東京大魔陣 番外編

 

         側にいるよ・・・・

 

 

                

                雨が降る・・・・。
              


                こんな日は、外に行けないから、
                つまんない。


                でも、二人一緒なら楽しいよ。



                     だから、側にいて・・・・・・。






                突然降りだした雨・・・・。
                傘を持っていなかった俺は、店の軒下で雨宿り。
                俺って、ツイてねぇな・・・・・。





                「京一、じゃないか?」
                突然名前を呼ばれ、それまで空を仰いでいた俺は、
                驚いて振り返る。
                「やっぱり・・・・。どうしたんだ?そんなところで・・・・。」
                俺は内心、舌打ちした。どうして、よりにもよってこいつに
                会うんだろうか・・・・。にこにこと微笑みながら、俺に
                近づいてくる奴に、俺は無愛想に言う。
                「見てわかんないのか?雨宿りしてんだよ。」
                俺のつっけんどんな態度に、奴はちょっと驚いたような
                顔をしたが、すぐにいつもの穏やかな笑みを浮かべると、
                自分が差している傘を差し出した。
                「こんな所にいたら風邪引くぞ。俺の家、すぐ近くなんだ。
                良かったら寄っていく?」
                ”気に入らないな・・・・・。”
                それが俺の正直な感想だった。こいつはいつもそうだ。
                俺じゃなくっても、誰にでもそう言うに違いない。
                そう、誰にでも・・・・。
                「どうかしたのか?」
                いつまでも動かない俺に、奴、緋勇龍麻は、首を傾げる。
                その拍子に、普段は長い前髪で隠されている瞳が露になった。
                穢れのない綺麗な瞳。その瞳に映るのが、俺だけだったなら・・・。
                「京一?」
                その声に、ハッと我に返る。いけねぇ。龍麻が変に思う。
                「・・・・そうだな。悪ぃけど、寄らせてもらうか。」
                気がつくと、俺はそんな事を口にしていた。
                さっき、もう龍麻に近づかないと決めたばかりだというのに・・・。
                「そうか!良かった!!」
                心底嬉しそうな龍麻の顔を見ているうちに、俺の中にどす黒い
                感情がゆっくりと広がっていくのを感じた。




 
                 静かだ・・・・。
                 雨音だけが、響いている部屋の中。
                 俺達はテーブルを挟んで、向かい合わせに座っていたが、
                 二人それぞれあらぬ方向を向いて、先程から一度も目を
                 合わせようとしない。
                 龍麻はテーブルに頬杖をついて、先程から窓の外を眺めて
                 いるし、俺は俺で、雑誌を読む振りをしていた。

                 静かに・・・・・時が過ぎていく・・・・。

                 俺はチラリと龍麻を盗み見た。
                 相変わらず綺麗な顔をしてんな。
                 ”なんで・・・・俺、こいつが好きなんだろう・・・・。”
                 俺も龍麻も男なわけで・・・・・・。
                 でも、そんな常識とかが関係ないくらい、俺は龍麻に出逢った瞬間、
                 恋に落ちていた。
                 龍麻の隣に立てることが、みんなから龍麻の唯一無二の親友だと
                 認められるのが嬉しい。

                 そう、最初は嬉しかった。

                 だが、その気持ちに陰りが生じてきたのは、仲間が増え始めた
                 頃だった。
                 龍麻が俺以外の奴に微笑みかける。
                 龍麻が俺以外の奴の名前を呼ぶ。
                 それが耐えられない。
                 龍麻・・・・・・。
                 俺の目の前で他の奴の話をしないでくれ。
                 俺の目の前で他の奴に微笑まないでくれ。
 
                 ーーーーーーーー頼むから・・・・・。

                 分かっている。
                 こんなのはガキと同じで、単なる独占欲だということを。
                 だが、俺はお前を愛しているんだ!
                 お前の事だけを愛している。
                 愛している。だから・・・・・。
                 俺の事だけを見てくれ!
                 俺の事だけを考えてくれ!!
                 
                 何度、龍麻に叫ぼうとしたか。
                 何度、龍麻を抱きしめようとしたか。
                 だが・・・・・これは俺一人よがりな馬鹿な妄想でしかない。
                 龍麻にはいい迷惑だよな。
                 だから、これ以上龍麻を好きにならないよう、極力避けて
                 きたのだが・・・・・。
                 
                 「京一。」
                 龍麻の呟きに、俺はのろのろと視線を龍麻に合わせる。
                 龍麻は、どこか怒ったような、悲しいような、思い詰めた表情で
                 俺を見つめていた。
                 「あのさ・・・・。俺、ずっと考えていたんだけど、どうしても
                 判らないんだ・・・・。」
                 美里と並ぶくらい成績優等生の龍麻がわからないこと?
                 んなの、俺に判るわけねぇじゃん。
                 「京一、なんで怒ってるんだ?」
                 「はぁ?」
                 あまりな事に俺の目は点になった。
                 一体、何を言い出すんだ?
                 「・・・・・俺は別に怒ってなんか・・・・・。」
                 「いや、怒っている!!」
                 龍麻はテーブルをバンと叩いた。
                 「龍麻・・・・・。」
                 普段、温厚な龍麻からは絶対に考えられないような、
                 突然の豹変に、俺は対処し切れなくて、茫然と見つめた。
                 「言いたい事があるなら、ちゃんと言えよ!!京一の
                 バカー!!」
                 見る見る涙目になった龍麻は、手元にあったものを
                 片っ端から、俺に投げつけた。
                 「いてぇよ!龍麻!!」
                 「うるさい!京一の馬鹿!最近、なんで俺にだけ、
                 冷たいんだよ!お昼も一緒に食べてくれないし、
                 電話しても、すぐ切っちゃうし・・・・・。それに・・・・
                 それに今日だって!!」
                 俺は投げつけられる物を器用に避けながら、
                 龍麻の腕を取る。
                 「龍麻!いい加減に・・・・・・・。」
                 「今日だって、一緒に帰ろうって言ったのに・・・・。
                 折角、二人だけで帰れると思ったのに・・・・。
                 一人でさっさと帰ったし・・・・。」
                 「龍麻・・・・・。」
                 俺の手から力が抜けて、龍麻の腕がだらりと下がる。
                 「俺・・・・そんなに嫌われているのか?」
                 肩を震わせて泣き出す龍麻を、俺は思いっきり
                 抱きしめた。
                 「違う!違うんだ!龍麻!俺は・・・・・。」
                 龍麻は濡れた瞳を毅然と上げて、まっすぐ俺を、
                 俺だけを見つめていた。
                 その瞳を見た途端、俺は自分の過ちに気がついた。
                 龍麻は、優しいだけの男じゃない。受け入れつつも
                 自分で判断し、決断できる人間なのだ。だから、
                 俺はこんなにも龍麻に魅かれたのだ。俺の顔に
                 笑みが広がる。今こそ言おう。言えなかった本当の
                 【想い】を。真実を言わずに、龍麻を傷つけるより、
                 真実を言って俺が傷付いた方がいい。
                 「俺は、龍麻、お前を愛しているんだ。」
                 「えっ・・・・・・。」
                 龍麻は、驚きに目を見開く。
                 「・・・・嘘・・・・・。」
                 龍麻の呟きに、俺は真剣な表情で言葉を繋げた。
                 「嘘じゃない。俺は龍麻を愛しているんだ。だから、
                 ここ数日、龍麻を避けていた。この想いが龍麻に
                 とって、迷惑だと思ったから・・・・・・。」
                 俺は皆まで言えなかった。龍麻が俺の頬を平手で
                 打ったからだ。
                 「龍・・・・麻・・・・・・。」
                 「京一の・・・・京一の馬鹿野郎!!なんで、そんなこと
                 一人で勝手に決めつけるんだよ!」
                 龍麻は、そこでふと表情を和ませると、打たれて赤く
                 なった俺の頬に、唇を寄せ、ペロリと舐めた。
                 「た・・・龍麻!!」
                 真っ赤になった俺に、龍麻は嬉しそうに微笑んだ。
                 「俺も、京一が好きだよ。初めて会ったあの瞬間から
                 ずっと・・・・・。」
                 今・・・・なんて・・・・。
                 「だから、京一に冷たくされて、俺すごく悲しかった。」
                 「いやったあぁ!!」
                 気がつくと、俺は龍麻の身体をきつく抱きしめていた。
                 「本当だな!龍麻!!」
                 「・・・・・・・・・・・・・・馬鹿。」
                 真っ赤になって小声で呟く龍麻の唇を乱暴に塞ぐ。
                 夢にまで見た龍麻の唇は想像以上に甘く、柔らかかった。
                 俺達はそのまま縺れるように床に倒れ込むと、辛かった
                 時間を取り戻すかのように、お互いを貪りあった。










                側にいてね。
                雨の日でも。
                嵐の日でも。
                雪の日でも。
                もちろん、晴天でも。


                雨の日も。
                嵐の日も。
                雪の日も。
                もちろん、晴天でも。
                ずっと ずっと 側にいるよ・・・・。


                だって、ようやく想いが通じたから。
                ・・・・・・・・・・・・ずっと側にいるよ。   







                                               FIN