俺の名前は、蓬莱寺京一。
自他共に認める、真神一の伊達男。
ついこの間、念願叶って緋勇龍麻という、
素晴らしい恋人まで出来た。
龍麻・・・・あだ名が“ひーちゃん”って言うんだが、
そのひーちゃんと初めて過ごす夏休みだからさ、
気合入り捲くりで、終業式が終わってから、
ずーーーーーーーーーーーーーーっと
ひーちゃんと一緒に過ごしてたんだぜ。
まさに、この世の春、(今は夏だけどさ。)って感じで、
幸せな気分を充分に味わっていた。
ところがだ、昨日の朝方、剣道部の副部長とその配下の
部員数名が、突然乱入して俺をこんな辺鄙な田舎へと
拉致したんだ。クーッ。
気分は天国から地獄へと一気に転落した。
・・・・・で、今に至る訳だ。
あぁ・・・・。ひーちゃん、今頃すっげー心配しているだろうな・・・。
そう言えば、某番組で、売れないお笑い芸人が、好きな
野球チームを応援する為、シーズン中、隔離されるってのが
あったな。真夜中、突然乱入してきたプロデューサーとかに
連れ去られてさぁ・・・・。応援しているチームが勝てば
食事を貰えて、連勝すると恋人に会えるってやつ。
あぁ、今の俺の状況と同じじゃねーか。なんて不幸な俺・・・。
ひーちゃん・・・・。会いてぇよぉ・・・・・。
「何、サボッてんだ?主将!!」
人が感傷に浸っているというのに、何様だよ、お前。
「・・・・・調子が出ねぇんだよ。」
だが、怒らせると部で一番怖い奴だから、俺はそれだけ言う。
「何か悪いモンでも食ったのか?」
カカカカカ・・・・と、笑いながら、バンバン背中を叩く。
痛ェぞっ!副部長!
「あんなまずい飯のせいだ。ったく、何で俺がここに
いなければ、なんねぇんだよっ!」
「何を言ってる。部長のくせに。普段、サボッてばかりいるんだ。
こういう時こそ、率先して後輩の面倒を見たらどうだ?折角の
合宿なんだし。」
何が折角の合宿だよ。無理矢理連れて来たくせに。
恨みを込めて睨んだが、副部長は全く気にせず時計を見ると、
京一の竹刀を取り上げると言った。
「そろそろ着く頃だな。京一、お前ヒマなんだから、下の
バス停まで迎えに出てくれ。」
「誰か来んのか?」
素早く道場を見回すが、欠けている人物はいない。って事は、
外部の人間か?
「フフフ。合宿を円滑に行う為の秘密兵器だ。」
秘密兵器だぁ?何考えてんだ、こいつ。
「いいから、早く迎えに行ってこい!急がないと待たせるだろうが。
こっから片道30分かかるぞ。」
そう言うと、俺を道場から追い出し、自分はさっさと稽古に
戻って行った。
・・・・・ったく、何なんだよ!一体!!
しぶしぶ下のバス停まで行くと、丁度バスが止まる所だった。
しまった!名前聞いてねぇ。
まっ、こっちは真神の胴着を着ている訳だし、向こうが気付いて
くれるだろう。
そう思って、バスから降りてくる最後の人物の顔を見て、
俺は驚いて立ち尽くす。
「京一!!」
嬉しそうに俺に向かって走ってくるのは、間違いねぇ!
俺のひーちゃんだっ!!
「ひーちゃん!!」
俺の胸に飛び込んできたひーちゃんの身体を、きつく
抱き締めた。もう何年も会ってねぇみてぇだ。
「・・・・・・・・どうしてここに?」
俺、詳しい事何も言わなかったのに。
「どうしてって、俺、副部長に合宿中のマネージャーを
頼まれたんだけど・・・・・・聞いてない?」
「いつ!!」
「いつって・・・・・確か終業式の日だったかなぁ・・・・・。」
聞いてねぇよ。どうりで連中、ひーちゃんの家を知っていたと
思ったぜ。
「・・・・・京一?どうかした?」
心配そうに俺の顔を覗き込むひーちゃんが、すっげー可愛い。
「//////!!」
だから、つい掠めるように唇を合わせた。
途端、ひーちゃんの顔がますます赤くなる。
「さぁ、行こうか。マネージャー。」
ひーちゃんの荷物を持つと、右手をひーちゃんに差し出す。
「あぁ、部長。」
重ねられた手に、俺はこれ以上ない程、幸せな気分で
合宿所に向かって、ゆっくりと歩き出した。
FIN