「やったー!」
黒板に書かれた文字を見た瞬間、京一は叫んだ。
「京一君。いくら自習だからって、騒いでいいとは言っていないわよ。」
にこやかに注意する菩薩様の声も届かないのか、いや、むしろ知っていてわざとなのか、京一はいそいそと龍麻の元へと移動する。
「なぁ、ひーちゃん。屋上行こうぜ!」
「え?だって、課題・・・・。」
真面目な龍麻の言葉も京一には届かない。京一は自分と龍麻の分のプリントを醍醐へ渡すと、龍麻の腕を取った。
「じゃあ、大将!俺達の分のプリント宜しく!おい、行こうぜ!ひーちゃん!」
そのままずるずると龍麻を引き摺って教室を後にする。
「おい!京一!」
醍醐の抗議の声もなんのその、京一は幸せな気分で龍麻を屋上へと誘う。
「なぁ、京一、まずくないか?」
心細げな龍麻の頬に、軽く口付けると、京一は穏やかに微笑んだ。
「あと少しで卒業だ・・・。だから、<ここ>でのひーちゃんとの想い出を、たくさん作りたいんだ。」
「でも・・・・。」
まだ躊躇する龍麻に、京一は実力行使とばかりに、龍麻を抱き上げると、そのまま屋上へ昇っていく。
「京一!」
焦る龍麻に、笑いかけると、屋上へ続くドアを大きく開け放ちた。
「うわあぁ。」
一瞬外の光に対処出来ずに、眼を閉じた龍麻だったが、次に眼を開けた時に、飛び込んできた空の蒼さに、素直な感嘆の声を漏らした。
「なっ。綺麗な空だろ?俺、ひーちゃんとこの空を見たくってさ。・・・・その、強引だったか?」
「ううん。連れてきてくれて、ありがとう京一。」
にっこりと微笑む龍麻に、京一は安堵のため息を漏らす。
「そっか。気に入ってくれて良かった。」
京一は、そっと龍麻を下ろすと、横に立って、肩を引き寄せた。
「なぁ、ひーちゃん。俺さぁ、いつかひーちゃんが誰かに高校の想い出を聞かれた時、この真神の空を、一番先に思い出して欲しいんだ。」
「京一・・・・?」
龍麻は京一の横顔を凝視する。
「俺の側の景色を、ずっと忘れて欲しくない。」
京一は空を仰ぎながら言った。
「もうすぐ卒業だろ?俺、ひーちゃんとの思い出を、高校1・2年の想い出に負けたくねぇんだ。」
そこで、京一は言葉を切ると、照れくさそうに笑った。
「なんて、ただの独占良くなんだけど・・・・。」
「そんなことない・・・。」
龍麻は首を横に振ると、京一の肩に、頭を預けた。
「俺、忘れない。この空を。京一の側で見る、全ての景色を・・・・。京一と作り出す、全ての想い出を・・・・。」
「・・・ひーちゃん・・・。」
龍麻は、京一の首に腕を回すと、自ら唇を寄せる。
「大好き・・・。」
吐息と共に呟いた言葉に、京一は幸せそうに微笑むと、龍麻の身体をきつく抱き締めた。
FIN.