“月は、いつも地球に 同じ顔を見せています。 それは、何故だと思いますか?” 月を見上げると、いつも頭に浮かぶ言葉がある。 “それは、月は、地球が大好きだからなんです。” 自転と公転の周期がほぼ等しいから、月は地球に同じ面を見せると、後になって、授業で習ったが、それでも、三つ子の魂百までとは、良く言ったもので、“地球に恋する月”のイメージが頭から離れない。 “でも、地球はどうだったのでしょうか?” 月と地球の関係に、俺と京一の関係を重ね合わせるのは、俺が心弱い人間だからなのだろうか・・・・・。 「ひーちゃん、それでさぁ・・・。」 ・・・自他共に認める、真神一の伊達男。蓬莱寺京一。 「ひーちゃん?」 ・・・当然女にモテるわけで・・・・。 「ひーちゃん!おい!ひーちゃん!!」 ・・・なんで・・・。 「おい!無視すんなよ!ひーちゃん!!」 ・・・なんで、俺はこいつに惚れてしまったんだろう・・・。 「ひーちゃん!!」 「うわあああああ!!」 耳元の大音量に、俺は思わず後ろに倒れそうになった。 「おっと!大丈夫か?ひーちゃん!」 すかさず京一が、俺を引き寄せてくれたから、無様に引っ繰り返る事にならずにすんで、良かったんだけど・・・この状態は・・・・。傍から見ると、男二人の抱擁に見える訳で・・・。しかも、ここ往来。ちょっと名残惜しいけど、そそくさと京一の腕の中から逃れた。 「サンキュー、京一。」 ほら、家で練習したかいがあって、親友の顔で礼が言えた。上出来。上出来。でも、心の中は、思わぬアクシデントに、失神寸前だったりする訳なんだけど・・・。 「あのよぉ・・・。ひーちゃん・・・。」 「何?」 京一は口を開きかけたけど、次の瞬間、溜息をつくと首を横に振った。 「・・・いや、なんでもねぇ。」 「京一?」 いつもの京一と違う。けど、自分の事で精一杯の俺は、それ以上何も言えなかった。 「・・・・。俺、帰るぜ。じゃあな。」 京一は、俯きながらそう呟くと、そのまま走り出した。 「きょ・・京一!!」 俺はとっさに追いかけようと数歩行きかけたが、まるで地に足が貼りついたかのように、その場から動けない。 「・・・・追いかけて、それで俺はどうするつもりだ?」 俺は固く眼を瞑る。告白でもするつもりか?龍麻。こんな想い、京一には、迷惑だよ。こんな想いは・・・・。でも・・・・。 「それでも、俺、京一が好きだよ。」 俺の呟きは、闇に溶ける様に、消えてなくなった・・・・。 一人暮しの俺の部屋は、機能性重視で、余分なものは一切ない。必要最低限の荷物しかないその部屋に、最初に入った京一は、ゲラゲラと笑い出したのを覚えている。 「ったく、信じらんねぇ。こんな何にもない部屋で、寂しくないのかよ?」 「うるさい。俺は、シンプルなのが好きなの!」 その時は、京一に特別な感情がなかったから、普通に受け答えしていた。 「本当か?俺だったら、耐えられねぇ。」 「言ってろよ。ところで、マグねぇから、紙コップでいいか?」 一人暮らしだから、自分の分しかない。京一には紙コップで我慢してもらおうと、声をかけたら、戻ってきたのは、怒鳴り声だった。 「ふざけろよ!おい、ひーちゃん、スーパーに行くぞ!」 「何で?」 そのスーパーから、今戻ってきたにも関わらず、京一は再び外出する準備を始めた。 “訳わかんねぇ奴。” それが、偽りない俺の京一への感想だった。 「いいか?俺はお前の親友だ。だから当然、俺はここに出入りする。」 「あぁ、別に構わないぜ。」 「だから買いに行こうぜ。俺専用の食器を。」 「・・・・・はぁ?」 何でそんな話になるんだろうと、俺はじっと京一を見つめた。 「だってよぉ、俺ずっと紙コップなんて嫌だぜ。まるで、その場限りの人間みたいじゃんか。だから、行こう!ひーちゃん。」 その時の京一の満面の笑みに、俺は不覚にも惚れてしまった。 一体、何故なんだろう。何故惚れてしまったんだろう。こんなに苦しいのに。こんなに悲しいのに。 それからの俺はまるで月のように、京一から目が離せなくなった。あの童話『月の祈りと地球の涙』のように・・・・。でも、俺はあの月のように、京一の幸せだけを願えるだろうか・・・・。 “神様、私の願いを叶えてください。あの人が笑ってくれさえすれば、それだけで、私は幸せになれるのです。” FIN. |