「おーい、京一、次どっち行く?」 龍麻の問いに、京一はポケットから、コインを取り出す。 「よし、表だったら、右。裏だったら左だ。」 京一の提案に、龍麻は呆れたような顔をした。 「お前なぁ。そんな事して、道に迷ったらどうするんだ?」 京一は、チチチと人差し指を振った。 「おいおい。俺と右も左も判らない旅に出ても構わないと 言ったのは、どこの誰だっけ?」 途端、龍麻の顔が真っ赤になる。 「あ・・あれは!!」 「あれは?何だ?ひーちゃん?」 ニヤニヤと笑う京一に、龍麻は頬を膨らませる。 「京一の意地悪!」 そんな龍麻の態度に、京一は声を上げて笑うと、 龍麻の手を取り、ゆっくりと歩き出した。 「京一?」 「なぁ、ひーちゃん。折角2人っきりなんぜ?先を急がず、 ゆっくりと歩こうぜ。」 京一の言葉に、龍麻は嬉しそうに頷いた。 真神学園の卒業式で誓った通り、京一と龍麻はここ中国へと 来ていた。京一の修行のため、山の中に住まいを構え、今日は 家の周辺を見て回ることにしたのだ。 「丁度良い具合に、滝があるな。ひーちゃん。ここで、少し早いが 昼メシにしようぜ。」 京一の提案に龍麻が頷こうとしたとき、いきなり京一に 引き寄せられた。 「ちょっと、京一!」 慌てる龍麻を離さず、京一はジーンズのポケットから、カメラを取り 出すと、滝をバックに自分達を撮った。 「へへっ。慌てるひーちゃんって、スッゲー可愛いのな。」 ふざけた京一の台詞に、龍麻の怒りは頂点に達する。 「ったく!何なんだよ!中国に来てから、ずっと写真ばっか撮って! お前、剣の修行に来たんだろ?それとも何か?日本に戻って、 アン子の弟子入りでもするか?」 肩で息をする龍麻に、京一は微笑むと、ポケットから、手帳サイズの アルバムを取り出した。 「本当は、もっと整理してから渡したかったんだけどな。」 京一はアルバムを龍麻に渡す。そこには、中国へ来てからの2人の 写真が収められていた。意味が判らず怪訝そうに首を傾げる龍麻に、 京一は苦笑する。 「今日は何日だ?」 「3月14日。」 龍麻の答えに、京一は、ニヤリと笑う。 「じゃあ、何の日だ?」 「何って、ホワイト・・・・。あっ。」 理由に気付いて、龍麻は一瞬目を丸くする。 「これ、バレンタインのお返しなんだ。・・・・受け取ってくれるか?」 「何で・・・・。アルバムなんだ?」 何となく意味は判るが、京一の口から言って欲しくって、龍麻は わざと尋ねた。 「・・・俺達2人だけの写真って、ないじゃねぇか。あんなに一緒にいた のによぉ。おまけに、俺の知らねぇ奴らとひーちゃんの写真があって、 俺達2人っきりの写真が、1枚もないなんて悲しすぎるぜ。」 そう言って、横を向く京一に、龍麻はくすくす笑うと、思いっきり抱きついた。 「京一・・・。ごめん。怒ったりして。」 「いいって。ひーちゃんが気にすることなんて、何もねぇよ。それより、 アルバム、受け取ってくれるか?」 京一の問いに、今度こそ龍麻は大きく頷く。 「ありがとう!京一。・・・そうだ、仲直りの記念に、2人の写真を撮ろうか?」 ニッコリ笑ってそんな提案をする龍麻に、京一は微笑む。 「そうだな。でも、俺としては、仲直りの写真より、こっちの方がいいぜ。」 言うなり、京一は龍麻を引き寄せると、思いきり仲直りの口付けを 交わしたのだった。 一緒に歩こうよ もしもケンカしたって 瞳を見交わせば すぐに仲直り ねぇ 大切なことは そう 近くにいること 真実はきっと 単純な答えなんだね 一緒に歩こうよ いつも呼吸(リズム)合わせて ゆっくり歩こうよ 心をつないで 一緒に笑おうよ いつも声を合わせて 君が側にいれば 心暖かい FIN. |