一体、いつ出会ったのだろうか・・・。 夢か 現か いつ、出会ったのだろうか。 あの 金の瞳に・・・・。 “時が満ちれば、再び貴方と会うことが出来ます。” 櫻吹雪の中、聞こえた声に、自分は・・・・・。 「ひーちゃん!!」 名前を呼ばれて、龍麻は、ハッと我に返ると、慌てて横を見た。 「えっと・・・何?」 にっこりと微笑む龍麻に、訝しげな視線をかける者が1人。 そんな二人のやりとりに、きょとんとなるものが、3人。 真神学園3−Cの教室。5人で昼食を食べている時に、それは起こった。 「・・・ちょっといいか?ひーちゃん。」 京一は、ため息をつくと、龍麻の腕を取ると、有無を言わさず教室から連れ出した。 「まだ、食べている途中!!」 龍麻の抗議にも、京一は歩みを止めずに、やってきたのは、屋上だった。 「一体、何だよ!京一!」 人がいないことを確認した京一は、ドアに鍵をかけると、龍麻に向き直った。 「・・・なぁ、ひーちゃん。俺に隠していることねぇか?」 「隠している事・・・・?」 訳がわからず、首を傾げる龍麻に、京一は深いため息を漏らす。 「自覚なし・・・か・・・・。」 「な・・・なんだよ!その自覚なしってっ!!」 訳知り顔の京一に、龍麻のイライラが募っていく。 「ひーちゃん、このところ、注意力散漫だろ。」 ズバリと言われ、多少自覚のあった龍麻は、言葉に詰まり、黙り込んだ。 「あぁ・・。その・・なんだ。別に、責めている訳じゃねぇ。」 京一は、龍麻近づくと、あやす様に、その身体を包み込む。 「ただ・・・。その時のひーちゃん、すっげー辛そうだから・・・・。」 “辛そう・・・・?” 京一の言葉に、龍麻は違和感を覚える。ただ自分は思い出そうとしているだけなのに?そこで、龍麻は自分の思考に愕然となる。 “何を思い出そうとしているのだろう・・・・。” 思い出そうとしているもの・・・。それは・・・・。櫻の花びらと・・・・。脳裏に浮かぶのは、【金の瞳】・・・・。 「あれは・・・【誰】なんだろう・・・・。」 「ひーちゃん?」 龍麻の様子がおかしいことに気づいた京一は、ハッとして、龍麻の顔を覗き込んだ。焦点の合わない瞳。何の意思も感じられない、その瞳を見た瞬間、京一は恐怖に襲われる。 「おい!ひーちゃん!!」 耳元で叫ぼうとも、龍麻は目の前の自分を見ない。それだけで、京一の心臓は、鷲掴みされたように痛む。 「ひーちゃん!!」 だんだんと龍麻の身体すら目の前から消えてしまいそうで、京一は必死に龍麻の身体を抱き締めた。 「【行くな!ひーちゃん!!】」 その言葉が鍵だったのか、ふと気づくと、不思議そうに自分を見つめている龍麻と眼が合い、ほっと安堵の息を漏らす。 “・・・・・一瞬、俺の目の前から、いなくなるかと思った・・・・。” 「京一?」 先ほどのショックから立ち直るために、京一は、ただ無言で龍麻の身体を抱き締める。 ドク・・・・。 ドク・・・・。 ドク・・・・。 規則正しい龍麻の心臓の音に、京一は漸く安堵を覚える。 “良かった・・・。俺の側にいる・・・。” ますます抱き締める腕に力を込める京一に、龍麻は困惑を隠しきれないが、それでも、必死に京一の背中に腕を回すと、落ち着かせようと、軽く背中を叩いた。 「ごめん・・・。ごめん。京一・・・・。」 何故誤っているのか、龍麻自身判っていなかったが、それでも、昼休み終了のチャイムが鳴り終わるまで、2人は抱き合っていた。 「時が満ちますね・・・・・。もう直ぐ、貴方に会えます。」 結界【飛鳥】にある屋敷の中。蝋燭だけが唯一の明かりであるその部屋で、水盥を覗き込んでいた、安倍泰晴は呟いた。そして、傍らに横たわる龍麻に身体に向かって言葉を繋げる。 「あなたは、それを望んではいませんけどね・・・。」 泰晴は、その金の瞳を眠っている龍麻から、水盥に戻すと、右手を翳した。途端、触れてもいないのに、水面が揺れ、今度はそこにいるはずもない、壬生の顔が映し出される。 「・・・・・≪陰氣≫に掴まりましたか・・・。」 泰晴は、その顔を苦痛に歪ませると、懐から、五芒星が書かれた和紙を取り出すと、静かに呪文を唱え始める。そして、それに呼応するかのように、和紙は、徐々に形を変え始め、一羽の白い鳩に変化すると、水盥の中へ、その身を滑り込ませた。 後には、横たわる龍麻と、瞑想する泰晴を包み込む、静寂だけが残った。 |