世界で一番、お前が好き

 

                    最終回

 

「京一・・・・・。」
京一と向かい合わせに座って、俺はじっと京一の顔を見つめた。
「あの・・・京一・・・・。」
言いたい事が、たくさんあるのに、俺はどう切り出していいか判らず、途方に暮れた。
「その・・・・。」
何度目かの溜息の後、俺は口を開きかけた時、京一が黙って立ち上がった。
「京一!!」
呼び出したのに、何時までも用件を言わない俺に呆れて、帰ってしまうのだろうかと、半ば腰を浮かしかけたが、京一はただ場所を移動しただけだった。俺のすぐ横に。
「えっ。あの、京一!!」
焦る俺に、京一は穏やかな笑みを浮かべて、俺の手を取ると、自分の唇に押し当てた。
「きょ・・・・。」
突然の事に、パニックになる俺を、京一は真剣な表情で言った。
「俺、ひーちゃんの事が好きだ。・・・・・愛している。」
「!!!!」
夢でも見ているのだろうか。俺は信じられない想いで、京一の顔を凝視する。
「ひーちゃんも、俺のこと、好きだろ?」
ニヤリと笑う京一に、俺は半ば呆然となりながら、大きく頷いた。そんな俺の様子に満足したのか、京一は急に俺の腕を自分の方に引っ張った。突然の事に、対処できなかった俺は、当然の結果として、京一の胸に倒れ込んだ。
ドク・・・。
ドク・・・。
ドク・・・。
規則正しい京一の心臓の音が聞こえる。
とっても安心できるその音に、俺は目を瞑った。
ドク・・・。
ドク・・・。
ドク・・・。
京一は、俺の髪を弄びながら、ポツリと呟いた。
「何時ひーちゃんに告白しようかって、ずっと思っていた。ひーちゃん、ずっと辛そうだったから、俺、どうしていいか、判らなかった・・・・。」
京一の告白に、俺は閉じていた目を開けると、じっと京一の顔を見つめた。それに構わず、京一の告白は続く。
「ひーちゃんが、何に悩んでいるのか。それに気づいた時、俺スッゲー嬉しかった。」
その言葉に、俺はガバッと跳ね起きた。
「い・・い・・・いつ・・・・何時気づいたんだっ!!」
「2週間くらい前だったか?ほれ、体育の授業で、サッカーボールが、俺の顔面を直撃して、保健室に行った時あったじゃん。」
俺は、急いで2週間前の事を思い出した。そう、あの時、オーバーヘッドキックをやろうとして、誤って顔面にボール受けたんだよな。京一。
「あの時さ、ひーちゃん昼休み、様子を見に来てくれただろ?」
そう、京一が心配で様子を見に行ったんだけど、確か寝てたから、起こさないでそっと帰ったんだよな・・・・。
「実はさ、あの時俺起きてたんだよ。」
「へっ。」
何?起きていた?でもあの時、俺何かしたっけ?
訳が分からず首を傾げると、京一のニヤニヤ笑いが目に付いた。むむっ。嫌な予感・・・・。
「あの時、ひーちゃん呟いたよな。」
え・・・えっと、何を呟いたっけ・・・・。
ジリジリと俺に近寄る京一に、俺はジリジリと後ろに後退したが、直ぐにクローゼットに背をぶつけてしまった。まるで獲物を襲うライオンのように、ゆっくりと俺に近づいてくる。
「“京一の馬鹿。カッコつけるからだ。これに懲りて、大人しくしろよ。”」
京一は、ニヤリと笑いながら、左手をクローゼットにつける。
「“そんな京一でも、俺、どうしようもなく好きだ。・・・京一には、迷惑な話だよな。”・・・・・そう、言ったんだぜ?ひーちゃん。」
京一は右手で俺の腕を掴むと、グイッと引き寄せた。そして、耳元で、囁く。
「俺、嬉しくってさ、直ぐにひーちゃんに告白しようとしたんだぜ?でも、ひーちゃん、いつも上の空だし、最初から、この恋が成就出来ないって思い込んでいただろ?」
だって・・・。普通、成就しない恋じゃん・・・・。
俺は、シュンと項垂れた。
「だからさ、俺はひーちゃんに素直になって欲しくって、あの本を利用したんだ。」
あの本と言われ、俺は反射的に、テーブルの上に置きっぱなしになっていた本を見た。京一もそれに気づき、空いている左手で本を掴むと、パラパラとページを捲った。
「これ、俺も大好きだった本でさ。この月と地球の恋に憧れた。」
「憧れ・・・・?」
俺の言葉に、京一は頷いた。
「あぁ、こんなに強く想い合っているんだ。」
「でも、すれ違っている・・・・。」
俺の呟きに、京一は軽く笑った。
「確かに、地球の想いに、最後まで月は気づかない。地球は寂しいと言って泣いていた。月が側にいなくって寂しいと泣いていたんだ。月は勘違いをおこして、地球に生命をプレゼントをしたが、地球にとって嬉しいのは、月が自分のために何かをしてくれたからという事と、ずっと月が自分を見ている事なんだ。月は、地球の笑顔を望み、地球は、月が自分の側にあることを望んだ。その証拠に。」
京一は、パラリとページを捲った。
「地球が、月の視線を一番強く感じる時だけ、涙を流さない・・・・引き潮になるんだ。」
京一は、照れたように、笑った。
「俺にとって、ひーちゃんは、月であり、地球なんだ。ひーちゃんの笑顔を守りたいし、ひーちゃんの側にずっといたい・・・・。」
京一はフッと真顔になると、じっと俺の顔を見つめた。
「世界で一番、お前が好きだ・・・・。」
「京一・・・・・。」
ゆっくりと俺と京一の身体が、一つに重なった頃、天空では、満月が地球を愛しそうに見つめていた。




                       FIN