お前にとって【情熱】って何?
・・・・・・桃源郷の月だな。
俺の問いに、奴は笑いながら言った。
・・・・・お前はどうなんだよ。
逆に問われて、考え込む。
・・・・・・そうだな。
華胥の太陽ってとこかな。
ちらりと奴の顔を見ながら答える。
俺にとっての太陽。その【光】があるから、
俺は俺でいられる。
・・・・・・なんだよ、それ。
笑いながら、奴は俺の身体を抱き寄せる。
夜はまだ始まったばかり。
桃源郷の月が俺達を見下ろしていた・・・・・。
お前にとって【情熱】って何?
その言葉に俺は笑いながら答える。
・・・・・・・桃源郷の月だな。
俺の言葉が意外だったのか、驚いた顔をする。
その顔を見ていると、ふと疑問が浮かんだ。
・・・・・・お前はどうなんだよ。
俺の問いに、奴は首を傾げながら答えた。
・・・・・・そうだな。
華胥の太陽ってとこかな。
俺は笑いながら、愛しい奴の身体を引き寄せた。
・・・・・・なんだよ、それ。
もう少し、色っぽいことを言ってくれよ。
太陽が昇る前に、俺は愛しい【月】を
思う存分抱きしめる。
「どうした、ひーちゃん。」
少し掠れた声で呼びかけられ、俺はゆっくりと
振り返る。京一はベットから身を起こすと、窓辺に
立っている俺に、手を差し伸べる。
「こっちこいよ。」
だが、笑って俺はその場を動こうとはしない。
だって、こんなにも月が綺麗なのだから。
「どうしたって言うんだ?」
動かない俺に業を煮やしたのか、京一はベットから
下りると、俺の傍らに移動した。
「月が・・・・。」
俺の言葉に、京一も空を見上げる。
「まぁ、確かにキレイだな・・・・・。でも。」
いきなり京一は、俺を抱き上げた。
「俺としては、こっちの【月】の方がキレイだと
思うぜ。」
ニヤリと笑いながら、京一はそんな恥ずかしい事を
言う。
「・・・・・・なんだよ。それ・・・・・。」
真っ赤になりながらも、何とか抵抗を試みる俺に、
京一は笑いながら、俺をベットまで運ぶ。
「こんなに冷えて・・・・。直ぐに暖めてやるぜ。」
言うなり、京一は嬉々として俺のパジャマを脱がし
始めた。俺はと言うと、京一の髪に指を絡ませながら、
ぼんやりとしていた。
「・・・・・どうかしたのか?ひーちゃん。」
俺の首筋に顔を埋めていた京一が、顔を上げる。
「・・・・っていうか・・・・・。」
俺の言葉に、京一は不快そうに顔を歪めた。
「言いたいことがあるなら、はっきり言えよ。」
「・・・・何で怒ってんだ?」
京一はワシャワシャと髪を掻き揚げると、俺の上から
その身をどけた。
「京一?」
「・・・・・・その気のない奴を抱くほど、俺は器用じゃねぇ。」
横を向きながら拗ねる京一が可愛くて、俺は思わず
笑ってしまった。
「・・・・笑うことねぇだろ。」
ますます拗ねる京一に、俺は起き上がると、自分から
京一の首に腕を絡ませた。
「ごめん・・・・。ただ夢が・・・・。」
「夢?」
訝しげに俺を見る京一に、俺は微笑んだ。
「さっき夢を見たんだ。内容は全然覚えていないんだけど、
何故か切ないような、それでいて、愛しいような・・・・・
そんな感情だけが心に残っていて。ごめん。うまく
説明できないや。」
俺の言葉に、京一は黙って優しく抱きしめてくれる。
その腕が心地好くって、俺は京一に身体を預けた。
その時、ふと窓の外の月が目に映った。
「月・・・・・・。」
俺の言葉に、京一も月を見上げる。
「・・・・・・桃源郷の月だな。」
京一の言葉に、俺はハッとして、京一の顔を凝視する。
「・・・・・・京一・・・・・。今の言葉・・・・・・。」
なんだろう。すごく懐かしいような気がする。
「・・・・・・何でもねぇよ。それより。」
京一は、ニヤリと笑うと、今度こそ俺を押し倒した。
「夢を見ないように、俺が疲れさせてやるからよ。
・・・・・・いいだろ?龍麻・・・・・・。」
京一の言葉に、俺はゆっくりと瞳を閉じるのだった。
「ひーちゃん・・・・。思い出したのか?」
傍らに眠る愛しい龍麻の髪を、指に絡ませながら、
京一は呟く。規則正しい寝息を立てる龍麻を起こさない
よう、細心の注意を払いながら、京一はそっと
龍麻に口付ける。
「前世の記憶が甦りつつあるようだな・・・・。」
悲しそうに京一は、龍麻を見つめる。
前世、自分たちは敵として出会った。それでも惹かれ合い
仲間の目を盗んでは、逢瀬を重ねていた。そして・・・・。
そこまで思い出して、京一は固く目を瞑る。
「前世を思い出したら、お前はどうするんだろうな・・・・。」
でも、俺はお前を手放す気なんて、ないからな。折角
仲間として転生したんだ。前世のような過ちは2度と
起こさない。
京一は決意を新たに、龍麻をそっと抱きしめた。
FIN.