君がいる季節

 

 

                 君がいる季節。
                 君がいるから<世界>がとてつもなく
                 綺麗に感じる。
                 でも・・・・。
                 でも、もしも君がいなかったら?
                 <世界>はどんな姿に映るのだろうか・・・・・。





                 「なぁ、京一。」
                 腕の中のひーちゃんがぼんやりとした瞳のまま、
                 俺の名前を呼ぶ。
                 「どうした?」
                 俺は愛しい身体をそっと抱き締めながら、ひーちゃんの
                 瞳を覗き込んだ。琥珀色の綺麗な瞳に映るのは、
                 俺の姿のみ。たったそれだけの事が、俺にはゾクゾクする
                 程の幸福を与えてくれるって事、ひーちゃんは知っている
                 のだろうか。
                 「1・2年の時の京一って、どんなだった?」
                 「何で、そんな事急に・・・・。」
                 「いいから、答えろよ。」
                 にっこりと微笑みながら、しかし、瞳は不安に揺れながら、
                 ひーちゃんは俺に尋ねる。何がそんなに不安なのか知らない
                 が、取り合えず、ひーちゃんの質問に答えるべく、俺は口を
                 開いた。
                 「俺が1・2年だった頃・・・・・。」
                 そこで俺は固まってしまった。
                 あれ?あの時俺って、一体何をしてたっけ?
                 「京一?」
                 急に黙った俺を心配して、ひーちゃんが俺の顔を見上げた。
                 「・・・・・・・・良く憶えてねぇ・・・・・・。」
                 「どういう事?」
                 俺は腕を組みながら、うーんと考え込んだ。
                 「時々サボるけど、学校に行っているだけの毎日だった
                 気がする・・・・・。」
                 おかしい・・・・・。何故何も憶えていないのだろうか。この1年の
                 事なら、<人ならざる者>との闘い以外の事だって、鮮やかに
                 脳裏に蘇ってくるてぇのに。
                 春・・・・・ひーちゃんの上に降り注ぐ櫻の花びらの薄紅色。
                 夏・・・・・ひーちゃんと一緒に行った海での事。光に反射する波の
                 美しさと、真っ赤に照りつける太陽に、真っ白な入道雲。そして、
                 空の青さ。
                 秋・・・・・ベンチで本を読んでいて、眠り込んでしまったひーちゃんの
                 肩に落ちた葉の茶色。
                 冬・・・・・クリスマス。俺たち2人に降り注いだ、純白の雪。
                 それなのに、1・2年の頃は、まるでセピア調の古い映画を見ている
                 ようで、何も心に響いてこない。
                 ・・・・・・何でだ?
                 1・2年の頃になくって、3年の頃にあるもの。
                 それは・・・・・。
                 「あぁ、そうか!」
                 パチクリしているひーちゃんの顔を見つめながら、
                 俺は言葉を続けた。
                 「ひーちゃんだよ。」
                 「お・・・・俺ぇ〜!?」
                 驚きの声を上げるひーちゃんの身体を、俺は笑いながら
                 きつく抱き締める。
                 「そっ。ひーちゃんがいるから<世界>が輝いて見えるんだよ。」
                 「良く・・・・・意味がわからない。」
                 首を傾げるひーちゃんの頬に、俺はわざと音を立てながら口付ける。
                 「きょ・・・京一!!」
                 途端、真っ赤になるひーちゃん。メチャ可愛いぜっ!!
                 「だからさ。ひーちゃんがいなかったこれまでの人生。俺には、ただ
                 息をしているっていう、意味のないモンだった。だが、これからは
                 違う。」
                 俺はそっとひーちゃんに口付けた。
                 「ひーちゃんがいるからな。俺の人生、漸く意味のあるものになった
                 んだ。・・・・・・で?何でひーちゃん、俺の過去を知りたがったんだ?」
                 ギクリとひーちゃんの身体が強張った。
                 「そ・・・・それはその・・・・・。俺の知らない京一の姿を知っている
                 人がいるって事実に気付いちゃって・・・・・。」
                 消え入りそうな声で俯くひーちゃんが、すごく愛しくって、気付くと
                 俺はひーちゃんを押し倒していた。
                 「心配すんな、ひーちゃん。これからの人生、全てひーちゃんの
                 モンだぜ。」
                 「京一・・・・・。」
                  嬉しそうに笑うひーちゃんに、俺はゆっくりと口付けた。





                                                    FIN.