君の生まれた日

 

 

もうじき、京一の誕生日。
初めて祝う、京一の誕生日に、俺は何をプレゼントしようかと、ずっと悩んでいた。
「ひーちゃん・・・。」
あぁ、何にしたらいいんだろう・・・。
「ひーちゃんっ!」
煩いなぁ。今、考え事しているんだ。静かにしろよ。
「おい、龍麻!!」
京一の切羽詰った声に、俺はハッと我に返った。
「・・・・緋勇。お前、目を開けながら寝るのが、癖なのかあ?」
その声は・・・・。
俺は、恐る恐る視線を上に上げると、仁王立ちした、犬神先生が、こめかみに、青筋を立てていた。やばい!今、授業中だったんだ。
「え・・っと・・・その・・・・。」
何とか言い訳をしないと・・・・。
焦る俺に向かって、先生は、フッと意地の悪い笑いをしながら一言。
「放課後、生物室まで来い。」
その言葉に、俺はがっくりと肩を落とした。犬神先生に生物室へ呼び出されるイコール罰掃除と、相場が決まっていた。折角、今日は京一と二人っきりで帰れると思ったのに・・・。ついてないよ・・・。



「うそ・・・。」
放課後、生物室へしぶしぶ向かった俺は、そこに京一の姿を見つけて、驚いた。何で、ここにいるんだろう。補習かなぁ。
「・・・・言っておくけど、補習で呼び出されたんじゃねぇぞ。」
俺の心の中を読み取ったかのようなタイミングで、京一はぶっきらぼうに言った。
「・・・じゃあ、何で?」
「あのなぁ、ひーちゃんが心配だからに決まっているだろ?」
心配?何で?
「ここ最近、ずっとひーちゃん、上の空だっただろ?」
京一は、俺の側に近寄ると、ギュッと俺を抱き締めた。
「・・・・・俺じゃあ、相談できないのか?」
「そ・・それは・・・・。」
だって・・・相談って言っても・・・・。
「ひーちゃんが悩んでいるのに、俺は何も出来ないのか?」
悲しそうな瞳の京一に、俺はどうしたら良いかわからなくなる。
本人に直接欲しいものを聞けばいいんだろうけどさ、当日まで内緒にして、吃驚させたいしなぁ・・・・。
うーん・・。どうしよう。
「・・・・・他に好きな奴でも、出来たのか?」
「はぁあ?」
・・・・・。
・・・・・。
・・・・・。
一体、どこをどうしたら、そういう事になるんだよ!俺は呆れてものが言えなかったのだが、その無言を、あろうことか京一は、肯定と受け取ったらしい。わかったと呟いて、そのまま生物室を出ていこうとしたのを、俺は慌てて引きとめた。
「ちょ・・・ちょっと!京一!」
「いいんだ。俺の事をもう嫌いになったんだろ?」
自嘲する京一の頬を、俺は思わず平手打ちしていた。
「一体、何時俺が京一を嫌いだって言ったんだよ!!」
やばい。涙が出てきそうだ。俺はプライドを総動員させて、なんとか涙を堪えると、代わりに、京一を睨みつけた。
「・・・俺を嫌いになったわけじゃねぇのに、何で最近冷たいんだよ。」
「どこがっ!」
「俺が話しかけても、いつも生返事ばかりだし・・・。」
え・・そうだ・・・け・・・?本人、全然自覚ないんですけど・・・。
「今日だって・・・。」
え?今日?
「俺が、折角犬神の事を教えてやろうとしてたのに、思いきり無視しただろう。」
だから・・それは・・・・。
「俺、もう付き合ってらんねぇよ。」
吐き捨てるように呟く京一の言葉に、俺はさっき根性で堪えていた涙が、簡単に流れ出す。そんな・・・京一に嫌われた・・・。
「だって・・・。」
俺の声に、京一はのろのろ顔を上げて俺の涙に驚いた顔をした。
「だって・・・。京一の誕生日だから・・・。」
「ひーちゃん・・・。」
「京一に・・・何をプレゼントしようかって・・・・。」
泣き出す俺を、京一は優しく抱き締めてくれた。
「ごめん・・・。ひーちゃん・・・。俺・・・・。」
「京一・・・・。」
俺は京一の背中をギュッと抱き締めた。
「・・・・ごめんな。ひーちゃんを泣かせる気はなかったんだ。ただ、理由が知りたくって・・・。」
漸く落ち着いた頃を見計らって、京一は俺の涙を拭きながら、謝ってくれた。こっちこそごめん。京一。
「・・・・プレゼント、何がいい?」
あぁ、最初から素直に聞けば良かった。
「ひーちゃん!」
即答する京一に、俺は目が点になった。お・・俺ぇえ?
「ひーちゃんさえいてくれれば、何もいらねぇ。」
京一は真剣な表情で言った。
「・・・お前って、欲がないな・・・。」
俺は照れ隠しに、わざとぶっきらぼうに言った。
「そうか?ひーちゃんが側にいて、初めて俺はこの世界を生きているって実感できるんだ。俺が生まれた日、それ事体に意味はない。ただ・・・。」
京一は、そこで言葉を切ると、俺は抱き締めながら言った。
「ひーちゃんと出会う事が出来る可能性が始まった日だから、意味があるんだよ。」
「よく・・・わからない。」
首を傾げる俺に、京一は笑った。
「別に判らなくってもいいんだ。ただ・・・俺の側を絶対に離れないって、約束してくれれば、それでいい。」
「京一・・・。」
俺は嬉しくなって、京一の首に腕を回した。
「約束する。絶対に京一から離れない・・・。」
「ひーちゃん・・・。」
夕闇迫る生物室。俺達の影は、ゆっくりと一つに重なった。

                        FIN.