真神七不思議

 

                 〜 プロローグ 〜

 

             いつもの日常・・・・。
             いつもの風景・・・・・。
             でも、ほんの少しの狂いが、<日常>を<非日常>へと
             逆転させる。
             もし、そんな事になったら・・・・。



             「で?ひーちゃんは、そうなったら、どうするんだ?」
             京一が、珍しく難しい顔をしたと思ったら、そんな事を聞いてきた。
             「どうもしない。」
             俺は、パタンと教科書を閉じると、ノートを丸めて京一の頭を叩いた。
             「イテェ!」
             「・・・・・京一、バカな話をするんだったら、勉強を教えないぞ。明日の
             テストを赤点取って、一人で補習してくれ。」
             「・・・・ひーちゃん、それって、恋人の台詞じゃないぞ。」
             頬を膨らませる京一に、俺はにっこりと微笑んだ。
             「恋人だから、親切に勉強を教えているんだろ?京一は俺の恋人なのに、
             俺の事を疑うのか?」
             「そうじゃねぇけど・・・・。ただ・・・・。」
             京一は、深い溜息をついた。・・・・変だ。いつもの京一と何か違う・・・・。
             「ただ・・・ただ、何だよ・・・。」
             俺の言葉に、京一は意味深な笑みを浮かべる。
             「なぁ、ひーちゃん。明日って何の日だ?」
             「明日?生物のテスト。」
             即答する俺に、京一は脱力したように、机に懐く。
             「はぁ・・・・・。」
             そして、徐に盛大な溜息をつく。ムッ。なんだよ、その態度!
             「・・・・まっ、仕方ねぇか・・・・。ひーちゃん、転校して来たんだしな・・・・。」
             京一は、もう一度溜息をつくと、弱々しく微笑んだ。
             「悪ィ、ひーちゃん。今の事は忘れてくれ。」
             おーい、京一サン。それはないんじゃないか?そんな意味ありげな態度を
             取られて、忘れてくれだとぉ!?メチャメチャ気になるだろうがっ!!
             「京一・・・・。メチャメチャ気になる。いいから、言ってくれ。」
             「・・・・本当に?」
             京一の言葉に、俺はコクリと頷く。
             「本当に、本当に、本当に、いいんだな。」
             俺は、もう一度頷いた。
             「本当に・・・・・。」
             「しつこい!いいから早く言え!京一!!」
             俺は怒りのあまり、つい<秘拳 黄龍>を出してしまった。
             「うわぁああああぁあああああ。」
             宙を飛ぶ京一。ヤバー。まっ、いいか。京一だし。
             「ひ〜ちゃ〜ん〜。【愛】が感じられん〜。」
             ボロボロになりながら、なんとか京一が復活。流石、マイダーリン京一♪
             これからも安心して、奥義が出せるぜ!
             「ったく、自業自得だよ。さっ、チャッチャと話してもらおうか!」
             ニヤリと笑う俺とは対照的に、京一はまたしても盛大な溜息をつく。
             「・・・・・後悔するぜ。」
             「後悔?」
             後悔って・・・・。一体なんなんだろう。ちょっと不安だけど、ここで聞かなかったら、
             絶対に後悔する。同じ後悔するなら、聞いたほうがいいに決まっている。
             「本当にいいんだな。ひーちゃん。」
             真剣な顔の京一に、俺は覚悟を決めて頷いた。
             「じゃあ、話してやろう。<真神七不思議>の一つを・・・・。」
             「・・・・・・はぁ?」
             ナナフシギ?
             ナナフシギって、あの<七不思議>?
             どこの学校にも必ずあるという、あの<七不思議>?
             「・・・・・どうした?ひーちゃ・・・。」
             「きょ・・・・京一の・・・・・バカーッ!!秘拳黄龍×10!!!」
             「どわぁあああああああああああああああああああああああ。」
             全く・・・・。勿体ぶったくせに、ただの怪談だとぉお!?あ〜あ、時間を
             無駄にしたぜ。
             「ひ〜ちゃ〜ん。いきなり何すんだよ。」
             おお!さっきより復活する時間が早くなった。流石京一。素晴らしい
             順応力。おっと、感心している場合じゃなかった。京一が睨んでいる〜。
             「な・・・何だよ。京一がいけないんだぞ!」
             「俺が?何でだよ。」
             まるで判っていない京一に、俺は頬を膨らませた。
             「だって・・・・。」
             「あぁ、そうか!」
             ポンと京一は手を打った。
             「ひーちゃん、ただの怪談だと思っただろ。」
             え・・・。違うの・・・・か?
             「いいか、ひーちゃん。確かに、真神学園にも<学校の七不思議>がある。
             でもな、これから俺が言うのは、<真神七不思議>なんだ。」
             ???どう違うんだ?俺は首を傾げた。
             「京一、言っている意味がわからん。もっと判るように説明してよ。」
             すると、京一はニヤリと笑うと、いきなり俺を抱き締めた。
             「きょ・・・京一!!」
             「へへっ。これから俺が言う話は、メチャメチャ怖いぜ。だから・・・さ。」
             「・・・・・・わかった。」
             早く話を進めたい俺は、大人しく京一の腕の中に収まった。それに気を
             良くした京一は、俺の髪を弄びながら、話を続けた。
             「真神学園には、勿論、他の学校と同じような<学校の怪談>もあるけど、
             その他に、真神だけにしかない、怪談がある。そんで、他の学校の怪談と
             区別するために、<真神七不思議>と名前がついている。」
             神妙な面持ちの京一に、俺も神妙な顔つきになってくる。
             「<真神七不思議>っていうのは、不思議な話が七つあるんじゃなくって、
             一週間、つまり、七日間毎日一回、不思議な事が起こるんだ。」
             「一週間も?」
             俺の言葉に、京一は頷いた。
             「そっ。どんな事が起こるのかは、その年によって違うが、共通して言える
             事は、創立記念日の一週間前から、一日一回、不思議な事が起こるって事
             だ。」
             創立記念日・・・・・って・・・・・確か・・・・・。
             「ちょっと待て。その話が本当なら、明日は丁度・・・・・。」
             俺の言葉を京一は引き継いだ。
             「そうだ。明日で丁度、創立記念日一週間前。つまり、<真神七不思議>
             最初の日だ。」
             ま・・・・マジ?
             「京一・・・冗談・・・・だよ・・・な?」
             引きつった笑みを浮かべる俺に、京一は真剣な表情のまま答えた。
             「俺、冗談なんて言ってないぜ。」
             「えーっ・・・・・。でも・・・・・。」
             不信感一杯の俺に、京一は苦笑する。
             「本当だって。そんなに疑うんなら、明日醍醐にでも聞いてみろよ。まっ、
             教えてくれねェがな。なんせ、去年の当事者だから。」
             「醍醐が・・・・。去年の当事者・・・・。」
             俺の言葉に、京一は頷いた。
             「あぁ。大将、その時の事が原因で、人一倍怖がりになったらしいぜ。」
             ・・・・・醍醐をあそこまで怖がらせたもの・・・・。俺は背筋が寒くなるのを
             感じ、身震いした。
             「・・・・・止めるか・・・・?」
             そんな俺に気遣い、京一が優しく尋ねてきた。
             「いや。大丈夫。続けて・・・・。」
             「・・・・わかった。じゃあ、話すぜ。<真神七不思議>の一つを・・・・。」