“月は地球の言葉に、考え込みました。” “地球が泣く訳を。” “どうしたら、笑ってくれるのかを。” “自分は地球に何をしてあげられるだろう・・・・。” “月は、一生懸命に考えます。” 「一体、どうすればいいんだ?」 京一の突然の来訪から、今日で1週間経つ。あれ以来、京一は必要以上俺に話しかけなくなった。 「・・・・俺が嫌いって訳でもないんだよな・・・・。」 最初は、俺が嫌いだから、必要以上近づいてこないのかと、心を痛めていたけど、俺が他の人間と一緒にいたり、話をしたりするだけで、京一は不機嫌な顔で、俺を呼びつける。・・・・これって嫉妬なんだろうか・・・。でも、相変わらずモテる京一は、毎日女の子の呼び出しを受けては、鼻の下を伸ばしながら、出かけていく。・・・・一体、京一は何を考えているんだ?さっぱり分からない。 「・・・・京一の馬鹿・・・・。」 「誰が馬鹿だって?」 つい口に出た言葉に、背後から声がかけられ、俺は驚いて後ろを振り返った。 「きょ・・・きょ・・・京一!!!」 一体、何時の間に!!全然気づかなかった。 「なんだよ、その幽霊にでもあった顔は。」 京一がニヤリとしながら、俺の側まで来ると、俺の腕を取った。 「京一?」 「・・・・ここじゃあ、人目につく。屋上に行こうぜ。」 そう言うと、俺の返事も待たずに、ぐいぐい引っ張って歩き出した。 「へへっ。ラッキー!誰もいねぇぜ。俺達二人だけの貸切みたいじゃねぇか!!」 京一は、嬉々としてドアにカギをかけた。 「何で、カギなんかかけるんだ?」 っていうか、もう下校時間なんだから、誰も来ないって。 「念には念を入れてって言うだろ?そんなことより・・・・。」 そこで京一は言葉を切ると、真剣な眼差しで俺を見つめた。 ドキ・・・・。 ドキ・・・・。 京一の真剣な顔・・・。 カッコイイけど・・・・。 でも、何だか怖い・・・・。 そんな俺の心の声が聞こえたのか、京一は表情を和らげてくれた。 ドキ・・・ドキ・・・ドキ・・・・。 「・・・・・か?」 その顔につい見惚れてしまった俺は、一瞬京一が言った言葉を聞き逃した。 「・・・・え?」 そんな俺に、京一はにっこりと微笑みながら、もう一度言ってくれた。 「俺の言いたい事、わかってくれたか?」 「・・・・・・。」 京一の言いたいこと・・・・。ずっと考えていたけど、全く分からない。第一、俺は何を考え違いしているんだろう。俺は京一の顔を真っ直ぐ見ていられなくって、俯いた。そんな俺に京一は溜息をつきながら、ポツリと呟いた。 「・・・・そっか。」 失望の色も露な京一の声に、俺は反射的に顔を上げた。そこには、京一の寂しげな笑顔があった。 ドキン・・・。 その顔を見た瞬間、俺の胸は罪悪感で痛んだ。 “京一にこんな顔をさせてしまった・・・・。” 落ち込む俺に、京一は気づかないのか、それとも知っていてわざとなのか、妙に明るい声で言葉を繋げた。 「・・・・今日、本を返そうかと思ってな。」 京一の手にしている本は、1週間前に俺から強引に借りていった、童話『月の祈りと地球の涙』だった。京一は本を渡しながら、俺の両手を本ごと握り締めた。 「・・・・もう一度、この本を素直な気持ちで読んで見てくれ。」 「・・・・どういうこと?」 京一の真意が分からず、首を傾げる俺に、京一はもう一度微笑むと、そのまま何も言わず、屋上から去っていった。 「・・・・一体、どうしろって言うんだ・・・・。」 ぽつんと一人取り残された俺は、手渡された童話を見つめながら、溜息をついた。 “月は一生懸命考えます。” “何日も何日も” “月は考え込みました。” “その間、地球はどんどん涙の海に覆われていきました。” “このままでは、地球から陸地は無くなってしまいます。” “困った月は、神様に相談することを、思いつきました。” FIN. |