櫻が散る・・・・。
緋勇・・・?
泣いているのか?
どうして・・・・・。
いつでも、微笑んでいて欲しいのに。
俺はいつもお前を泣かせてばかりいるな・・・・。
ごほっ。
嫌な咳と共に、俺は大量の血を吐き出した。
最後の力を振り絞り、血に塗れた手を伸ばし、緋勇の涙をそっと拭う。
なぁ、もしも、再び会えたら、その時は・・・・・・。
俺達、もっと素直になろうな・・・・・。
「きょ・・・京一・・・・。」
潤んだ瞳で龍麻が俺を見つめる。それに誘われるように、
俺は龍麻に口付ける。
「龍麻・・・・。愛している。」
「京一・・・・。」
龍麻の腕が俺の背中にまわり、俺はまるで飢えたように
龍麻の唇から首筋へと唇を移動させて、貪り食らう。
「京一・・・・俺も愛している。」
熱に侵されているように、龍麻はうわ言の様にその言葉を
繰り返す。その言葉に、俺の心は急速に冷えていく。
“また・・・いつもの夢だ・・・・。”
本当の龍麻はこんなことを言わない。
本当の龍麻なら、俺に身体を任せたりはしない。
本当の龍麻なら・・・・・・。
それでも、俺は目の前の龍麻の幻影を手放すことが出来ない。
自分の生んだ幻でもいい。
俺は<龍麻>が欲しい。
ビクリと腕の中の龍麻が跳ねる。
俺は慎重に龍麻の中に入りながら、もう1度唇を堪能する。
「あっ・・・きょう・・・い・・・・ち・・・・。」
絡み合う吐息。
流れ落ちる汗。
こんなに・・・・お前を求めているのに。
何故、この想いは届かないのだろう。
龍麻・・・・俺はお前を・・・・・愛しているんだ・・・・・・。
「また・・・夢か・・・・。」
汗に濡れた前髪を掻き揚げながら、京一は傍らに龍麻がいない事実を
噛み締めるように、ため息をついた。
最近、龍麻の様子がおかしい。学校で突然倒れたあの日から、龍麻の行動が
明らかにおかしくなった。
みんなとワイワイやっている時は普段通りなのだが、二人っきりになった時など、
京一と目も合わせなくなった。いや、二人っきりになることすら避ける行動を取る
ようになり、京一をさらに落ち込ませた。
「・・・・一体、何故なんだか・・・・。」
そのくせ、気がつくといつも龍麻の視線を感じるのだ。
「龍麻・・・お前、俺のことどう想ってんだ?」
京一は、ベットから起き出すと、カーテンを開け、月を見上げる。
冴え冴えと冷たい光を放つ月が、想い人に重なり、京一は切なそうに目を細めた。
「俺の想い・・・・龍麻には負担にしかなんねぇよな。」
最初は自分の事を好きになってもらおうと、あの手この手で頑張ってきたが、よくよく
考えると、この<想い>は、あまり誉められたものではない。その事が日々京一の心を
責めさいなみ始める。
自分は龍麻を愛している。だが、龍麻は?龍麻にとっては、この想いは100%
大迷惑のはずだ。
男から、恋愛の対象として見られるなんて、自分なら再起不能なまでに叩き潰している。
だが、自分は龍麻に一目惚れをしてしまった。あんなに女大好きだと公言して憚らない
この自分がだ。
「好きになったんだから、仕方ねぇ・・・・・。」
京一はぎゅっと目を瞑る。脳裏には、先日学校で倒れた龍麻の姿が浮かび上がり、
京一は知らずパジャマの胸の辺りを握り締める。このまま龍麻が死んでしまうのでは
ないかという恐怖はもう味わいたくない。
だが、実際には龍麻に避けられている訳で、このままでは<親友>の座すらも危うい。
「龍麻・・・俺、どうすればいいんだ?」
冷たい月を見上げながら、京一は呟いた。
FIN.