I miss you ・・・。

 

                  第6話

 

 

          I miss you ・・・。 
          何故、君は目覚めないんだろう・・・。
          I miss you ・・・。
          君に逢いたいよ。
          I miss you ・・・。
          逢って、この<想い>を伝えたい・・・。




         緋勇龍麻が事故にあってから、既に季節は秋へと変わっていた。
         龍麻の近状報告を龍麻の養父母へ報告するため、京都にやってきた
         壬生紅葉は、立ち止まると、今にも降り出しそうな空模様に、形の良い
         眉を顰めた。
         「・・・降ってくるか・・・。」
         今日の天気予報は、たしか1日中晴天であったはずだが・・・と記憶していた
         のだが、どうやらまた外れたらしい。ここ数日、ごく一部の地域において、
         天候が著しく不安定になっており、昨日のテレビでも、気象予報士が、
         首を傾げていた。
         “<敵>の攻撃か・・・それとも・・・・。”
         森羅万象を司る<黄龍の器>である龍麻の不調によるものなのだろうか。
         そこまで考えて、壬生は溜息をついた。
         「何故・・・目覚めないんだ。龍麻・・・。」
         身体の傷も癒えたはずなのに、何故か目覚めない龍麻。西の陰陽師の
         棟梁の言葉では、魂があるものに囚われているらしい。
         「あるものって、何なんだ・・・。」
         それは、龍麻にとって、良い事だと言われても、壬生は納得できなかった。
         龍麻が目覚めない事が、既に壬生にとって<悪>なのだ。
         “一体、何が起こっているんだ・・・。”
         <敵>の正体も判らず、龍麻も眠りについている状況は、壬生に猜疑心を
         生む。そんな心の隙間を縫うように、囁かれる言葉。

         “龍麻ガ目覚メナイノハ、結界二閉ジ込メラレテイルカラ・・・。”
         “結界カラ出レバ、目覚メル・・・。”
         “結界カラ出レバ・・・・。”
         “結界ヲ・・・。”
         “結界ヲ壊セ・・・・。”
         “破壊セヨ!!”

         「結界を・・・破壊・・・・。」
         闇の触手に心を絡め取られ、一瞬気の遠くなった壬生の耳に、明るい声が
         聞こえてきたのは、その時だった。
         「ちょっと!!京一!早くきなよ!置いてくよ!!」
         ハッと我に返った壬生が顔を上げると、男女二人づつの集団が、ガイドブック
         片手に騒ぎながら歩いてくるのが見えた。どうやら、修学旅行らしい。
         「ったく!!雨降りそうなんだから、早く歩いてよね!!」
         髪の短い茶髪の女生徒が、ガイドブックを丸めて、やや遅れて歩く、茶髪の
         男子生徒に食ってかかる。
         「うっせえぞ。小蒔。」
         そんな二人のやり取りを、半ば呆れながら、長い黒髪の女生徒が、クスクス笑う。
         その女生徒の横を歩いている、図体の大きい男子生徒が、腕を組みながら、
         茶髪の男子生徒に何やら話している。
         その集団とすれ違う瞬間、壬生は良く見知った顔を見た気がして、慌てて後ろを
         振り返った。だが、4人の後姿に見覚えはなく、壬生は溜息をついた。
         “どうかしている・・・。一瞬龍麻の姿を見るなんて・・・・。”
         壬生は頭を払うと、龍麻の元へ帰るべく、歩き出した。



         「どうした?ひーちゃん。」
         傍らを歩いていた龍麻が、立ち止まったのに気づいた京一は、振りかえった。
         「う・・ん・・・。」
         じっと先ほどすれ違った人物の後姿を凝視する龍麻の様子に、京一は眉を顰める。
         「知っている奴か?」
         京一の問いに、龍麻は視線を動かさないまま答えた。
         「以前、どこかであったような・・・・。うわぁあ!!」
         皆まで言わさず、京一は乱暴に龍麻の腕を取ると、そのまま引き摺るように
         歩き出す。
         「どうしたんだよ!京一!」
         怒った顔の京一に、龍麻は訳が判らず、きょとんとなる。
         「・・・・俺以外の男なんて、見んじゃねぇ!!」
         途端、龍麻に笑みが広がる。
         「・・・もしかして、妬いてる?」
         「・・・・・・・。」
         黙ったままの京一に、龍麻はクスクス笑い出す。
         「京一。」
         「・・・・・何だよ。」
         ぶっきらぼうな京一の態度に、龍麻は繋がれた右手を握ると、
         想いを込めて呟く。
         「好きだよ。」
         その言葉に、だんだんと京一の歩みは遅くなる。
         「ひーちゃん・・・・。俺もだぜ。」
         京一は、照れのためか、視線を合わせずに呟く。途端、龍麻が、大輪の華を
         思わせるような笑顔を向けたのは、言うまでもない。



         “<器>ハ、結界二守ラレ、<魂>ハ、剣聖ノ<陽ノ氣>二守ラレテイル・・・・。”
         “セメテ、<魂>ダケデモト思イ、九角ヲ差シ向ケタガ・・・・。”
         “失敗シタ・・・・。”
         “ダガ・・・。”
         “ソウ、コレデ終ワリデハナイ。”
         “使エル駒ガ・・・。”
         “駒ガ、マダアル・・・・。”
         “ククククク・・・・。緋勇龍麻ヨ・・・・。”
         “全テハ、<宿星>ノ導クママ二・・・・・。”