素直なままで番外編・2

 

            〜  京一  〜

 

            

           櫻が散る・・・・。
           緋勇・・・?
           泣いているのか?
           どうして・・・・・。
           いつでも、微笑んでいて欲しいのに。
           俺はいつもお前を泣かせてばかりいるな・・・・。
           ごほっ。
           嫌な咳と共に、俺は大量の血を吐き出した。
           最後の力を振り絞り、血に塗れた手を伸ばし、緋勇の涙をそっと拭う。
           なぁ、もしも、再び会えたら、その時は・・・・・・。
           俺達、もっと素直になろうな・・・・・。
  
           

           「きょ・・・京一・・・・。」
           潤んだ瞳で龍麻が俺を見つめる。それに誘われるように、
           俺は龍麻に口付ける。
           「龍麻・・・・。愛している。」
           「京一・・・・。」
           龍麻の腕が俺の背中にまわり、俺はまるで飢えたように
           龍麻の唇から首筋へと唇を移動させて、貪り食らう。
           「京一・・・・俺も愛している。」
           熱に侵されているように、龍麻はうわ言の様にその言葉を
           繰り返す。その言葉に、俺の心は急速に冷えていく。
           “また・・・いつもの夢だ・・・・。”
           本当の龍麻はこんなことを言わない。
           本当の龍麻なら、俺に身体を任せたりはしない。
           本当の龍麻なら・・・・・・。
           それでも、俺は目の前の龍麻の幻影を手放すことが出来ない。
           自分の生んだ幻でもいい。
           俺は<龍麻>が欲しい。
           ビクリと腕の中の龍麻が跳ねる。
           俺は慎重に龍麻の中に入りながら、もう1度唇を堪能する。
           「あっ・・・きょう・・・い・・・・ち・・・・。」
           絡み合う吐息。
           流れ落ちる汗。
           こんなに・・・・お前を求めているのに。
           何故、この想いは届かないのだろう。
           龍麻・・・・俺はお前を・・・・・愛しているんだ・・・・・・。

 

 

           「また・・・夢か・・・・。」
           汗に濡れた前髪を掻き揚げながら、京一は傍らに龍麻がいない事実を
           噛み締めるように、ため息をついた。
           最近、龍麻の様子がおかしい。学校で突然倒れたあの日から、龍麻の行動が
           明らかにおかしくなった。
           みんなとワイワイやっている時は普段通りなのだが、二人っきりになった時など、
           京一と目も合わせなくなった。いや、二人っきりになることすら避ける行動を取る
           ようになり、京一をさらに落ち込ませた。
           「・・・・一体、何故なんだか・・・・。」
           そのくせ、気がつくといつも龍麻の視線を感じるのだ。
           「龍麻・・・お前、俺のことどう想ってんだ?」
           京一は、ベットから起き出すと、カーテンを開け、月を見上げる。
           冴え冴えと冷たい光を放つ月が、想い人に重なり、京一は切なそうに目を細めた。
           「俺の想い・・・・龍麻には負担にしかなんねぇよな。」
           最初は自分の事を好きになってもらおうと、あの手この手で頑張ってきたが、よくよく
           考えると、この<想い>は、あまり誉められたものではない。その事が日々京一の心を
           責めさいなみ始める。
           自分は龍麻を愛している。だが、龍麻は?龍麻にとっては、この想いは100%
           大迷惑のはずだ。
           男から、恋愛の対象として見られるなんて、自分なら再起不能なまでに叩き潰している。
           だが、自分は龍麻に一目惚れをしてしまった。あんなに女大好きだと公言して憚らない
           この自分がだ。
           「好きになったんだから、仕方ねぇ・・・・・。」
           京一はぎゅっと目を瞑る。脳裏には、先日学校で倒れた龍麻の姿が浮かび上がり、
           京一は知らずパジャマの胸の辺りを握り締める。このまま龍麻が死んでしまうのでは
           ないかという恐怖はもう味わいたくない。
           だが、実際には龍麻に避けられている訳で、このままでは<親友>の座すらも危うい。
           「龍麻・・・俺、どうすればいいんだ?」
           冷たい月を見上げながら、京一は呟いた。





                                                   FIN.