I miss you ・・・・。

 

              第7話

 

       “また、いつもの夢だ・・・・。”
       その光景を、どこか冷めた目で見ながら、壬生紅葉は思った。
       彼の最愛の緋勇龍麻が、どこの誰とも分からない男と、抱き合っている。
       そんな事、現実に起こる訳がない。

       “果タシテ、ソウカ?”
       脳裏に響く声に、紅葉は嫌悪感を隠し切れない。
       何故、この声は、こうも自分の神経を逆撫でするのだろう。
       「そうに決まっている。」
       “クククククク・・・・。”
       壬生は笑い声に、カッとなる。そして、その笑い声が合図かのように、
       目の前の龍麻が、壬生をまるで親の敵を見るような目で見つめると叫んだ。
       「京一を傷つける者は、誰だろうと、許さない!!」
       その声を聞くたび、壬生の心の中で、どす黒い感情が溢れ、気がつくと自分は
       龍麻が流す血の海に、一人佇むのである。

       「これは、いつもの夢だ・・・。」
       “クククク・・・・。オ前ガ殺シタ・・・・。”
       「違う!僕は殺していない。僕は・・・・。」
       “イヤ・・・・・。殺シタノダ。オ前ガ・・・・。”
       頭の中に響く声に負けないように、壬生は激しく頭を振り続ける。
       「違う!僕は・・・・。」
       “殺シタ・・・・。オ前ガ殺シタイノハ、一体誰ダ・・・・。” 
       「殺したい・・・者・・・・?」
       “ソウ・・・・。願ッタハズダ・・・・。ソノ者ノ死ヲ・・・。”
      壬生の瞳から、だんだんと生気が薄れていく。
      「僕が殺したいのは・・・・。」
      “オ前ハ願ッタ・・・。蓬莱寺京一ノ死ヲ・・・・。”
      「蓬莱寺・・・・京一・・・・?そんな奴、知らない・・・。」
      初めて聞く名前に、壬生は頭を払う。
      “イヤ・・・。知ッテイルハズ・・・。オ前ノ最愛ノ者ヲ奪ッタ者ノ名前
      ナノダカラ・・・・・。”
      「最愛の者・・・・を・・・・奪った・・・・?」
      壬生の呟きに、<声>は、唆すように、囁き続ける。
      “ソウ・・・。奪ッタノダ・・・・。”
      “龍麻ガ目覚メナイノハ、奴ノセイ・・・・・。”
      “奴サエ、イナケレバ・・・・。”
      壬生の脳裏に、龍麻の笑顔が鮮やかに蘇る。奴さえいなければ、
      龍麻の目が醒める・・・・。奴さえいなければ・・・・。
      壬生の心に、殺意の芽がゆっくりと生まれてきた。そして、その芽に
      <声>は、悪意の水を掛け続ける。
      “ソウ、奴コソガ、オ前ノ<敵>ダ。”
      “<敵>ナラ倒サネバ・・・・。”
      “奴ヲ・・・・殺セ・・・・・。”
      “奴ヲ!!!”


      「うわああああ!!!」
      自分の声で目覚めた壬生は、慌てて飛び起きた。カーテンから零れ落ちる
      日の光に、夜が明けたのを感じた。
      「ゆ・・・夢か・・・・。」
      ここ数日、壬生は悪夢に悩まされていた。夢の内容までは、目が醒めた瞬間、
      記憶の彼方へと埋葬されてしまうのだが、目覚めた瞬間の、何とも言えない
      重苦しい感情に、夢の内容が決して楽しいものではないと、本能的に悟っていた。
      「・・・一体、何故・・・・。」
      時計を見ると、まだ午前5時を回ったところだ。決して遅い時間ではないが、そろそろ
      起きないと、新幹線の時間に間に合わない。今日は、副館長から、学校へ戻るよう
      指示されている。壬生は、汗で濡れた前髪を掻き揚げると、そっとベットから
      抜け出して、シャワールームへと向かう。途中にある鏡に映った自分の顔が、
      既に暗殺者の顔になっていたことに、壬生は気がつかなかった。



      「ひーちゃん・・・?どうかしたのか・・・?」
      夜中、ふと目が醒めた京一は、隣で寝ているはずの龍麻が、枕元に立っている
      事に気づいて、声をかける。
      「泣いているの・・・か・・・・?」
      京一は、ベットから起きあがると、そっと龍麻の身体を抱きしめた。
      「一体、どうしたっていうんだ?」
      優しく涙を拭く京一の指を、龍麻はやんわりと遮ると、京一の身体にしがみついた。
      「おい!ひーちゃん!」
      「京一・・・・。不安なんだ・・・・。」
      涙を流し続ける龍麻に、京一はそっと抱く腕に力を込めると、耳元で囁く。
      「俺はここにいる。絶対に離れない。」
      「京一・・・・。」 
      龍麻は堪え切れなくなって、京一の胸の中で、泣き始めた。
      「大丈夫。心配することなんて、何もねぇ・・・・。」
      そんな龍麻を、京一はきつく抱きしめるのだった。



       ・・・・そして、運命の日が、静かに始まろうとしていた・・・。




         I miss you・・・・。
         I miss you・・・・。
         I miss you・・・・。


         君に会いたい・・・・・。