世界で一番、お前が好き

 

                   第3話

 

“月は地球の言葉に、考え込みました。”
“地球が泣く訳を。”
“どうしたら、笑ってくれるのかを。”
“自分は地球に何をしてあげられるだろう・・・・。”
“月は、一生懸命に考えます。”




「一体、どうすればいいんだ?」
京一の突然の来訪から、今日で1週間経つ。あれ以来、京一は必要以上俺に話しかけなくなった。
「・・・・俺が嫌いって訳でもないんだよな・・・・。」
最初は、俺が嫌いだから、必要以上近づいてこないのかと、心を痛めていたけど、俺が他の人間と一緒にいたり、話をしたりするだけで、京一は不機嫌な顔で、俺を呼びつける。・・・・これって嫉妬なんだろうか・・・。でも、相変わらずモテる京一は、毎日女の子の呼び出しを受けては、鼻の下を伸ばしながら、出かけていく。・・・・一体、京一は何を考えているんだ?さっぱり分からない。
「・・・・京一の馬鹿・・・・。」
「誰が馬鹿だって?」
つい口に出た言葉に、背後から声がかけられ、俺は驚いて後ろを振り返った。
「きょ・・・きょ・・・京一!!!」
一体、何時の間に!!全然気づかなかった。
「なんだよ、その幽霊にでもあった顔は。」
京一がニヤリとしながら、俺の側まで来ると、俺の腕を取った。
「京一?」
「・・・・ここじゃあ、人目につく。屋上に行こうぜ。」
そう言うと、俺の返事も待たずに、ぐいぐい引っ張って歩き出した。




「へへっ。ラッキー!誰もいねぇぜ。俺達二人だけの貸切みたいじゃねぇか!!」
京一は、嬉々としてドアにカギをかけた。
「何で、カギなんかかけるんだ?」
っていうか、もう下校時間なんだから、誰も来ないって。
「念には念を入れてって言うだろ?そんなことより・・・・。」
そこで京一は言葉を切ると、真剣な眼差しで俺を見つめた。
ドキ・・・・。
ドキ・・・・。
京一の真剣な顔・・・。
カッコイイけど・・・・。
でも、何だか怖い・・・・。
そんな俺の心の声が聞こえたのか、京一は表情を和らげてくれた。
ドキ・・・ドキ・・・ドキ・・・・。
「・・・・・か?」
その顔につい見惚れてしまった俺は、一瞬京一が言った言葉を聞き逃した。
「・・・・え?」
そんな俺に、京一はにっこりと微笑みながら、もう一度言ってくれた。
「俺の言いたい事、わかってくれたか?」
「・・・・・・。」
京一の言いたいこと・・・・。ずっと考えていたけど、全く分からない。第一、俺は何を考え違いしているんだろう。俺は京一の顔を真っ直ぐ見ていられなくって、俯いた。そんな俺に京一は溜息をつきながら、ポツリと呟いた。
「・・・・そっか。」
失望の色も露な京一の声に、俺は反射的に顔を上げた。そこには、京一の寂しげな笑顔があった。
ドキン・・・。
その顔を見た瞬間、俺の胸は罪悪感で痛んだ。
“京一にこんな顔をさせてしまった・・・・。”
落ち込む俺に、京一は気づかないのか、それとも知っていてわざとなのか、妙に明るい声で言葉を繋げた。
「・・・・今日、本を返そうかと思ってな。」
京一の手にしている本は、1週間前に俺から強引に借りていった、童話『月の祈りと地球の涙』だった。京一は本を渡しながら、俺の両手を本ごと握り締めた。
「・・・・もう一度、この本を素直な気持ちで読んで見てくれ。」
「・・・・どういうこと?」
京一の真意が分からず、首を傾げる俺に、京一はもう一度微笑むと、そのまま何も言わず、屋上から去っていった。
「・・・・一体、どうしろって言うんだ・・・・。」
ぽつんと一人取り残された俺は、手渡された童話を見つめながら、溜息をついた。




“月は一生懸命考えます。”
“何日も何日も”
“月は考え込みました。”
“その間、地球はどんどん涙の海に覆われていきました。”
“このままでは、地球から陸地は無くなってしまいます。”
“困った月は、神様に相談することを、思いつきました。”



                        FIN.