1月の季節

 

        「うー。」
        ひーちゃんは、さっきから、コタツに丸くなりながら、唸っている。
        「どうしたんだよ?ひーちゃん?」
        俺は、知っていてわざと尋ねてみた。
        「・・・・・知っているくせに・・・・。」
        ひーちゃんがポツリと呟く。
        「・・・・何が?」
        ニヤニヤ笑いながらさらに尋ねると、ひーちゃんは、頬を膨らませながら
        横を向いた。その仕種が、メチャ可愛い。
        「言ってくれなきゃ、判らないぜ?」
        俺は誘われるように、ひーちゃんの側に座ると、ギュッと抱き締めた。
        「・・・・・外、寒いよね・・・・。」
        その言葉に、俺は窓の外を眺める。外は、生憎の曇り空で、ますます
        寒く感じる。
        「はぁああああああああ。」
        朝から数えて、何度目かの溜息をつくひーちゃんに、俺は苦笑する。
        「寒いだろうな。なんせ、冬だから。」
        項垂れていた、ひーちゃんは、突然顔を上げると、俺に期待を込めた熱い眼差しを向ける。
        「あのさぁ・・・。きょういちぃ・・・・。」
        皆まで言わせず、俺はひーちゃんの頬に、軽く口付けると、立ち上がった。
        「わかった。正月のものを買ってくればいいんだろ?」
        コートを手に持ちながら言う俺に、ひーちゃんは嬉しそうに頷いた。
        「流石、俺のダーリン!京一!愛しているぜ!!」
        「はいはい。わかった。わかった。」
        俺は、もう1度ひーちゃんに、行って来ますのキスをすると、部屋を出ていこうとした。
        「あっ、京一、リスト、リスト!!」
        慌てて俺を呼び止めるひーちゃんに、俺は溜息をつきながら、つい愚痴をこぼした。
        「全く・・・・。なんだって、この時期のひーちゃんは出不精になるんだ?」
        「むーっ・・・。仕方ないだろ?寒がりなんだから。」
        さらにコタツにもぐり込むひーちゃんに、俺は苦笑する。 
        「あのさ・・・。この部屋、暖房が、ガンガンに効いてるんだぜ?そんなにコタツに執着しなく
        ても・・・。」
        「いいじゃん!冬と言えばコタツ!俺はコタツの中で冬眠するんだ〜。」
        「脱水状態になっても知らないぞ?」
        龍麻は、コタツの上のミカンを指差す。
        「へへっ。水分確保♪」
        「わかった。わかった。ミカンも追加だな。」
        「うん!」
        嬉しそうなひーちゃんの顔に、俺は溜息をつく。
        「・・・・それにしても、何だって、お正月って“冬”なんだろう・・・。」
        ひーちゃんの言葉に、コートを着る手を止めて、ひーちゃんを振りかえると、ひーちゃんは真剣な
        表情で、俺を見つめていた。
        「ひーちゃん?」
        「だって・・・。暖かければ、俺が買い物に行くのに・・・・。」
        項垂れるひーちゃんを、安心させる為、俺はギュッとひーちゃんの身体を抱き締めた。
        「気にするな。ひーちゃん!俺、寒いの平気だし!」
        「でも・・・・。本当は嫌なんだろ・・・?」
        肩を震わせているひーちゃんを、ますますきつく抱き締めた。
        「嫌じゃない!俺、寒い中、出かけるのが好きなんだっ!!」
        「本当に?」
        「あぁ。本当だ。今だって、嬉しいくらいなんだぜ?」
        「そっか。じゃあ、冬の間、買い物頼むな!」
        そう言って、顔を上げるひーちゃんに、涙の跡はなく、俺は罠に嵌った事を悟った。
        「きったないぞ!ひーちゃん!!」
        「ほらほら。早く行った。行った。良いのがなくなっちゃうだろ?」
        俺の頬に、軽くキスをすると、ひーちゃんは、幸せそうにコタツの中に、入り込んだ。
        「・・・・ったく・・・行けばいいんだろ?行けば。」
        俺はしぶしぶコートのボタンを留めると、肩を落として、ドアへと向かった。
        「・・・・ひーちゃん。中国へ行く前に、人並み程度に寒がりを治した方がいいぜ。」
        「えーっ?何で?」
        不満そうなひーちゃんの顔に、俺はニヤリと笑って答えた。
        「知っているか?中国って、日本の東北くらいに寒いんだぜ?」
        「え・・・・・。」
        「ひーちゃんが、そんなに寒がりじゃあ、中国へ一緒に行けないかもな・・・・。じゃあ、
        行ってくる。」
        俺は、手をヒラヒラさせて、部屋を出た。だが、その言葉が、後でとんでもない事態を
        引き起こすなんて、夢にも思わなかったんだ・・・・・。



        「ただいま!買ってきたぜ。ひーちゃ・・・・。」
        ドアを一歩入った瞬間、部屋が異常に寒くなっている事に気づき、俺は慌てて部屋の
        中に、掛け込んだ。
        「何で、クーラーをかけてるんだよっ!!」
        異常なまでの寒がりのひーちゃんの姿を求めて、俺は血走った目で、部屋の中を探し回る。
        「きょ・・・京一・・・・。」
        ふと足下を見ると、コタツの中に首だけを出して、ひーちゃんがガタガタ震えていた。
        「ひーちゃん!!」
        俺は、俺は冷え切った、ひーちゃんの身体を抱き締めると、エアコンのリモコンに、手を伸ばした。
        「一体どうして・・・・。今、暖かくするから・・・・。」
        だが、俺より先にリモコンを素早く取ったひーちゃんは、泣きそうな顔で、首を横に振った。
        「ひーちゃん!!」
        「大丈夫・・・。だから・・・・。」
        「大丈夫じゃないだろ!!」
        全く、何考えてんだ、ひーちゃん!!
        「だって・・・・。」
        俯くひーちゃんの身体は、寒さだけではなく、泣くのを堪えているために、震えていた。そんな
        ひーちゃんの様子に、俺は我に返ると、今度は優しく抱き締めた。
        「教えてくれ。ひーちゃん・・・。」
        ひーちゃんの肩がピクリと反応した。
        「一体、何があったんだ?」
        俺の言葉に、暫く無言だったひーちゃんは、やがて、ゆっくりと呟いた。
        「だって・・・・。俺、京一とずっと一緒にいたいから・・・・。」
        「何言ってるんだ?俺達ずっと一緒だって言っただろ?」
        「だって・・・・寒がりを治さないと、一緒に中国行けない・・・・・。」
        その言葉に、俺は脳天を叩き割られるほどの衝撃を受けた。
        「さっきの言葉・・・・。」
        じゃあ、何か?俺の言葉を真に受けて、ひーちゃん、俺の為に寒がりを克服しようと、
        こんな事をしたの・・・・か・・・・・?
        「俺の為に・・・・・。」
        ひーちゃんは、コクリと頷いた。
        「すまねぇ・・・。ひーちゃん・・・・。」
        俺は、愛しい龍麻の身体をきつく抱き締めた。
        「許してくれ・・・・。ひーちゃん・・・・・。」
        「きょ・・・・京一・・・・。」
        しがみ付いてくるひーちゃんの身体の冷たさに、我に返った俺は、慌ててコタツのスイッチを入れ、
        ひーちゃんから奪い取ったリモコンを手に、エアコンを暖房に変えた。
        「大丈夫だ。ひーちゃん。どんなに寒がりだろうと、俺は絶対にひーちゃんを中国へ連れていく。」
        「本当・・・?絶対に、俺を置いていかない?」
        縋るように俺を見つめるひーちゃんを安心させる為、俺は何度もひーちゃんに口付ける。
        漸く、少しだけ落ち着いた龍麻の身体だが、まだ微かに震えていた。
        「ひーちゃん・・・・。こんなに冷えて・・・・。」
        「部屋の中で、遭難するとこだったね・・・・。」
        クスクス笑うひーちゃんの唇を乱暴に塞ぐ。
        「知っているか?雪山で遭難したら・・・・・。」
        耳元で、囁く俺の続きの言葉に、ひーちゃんは、真っ赤になった。
        「俺が、暖めてやるよ・・・・。これからもずっと・・・・・。」
        「京一・・・・・。」
        俺は、不敵な笑みを浮かべると、ひーちゃんを暖めるべく、ゆっくりと覆い被さった。



                                                  FIN.