“また、いつもの夢だ・・・・。” その光景を、どこか冷めた目で見ながら、壬生紅葉は思った。 彼の最愛の緋勇龍麻が、どこの誰とも分からない男と、抱き合っている。 そんな事、現実に起こる訳がない。 “果タシテ、ソウカ?” 脳裏に響く声に、紅葉は嫌悪感を隠し切れない。 何故、この声は、こうも自分の神経を逆撫でするのだろう。 「そうに決まっている。」 “クククククク・・・・。” 壬生は笑い声に、カッとなる。そして、その笑い声が合図かのように、 目の前の龍麻が、壬生をまるで親の敵を見るような目で見つめると叫んだ。 「京一を傷つける者は、誰だろうと、許さない!!」 その声を聞くたび、壬生の心の中で、どす黒い感情が溢れ、気がつくと自分は 龍麻が流す血の海に、一人佇むのである。 「これは、いつもの夢だ・・・。」 “クククク・・・・。オ前ガ殺シタ・・・・。” 「違う!僕は殺していない。僕は・・・・。」 “イヤ・・・・・。殺シタノダ。オ前ガ・・・・。” 頭の中に響く声に負けないように、壬生は激しく頭を振り続ける。 「違う!僕は・・・・。」 “殺シタ・・・・。オ前ガ殺シタイノハ、一体誰ダ・・・・。” 「殺したい・・・者・・・・?」 “ソウ・・・・。願ッタハズダ・・・・。ソノ者ノ死ヲ・・・。” 壬生の瞳から、だんだんと生気が薄れていく。 「僕が殺したいのは・・・・。」 “オ前ハ願ッタ・・・。蓬莱寺京一ノ死ヲ・・・・。” 「蓬莱寺・・・・京一・・・・?そんな奴、知らない・・・。」 初めて聞く名前に、壬生は頭を払う。 “イヤ・・・。知ッテイルハズ・・・。オ前ノ最愛ノ者ヲ奪ッタ者ノ名前 ナノダカラ・・・・・。” 「最愛の者・・・・を・・・・奪った・・・・?」 壬生の呟きに、<声>は、唆すように、囁き続ける。 “ソウ・・・。奪ッタノダ・・・・。” “龍麻ガ目覚メナイノハ、奴ノセイ・・・・・。” “奴サエ、イナケレバ・・・・。” 壬生の脳裏に、龍麻の笑顔が鮮やかに蘇る。奴さえいなければ、 龍麻の目が醒める・・・・。奴さえいなければ・・・・。 壬生の心に、殺意の芽がゆっくりと生まれてきた。そして、その芽に <声>は、悪意の水を掛け続ける。 “ソウ、奴コソガ、オ前ノ<敵>ダ。” “<敵>ナラ倒サネバ・・・・。” “奴ヲ・・・・殺セ・・・・・。” “奴ヲ!!!” 「うわああああ!!!」 自分の声で目覚めた壬生は、慌てて飛び起きた。カーテンから零れ落ちる 日の光に、夜が明けたのを感じた。 「ゆ・・・夢か・・・・。」 ここ数日、壬生は悪夢に悩まされていた。夢の内容までは、目が醒めた瞬間、 記憶の彼方へと埋葬されてしまうのだが、目覚めた瞬間の、何とも言えない 重苦しい感情に、夢の内容が決して楽しいものではないと、本能的に悟っていた。 「・・・一体、何故・・・・。」 時計を見ると、まだ午前5時を回ったところだ。決して遅い時間ではないが、そろそろ 起きないと、新幹線の時間に間に合わない。今日は、副館長から、学校へ戻るよう 指示されている。壬生は、汗で濡れた前髪を掻き揚げると、そっとベットから 抜け出して、シャワールームへと向かう。途中にある鏡に映った自分の顔が、 既に暗殺者の顔になっていたことに、壬生は気がつかなかった。 「ひーちゃん・・・?どうかしたのか・・・?」 夜中、ふと目が醒めた京一は、隣で寝ているはずの龍麻が、枕元に立っている 事に気づいて、声をかける。 「泣いているの・・・か・・・・?」 京一は、ベットから起きあがると、そっと龍麻の身体を抱きしめた。 「一体、どうしたっていうんだ?」 優しく涙を拭く京一の指を、龍麻はやんわりと遮ると、京一の身体にしがみついた。 「おい!ひーちゃん!」 「京一・・・・。不安なんだ・・・・。」 涙を流し続ける龍麻に、京一はそっと抱く腕に力を込めると、耳元で囁く。 「俺はここにいる。絶対に離れない。」 「京一・・・・。」 龍麻は堪え切れなくなって、京一の胸の中で、泣き始めた。 「大丈夫。心配することなんて、何もねぇ・・・・。」 そんな龍麻を、京一はきつく抱きしめるのだった。 ・・・・そして、運命の日が、静かに始まろうとしていた・・・。 I miss you・・・・。 I miss you・・・・。 I miss you・・・・。 君に会いたい・・・・・。 |