決戦前夜

 

「ひーちゃん・・・・。」
明日は、決戦と言う前夜、隣で寝ている京一が、ポツリと俺のことを呼んだ。
「・・・・・・。」
無言のままの俺に、京一は、さらに言葉を繋げる。
「・・・起きているんだろ。知っているんだぜ。」
そう言うと、京一は、俺の身体を引き寄せ、顔を覗き込もうとしたので、俺は覗き込まれまいと、必死に顔を逸らす。
「・・・・やっぱな。」
京一は、溜息をつくと、唐突に、俺の身体を解放した。
「・・・・京一?」
「ひーちゃん、泣いてたんだろう。」
う・・・やっぱ、バレタか。
「ひーちゃんは、考えすぎなんだよ。」
京一の言葉に、俺はカチンとなる。
「か・・・考えすぎって、何だよ!」
対する京一は、二ヤリと笑う。
「考えすぎるから、思考がマイナスの方向へ向くんだぜ?」
その言葉に、俺はハッとなった。
「・・・・なぁ、ひーちゃん。もっと、俺達を・・・いや、俺を信じてくれ。」
そう言って、京一は俺を抱き締めてくれた。
トクン・・・・。
トクン・・・・。
規則正しい京一の鼓動。
もしも、この鼓動が止まってしまったら・・・・。
その事を想像しただけで、俺は・・・・。
「ひーちゃん!」
京一の声に、ハッと我に返る。
「・・・また、暗くなる。」
不服そうな京一の顔に、俺は京一の胸に顔を埋める。
「京一・・・。京一・・・・。」
そして、何度も京一の名前を呼ぶ。どうしよう。とてつもない、不安が俺を押しつぶそうとしている・・・・。
「大丈夫だ。俺は死なない。ひーちゃんを1人残すなんてことは絶対にしねぇ。」
でも・・・不安なんだ。京一・・・。
「・・・・・・。」
無言のままの俺に、京一は溜息をつくと、ふと、悪戯を思いついた子供のような表情で、二ヤリと笑った。
「なぁ、今月の24日、俺の誕生日なんだ。」
そして、耳元で、囁く。
「俺、どうしても欲しいもんがあるんだけど・・・。」
「何?」
首を傾げる俺に、京一はニヤニヤするだけで、何も言わない。
「京一〜!!」
怒る俺に、京一は、漸く口を開く。
「俺が欲しいものは・・・。」
うん。欲しいものは?
「・・・・・答えは、明日の夜に教える。・・・・だから、生きて帰ろう。」
「・・・京一・・・。」
俺はハッと京一の顔を凝視した。そんな俺を、京一は暖かく包み込む瞳で見つめた。その眼を見た瞬間、心の中に暖かいものがこみ上げてきた。うん。大丈夫。俺達は負けない・・・。
「京一・・・ありがとう・・・。」
「へへっ。じゃあ、ひーちゃんが元気になったところで、明日に備えて・・・・。」
「早く寝よう!」
うん。そうだ。そうしよう!俺は布団にもぐり込むと、明日に備えて、寝ようとしたが・・・・・。
「おい!京一!その手は何だよ!」
ふと、気がつくと、京一の手が、俺のパジャマを脱がせようと、動いている。
「知らねぇのか?房中術を。」
「房・・・中・・・術・・・?」
何?それ?
京一は、嬉々として、俺からパジャマを剥ぎ取ると、俺の首に顔を寄せる。
「ちょ・・・。京一!」
「へへっ。お互いの≪氣≫を高めるには、この方法がいいんだぜ?」
ま・・・マジ?ちょ・・・きょ・・・う・・・い・ち・・・。
これって、いつもと変わらないんじゃ・・・・。
「へへっ。愛しているぜ!ひーちゃん!」
・・・・全く、俺も甘いな・・・・。俺は観念すると、ゆっくりと、京一の背に腕を回した。


                  FIN