「俺、ひーちゃんのこと好きだ。愛している。」
とある土曜日の夜の出来事。いつものように俺の家に遊びに来ていた京一は、夕飯を食べ終わって、コーヒー飲んで寛いでいたところに、いきなり俺に告白した。
「え?」
突然の話の展開に、俺はついていけなくって、思わず京一の顔を凝視した。
「今、何て言った?」
呆けた顔で尋ねる俺に、京一は、もう一度、一字一句同じく繰り返した。
「俺、ひーちゃんのこと好きだ。愛している。」
その言葉は、俺が待ち望んでいた言葉だった。
そう、俺も京一のことが好き。でも・・・・。
「ごめん・・・。」
俺は京一から視線を逸らせると、項垂れた。
「・・・・ひーちゃん、俺のこと嫌いなのか?」
長い沈黙の後、京一は呟いた。
「・・・・・嫌いじゃない。」
辛うじて、それだけ呟く。
「・・・・男同士だからか・・・?」
辛そうな京一の声に、俺の心はズキリと痛んだ。
「・・・・違う。」
「じゃあ、他に好きな奴がいるのか?」
京一の問いに、俺はただ黙って、首を横に振ることしかできなかった。
「じゃあ、何で!!」
悲痛なまでの、京一の叫び。でも、それでも、俺は・・・・。
「俺、京一のこと、好き・・・。」
俺の呟きに、京一の目が輝く。
「でも、京一には、応えられない・・・。」
だが、次に続けられた言葉が、京一の心を切り裂く。
「どういうことだ?」
掠れる京一の声に、俺が言った言葉が、どれだけ京一の事を傷つけたか、窺い知れて、俺は溢れる涙を止める事ができなかった。
「だって・・・。」
「だって、何だよ・・・。」
「だって、京一、俺の事を愛してないもん。」
ガタン。
テーブルが音を立てて、引っくり返った。
「どういうことだ!ひーちゃん!!」
京一は、俺を乱暴に引き寄せると、きつく抱きしめた。
「俺の想いを、信じてくれねぇのかよ!!」
「だって!その想いって、俺が願ったものだから・・・。」
その言葉に、京一は驚いて、俺を凝視する。
「何だって?」
「・・・昔っから、そうなんだ。俺が願ったことって、必ず叶うんだ。例えば、喉が乾いたと思ったら、誰でも飲み物くれるし・・・・。きっと、俺は人の心が操れるんだっ!!」
その言葉に、京一は、髪を掻き揚げた。
「つまり、ひーちゃんの願ったことは、その通りになると。だから、俺の告白も、ひーちゃんの願いが叶っただけって、そういうのか?」
コクリと頷く俺に、京一は苦笑しながら、尋ねた。
「ひーちゃん、俺のこと、いつ好きになったんだ?」
いつ?と聞かれて考え込んだ。
「いつって・・・。いつのまにか・・・・。」
そう、気づけば心の中が、京一で一杯になっていた。
「俺、ひーちゃんに一目惚れなんだぜ?知ってたか?」
ハッと顔を上げる俺に、京一はにっこりと笑った。
「ひーちゃんてさ、すぐ顔に出るんだよな。喉かわいたとか、寒いとか、お腹すいたとか・・・。だからだろ?飲み物やら食べ物に不自由しないってぇの。」
それって・・・・。
「そっ。別にひーちゃんに、人を操る力なんかないってことさ。だから、俺の想い、信じてくれよ・・・。」
真剣な表情の京一に、俺は真っ赤になりながら頷いた。
「俺、てっきり・・・・。ごめん。京一。」
京一は笑うながら俺を抱き寄せると、掠めるように唇を合わせる。
「へへっ。ひーちゃん、俺のこと、好き?」
悪戯っ子のように笑いながら、京一は再度尋ねてきた。
「好き。京一を愛している。」
今度こそ、俺は間違えずに、京一の首に腕を回しながら、想いを込めて、囁いた。
FIN.