 「はっ・・あっ・・・。」 龍麻の表情に、快楽の色を見て取った京一は、一気にズボンと一緒に、下着を剥ぎ取った。 「嫌・・・京一・・・。」 急に外気に晒され、龍麻は一瞬、正気に戻りかけるが、次の瞬間、龍麻 自身に手を触れた、京一の手によって、再び快楽の波へと誘われる。 「龍麻・・・・。」 龍麻の耳元で、京一の熱い声が聞こえる。 「龍麻・・・。」 龍麻の蕾に、京一の指が侵入してきても、朦朧とした意識の龍麻には、それから逃れる術を持たなかった。 「はっ・・あ・・・くっ・・・。」 十分、慣れた頃を見計らって、指を引き抜くと、京一は自身を深深と龍麻の身に沈ませる。 「龍麻・・・。」 貫かれたショックから立ち直りつつある、龍麻の額に軽く口付けると、京一はゆっくりと動き出す。徐々に激しくなる動きに、龍麻はただ鳴きつづけることしかできず、悔しくて京一の背に爪痕を残す。 「龍麻、嫌なことは、全て忘れるんだ・・・・。俺が守るから・・・。」 意識を手放す瞬間、京一の優しい声を聞いたと思った。 次に龍麻が目覚めた場所は、自分のベットの上だった。身体を綺麗に清められ、真新しいパジャマに身をつつんだ龍麻は、ゆっくりと視線を動かすと、心配そうな顔で枕元に座っている京一と眼が合った。 「・・・・言っておくが、俺は謝らないぞ。」 真剣な表情の京一を、龍麻は無言で見返す。 「俺は、お前を抱きたいと思った。だから抱いた。」 迷いのない京一の瞳に、龍麻は溜息をつくとポツリと呟いた。 「・・・・比良坂が死んだのは、俺のせいだ。」 「ひーちゃん・・?」 突然の話の展開についていけず、京一は困惑する瞳を向けた。それに関わらず、龍麻は直も言葉を繋げる。 「俺は、思い上がっていたんだ。人を救えるなんて・・・。」 だんだんと涙声になる龍麻の身を起こすと、京一はそっと腕の中に抱き締めた。 「その傲慢な俺の態度が、結果として比良坂を死に追いやった。」 「・・・・ひーちゃん。それは違うぜ。ひーちゃんは、精一杯頑張ったじゃねぇか・・・。」 京一の言葉に、龍麻は首を横に振る。 「・・・俺は馬鹿だ・・・。」 静かに涙を流し続ける龍麻の頬を、京一は平手を打つ。 「京一・・・・。」 驚いて顔を上げる龍麻に、京一は慈愛の眼差しを向ける。 「馬鹿なら、馬鹿でいいじゃん。ひーちゃんがいくら後悔しても、過去は消せねぇ。それよりも、大事なのは、同じ事を繰り返さないって事だぜ。」 「・・・・・・。」 「なぁ、もっと俺を頼ってくれ。」 龍麻は、じっと京一の顔を見つめる。そんな龍麻の頬に、京一は軽く口付ける。 「愛している。ひーちゃん。」 「・・・・京一・・・・。」 龍麻は、深呼吸をすると、キッと京一を睨みつけた。 「京一、一つだけ約束出来るか?」 「約束?」 龍麻は大きく頷く。 「京一、死なないよな。俺を残して。」 「ひーちゃん・・・。」 驚く京一の胸に、龍麻は自分から飛び込むと、その胸に顔を埋めた。 「俺、ずっと不安だった。比良坂は、俺の所為で命を失った。今度は京一が、俺の所為で命を失うんじゃないかって・・・・。」 京一は、震えている龍麻の身体を抱き締めた。 「大丈夫だ。絶対に俺は死なない。ひーちゃんを1人残すなんてことは、絶対にしない。誓うぜ・・・・。」 「京一・・・・。好き。初めて会った時から・・・ずっと・・・・。」 龍麻の告白に、京一は、幸せそうに微笑むと、龍麻の顎を持ち上げて、ゆっくりと唇を重ねた。もっと京一を感じたくて、龍麻は腕を京一の首に絡ませた。 I miss you ・・・・。 例えあなたが<夢の住人>でも構わない。 今、この瞬間に、<全て>をかけているから・・・・。 |