LOVE LOVE LOVE
               〜そこに君がいる幸福〜

 

       「海・・・行きたいな・・・。」
        ポツリと龍麻が呟く。
        「海?」
        京一の問いに、龍麻は無邪気な笑みを浮かべると、こくりと頷いた。
        「海が好きなのか?」
        「好き・・・っていうか・・・・。」
        京一の問いかけに、龍麻は首を傾げる。
        「ただ・・・・なんとなく。京一と行きたいな・・・って。」
        変かな?と、上目遣いで自分を見つめる龍麻に、京一は苦笑する。
        「そうだな・・・。行くか、海に。全てが終わったら。二人だけで。」
        京一の提案に、龍麻は本当に幸せそうに微笑んだ。


        「うわああぁあああぁぁああ〜!」
        突然の京一の絶叫に、龍麻は驚いてキッチンから飛び出した。
        「どうした!京一!」
        そこで龍麻が目にしたのは、卓上カレンダーを見つめながら、固まっている
        京一の姿だった。
        「・・・・京一?」
        恐る恐る京一の背後から、龍麻はカレンダーを覗きこむ。だが、京一が手にして
        いるのは、ごく一般的な卓上カレンダーで、別に変わった所などない。(如月骨董
        品店のカレンダーなのだが・・・。)
        「・・・・・誕生日・・・・。」
        「はぁ?」
        京一の呟きに、龍麻は間抜けな声を出す。一体こいつは何を言っているんだ
        の心境である。
        「誕生日だよ!」
        「誕生日?・・・・あぁそうか。」
        龍麻は納得がいったかのように、ポンと手を叩いた。
        「今月の24日、京一の誕生日だっけ。」
        「違う!」
        思いがけない京一の否定の言葉に、龍麻はきょとんとなる。
        「・・・あっ、いや、24日が俺の誕生日だってぇのは、合ってるんだが、俺が
        言いたいのは、ひーちゃんの誕生日なんだよ。」
        ますます訳が判らず、龍麻は首を傾げる。
        「・・・・俺、一月生まれじゃないぞ。」
        「俺としたことが、迂闊だったぜ・・・・。」
        京一は、さっさと身支度を整えると、状況が把握できずに呆然としている龍麻に、
        コートを放り投げた。
        「さっさと出掛ける仕度をしろ。」
        「・・・なんで?」
        京一はニヤリと笑った。
        「黙って俺について来い。」
        結局、とことん京一に甘い龍麻は、訝しげに思いつつも、素直に頷いた。



        「で?そろそろ、理由を聞かせてくれないか?」
        新宿から小田急線に乗り、京一達は、江ノ島に来ていた。流石に、冬の海に
        いる物好きはいない。何で自分達はこんなところにいるのだろうか。そんな疑問を
        含んだ眼差しで、龍麻は京一を見つめる。
        丁度、海から吹く風に、普段隠されている龍麻の両目が露になり、京一は内心
        ドキリとする。
        “やっぱ、ひーちゃんて、綺麗だよな・・・・。”
        思わず見惚れている京一に、龍麻は不信の眼を向ける。
        「京一?」
        その言葉に、京一はハッと我に返る。
        「あっ、済まない。あんまり、ひーちゃんが綺麗だから、俺、見惚れてた。」
        素直な京一の言葉に、龍麻の顔が真っ赤になる。
        「あのなぁ、そんな事言うなら、俺帰るぞ!」
        龍麻は怒って、くるりと京一に背を向けると、そのまま駅に歩き出そうとした。
        「待てって。」
        龍麻の背後から、京一は抱き締めた。
        「は・・・離せ・・・。京一。」
        「嫌だね。・・・・絶対離さない。龍麻・・・。」
        耳元で囁かれる京一の声に、龍麻は真っ赤になって俯く。
        「なぁ、約束しただろ?全てが終わったら、二人だけで海に行こうって・・・。」
        京一の言葉に、はっとして龍麻は顔を京一に向けた。京一は穏やかな瞳で、
        龍麻を見つめていた。
        「憶えていてくれたの・・・か?」
        京一はニヤリと笑う。
        「勿論。俺が、ひーちゃんとの約束を、忘れるはずないだろ?」
        「京一!」
        堪らず、龍麻は京一に抱きついた。そんな龍麻を、京一は優しく抱きしめた。
        「へへっ。喜んでくれたか?一応、これが俺からの誕生日プレゼントということで・・・・。」
        京一の言葉に、龍麻は首を傾げる。
        「京一・・・・。俺の誕生日って知ってるか?」
        「当ったり前だろ?10月の・・・・。」
        京一の言葉に龍麻は溜息をつく。
        「今日は何月だ?」
        「1月。」
        即答する京一に、龍麻は頭痛がしてきた。
        「確か・・・、10月の俺の誕生日に、みんなでお祝いしてくれたと思ったのは、
        俺の気のせいか?」
        「それは、18歳の、お前の誕生日のことだろ?」
        「・・・・え?」
        驚く龍麻を、京一はぎゅっと抱き締めた。
        「これは、お前の1歳の誕生日の分だ。」
        「・・・1歳?」
        「お前と出会う前の18年もの間、俺、誕生日を祝ってやれなかったからな。」
        「そんなの当たり前だろうが!」
        龍麻の言葉に、京一は苦笑する。
        「あぁ・・・・。それが当たり前だよな。でもな、俺、どうしても過去のひーちゃんの
        誕生日を祝ってやりたかったんだ。」
        京一の言葉に、龍麻は驚きに目を見張る。暫く京一の顔を凝視していたが、
        やがてポツリと呟いた。
        「京一・・・・・・・。俺、実は誕生日が嫌いだったんだ。俺の誕生日には、
        何時も・・・・・・・母親の死がついて回っていた
        からな・・・。」
        龍麻は、京一の肩越しから、ぼんやりと海を眺めた。
        「俺・・・俺は・・・・。もし、俺が生まれなければ、母は・・・。」
        涙を堪えているのか、龍麻の身体が震えている。そんな龍麻を労わるように、
        京一は優しく抱き締めた。
        「なぁ、ひーちゃん。俺はお前が生まれて、ここに・・・俺の腕の中にいてくれることが、
        一番の幸福なんだぜ。」
        「京一・・・。」
        「お前が生まれて良かった。」
        不安に揺れる龍麻に、京一は微笑むと、頬に軽く口付けた。
        「愛している。だから、もし・・・とか言うな。」
        「京一・・・。」
        「泣くなよ。俺、お前に喜んで貰おうと思って、ここに連れて来たんだぜ?
        泣いたら、俺の立場ないじゃん。」
        おどけて言う京一に、龍麻は泣きながら微笑んだ。
        「ありがとう。京一。最高の誕生日プレゼントだ。」
        ありがとう。お前が側にいてくれて。今まで苦痛でしかなかった誕生日が、
        龍麻の中で大きく変わった。
        「ひーちゃん・・・・。」
        京一は真顔になると、ゆっくりと龍麻に口付けた。                                                                    

                                             FIN.