「力か・・・。」
俺の呟きに、ひーちゃんが、キッチンから顔を出した。
「何か言った?」
俺は頭を払うと、ひーちゃんにおいでおいでをした。
「・・・まだ洗い物が途中なのに・・・。」
ブツブツ文句を言いながらでも、ひーちゃんは、俺の側まで来てくれた。
「で?どうしたんだ?どっか身体の具合でも・・・・。」
屈み込むひーちゃんの腕を取ると、思いっきり引っ張った。
「うわああ!」
予想に違わず、ひーちゃんは俺の腕の中。俺は嬉しくなって、俺は腕に力を込めた。
「京一?」
そんな俺に、ひーちゃんは、ますます心配な顔を近づけてくる。
「本当に、変だぞ。」
「・・・・なぁ、ひーちゃん。」
俺はひーちゃんの顔を見ずに言った。
「力が欲しい。」
「・・・・・何だって?」
訝しげなひーちゃんの声に、俺はもう一度呟いた。
「俺、誰よりも強くなりてぇ。」
その言葉に、ひーちゃんはにっこり笑うと、そっと俺の髪に口付けた。
「もう、十分強いじゃないか。」
そんなひーちゃんの言葉に、俺は首を振った。
「俺、すげぇ弱いよ。それが、この前の事件で、良く判った。」
その言葉に、ひーちゃんの身体がピクリと反応する。
「俺、どこか慢心していたんだ。誰よりも強いって。ひーちゃんの隣に立てるほど、強いって・・・・。」
「な・・何だよ。どういう意味だよ。」
震えるひーちゃんの背中を優しく抱き締めた。
「壬生って、ひーちゃんの兄弟子なんだろ?」
俺の言葉に、ひーちゃんは頷いた。
「俺、あいつにだけは負けたくねぇ。」
脳裏に、壬生に庇われたひーちゃんの姿が蘇る。もう少し早く着いていたら・・・。いや、俺がひーちゃんの側を離れなければ、壬生なんかに、ひーちゃんを守らせなかったのに。
「・・・・京一、俺の事好き?」
落ち込む俺の顔を両手で挟み込むように持ち上げると、ひーちゃんは俺に微笑んだ。
「決まっているだろ。愛しているぜ。」
ひーちゃんは、幸せそうに微笑むと、俺の唇に自分の唇を重ね合わせた。
「なら、いいじゃん。俺も京一のこと好き。京一だけを愛している。それだけじゃ、駄目なのか?」
その言葉に、俺はハッと我に返った。
「負けたくないって気持ちって、確かに大事だよ。でもさ、何で負けたくないかってこと、忘れちゃ駄目だよ。京一。」
そうだろ?というひーちゃんの顔は、すごく優しくて、気分がマイナス方向に傾いていたのが、一気にプラスへと傾いた。多分、これから先、自分が信じられなくなった時、真っ先に思い浮かべるのは、このひーちゃんの顔なんだろうな・・・。
「そうだな。そうだった。ひーちゃん。すまねぇ。弱音を吐いて。」
「京一が弱音を吐けるのって、俺だけだって、自惚れてもいい?」
だったら、許してやるというひーちゃんの問いに、俺は、濃厚なキスで答えた。
・・・全く、お前には敵わないよ。
FIN.