「実際、<真神七不思議>っていうのは、現実に起こるから
厄介なんだよ。」
京一の言葉に、俺はまだ信じられない顔で尋ねた。
「本当に?何か嘘っぽいんだよな・・・・。」
納得がいかない俺に、京一は苦笑する。
「本当だって。まっ、その年によって起こることは違うんだけどな。
去年の醍醐の話も、メチャ怖いぜ。」
「そうそう、どんな話なんだ?」
京一は腕を組んだ。
「うーん。大将、詳しい事はあまり話さなかったんだが、何でも
パラレルワールドに迷い込んだとか、なんとか・・・・。」
何だよ・・・・。メチャ怖いって言ったくせに、詳細を聞いてないだってぇ?
つい、京一を睨んでしまう。そんな俺に、京一は苦笑した。
「そんな顔すんなよ。第一、醍醐の奴が、その件に関して、あまり
話さないんだから、仕方ないだろ?」
そりゃ・・・・そうだけど・・・・。
まだ納得のいかない俺に、笑いながら京一は話を続けた。
「創立記念日の一週間前から、不思議な事が実際に起こっているにも
関わらず、学校の対応っていうのは、頭が硬いのか知んねぇーけど、
しっかり授業を行う。まっ、過去の事からも、生死に関わる事がないって
いうのが理由なんだけどな。一応、事故に繋がる危険性のある、実験とか
体育なんかは、教室での授業に切り替わっているけど。」
そこで、俺はポンと手を打った。
「あぁ、だから明日の生物は、急遽テストなのか・・・・・。」
俺の言葉に、京一は面白くなさそうに言った。
「ったく・・・・。どうせなら、一週間休みにしてほしいよな。ひーちゃん。」
拗ねる京一が可愛くって、俺はクスクス笑った。
「明日のテスト、大丈夫?」
「へっ!俺を信じろ!ひーちゃん!」
不適に笑う京一に、俺は笑いながら京一の頬に軽く口付ける。
「ひ・・・ひーちゃん・・・・。」
「テストで赤点を取らない為のおまじない。それとも、勉強の方が
良かった?」
俺の問いに、京一はニヤリと笑う。
「それよりも、こっちの方が効きそうだな・・・・・・。」
そんな事をいいながら、不埒な京一の手が、俺のシャツの間に
滑り込んでくる。
「京一・・・・・いい加減に・・・・・。」
にっこり微笑みながら、俺は右の拳に≪氣≫を集め出した。
「ちょ・・・タンマ!悪かったよ!ひーちゃん!!」
危険を察知し、京一は慌てて行為を中断した。
「ったく・・・・・。いい加減、話を先に進めてくれ。で?去年、醍醐は
どうしたんだ?」
京一は不服そうな顔をしながら、話を再開した。そうそう、最初から
素直に話せよ。
「・・・・・・去年、<真神七不思議>の第一日目の犠牲者は、醍醐
だった。その日の1時限目は、生物だった。当然、実験なんか
やれないから、テストだったんだが、あろうことか、醍醐の奴、生物の
教科書を、前日の実験の時に、生物室へ忘れてしまったんだ。
そこで、醍醐はどうしたと思う?」
俺は首を傾げながら答えた。
「朝早く教科書を取りに行って、試験が始まるまで、教室で勉強する?」
俺の答えに、京一は大きく頷いた。
「そう。奴はいつもより早く教室に着いた。鞄を置いて、生物室に
向かったんだが・・・・・。」
そこで一旦言葉を切ると、京一は声を潜めた。
「たどり着かなかったんだ。」
たどり着かなかったって・・・・・・・・?
「どういうこと?」
首を傾げる俺に、京一は肩を竦ませた。
「言葉通りの意味だ。階段を降りても降りても、必ず戻ってしまうんだ・・・。
教室の前に・・・・。」
「それって・・・・・つまり・・・・・。」
俺の言葉を京一が繋げた。
「多分、空間のループって奴?歩いても歩いても、元の場所に戻んだよ。」
俺は、背筋が寒くなるのを感じ、知らず京一に抱きつく。
「だがな、話はそれだけでは、終わらないんだ・・・・・。」
まだあるのかっ!ますますきつくしがみつく俺を、京一は優しく
抱きしめてくれた。
「それだけじゃ、終わらなかったって・・・・・。」
まだ何かあるのだろうか・・・・・。
空間のループだけでも怖いって言うのに・・・・。
思わず京一の胸にしがみつく俺に、京一は少し困ったような顔をした。
「・・・・・やっぱ、止めるか?」
優しい京一・・・・。でも、ここで止められたら、気になって仕方ないし・・・・。
「怖いけど・・・・・聞く。」
俺の言葉に、京一は話を再開した。
「・・・・いつまで経っても、生物室に行けないから、醍醐は教科書を
諦めたそうだ。まっ、時間もなくなった事だし、教室へ入ることにした。
ところがだ。」
そこで一旦言葉を切ると、京一は声のトーンを落とした。
「教室の扉を開けると・・・・・。」
俺はゴクリと唾を飲み込んだ。
「授業中だった。しかも、前日の授業だったんだ。」
「・・・・・はぁ?」
何?どういうこと?
「空間だけではなく、時間までも、おかしくなっていたらしい。」
空間のループだけじゃなくって、時間まで・・・・。
そんなことが実際に起こせるものなのか?
いや、それよりも、そんな事が起こせるくらい強い<力>を持つもの
ならば、早めにお祓いしたほうが・・・・・。
「で?それから醍醐はどうなったんだ?」
今、醍醐がちゃんと生きているから、その後も無事だったんだろうけど、
それはたまたま無事であっただけで、実際、命の危険に晒されていた
かも・・・・・・。
「醍醐の話はそれだけだ。後はいくら聞いても、口を閉ざしたまんまだ。
まっ、それ以来、醍醐が幽霊の類を極端に怖がったくらいだな。」
「それって、それだけ恐ろしい目に会ったってことだよね・・・・。」
一体、何があったんだろう。明日にでも、直接聞こうかな。
「言っておくが、明日は聞かない方がいいぜ。」
俺の考えを読んだかのような、抜群のタイミングで京一が言う。
「何で?気になるし、もしかしたら、<敵>と関係が・・・・・。」
「そういう話をすると、寄って来るって言うだろうが。それで次の
犠牲者が、ひーちゃんになるかも、しんねぇんだぞ!!」
「でも・・・・。」
俺の抗議の言葉は、荒々しく重ねられた京一の唇によって、途切れた。
「ちょ・・・きょう・・・・。」
「ひーちゃん。何があっても、必ず俺が守る。」
悲しいまでに真剣な表情の京一に、俺は胸の中が熱くなり、京一の
首に腕を回すと、自分から口付けた。
「京一・・・・。好き・・・・。」
キスの合間に囁き続ける俺の言葉に、京一は我慢できないというように、
俺の身体を弄りだした。
う・・・・。明日、生物のテストだから、試験勉強したいんだけど・・・・。
でも・・・・・。
「ひーちゃん・・・・。愛している・・・・・。」
でも、いいか。2人ともその気になっているし・・・・。何よりも・・・・・。
俺が京一を感じていたい。
「あっ・・・・・きょういち・・・・・。」
その言葉が合図かのように、京一は俺を床の上に押し倒す。さっきの
話の恐怖と明日への不安に、俺はいつも以上に、京一との行為に、
没頭していった。