Valentine’s day世間様は、バレンタイン一色。 バレンタイン・・・・お菓子メーカーの陰謀だと知りつつも、 年賀状と同格(もしかして、それ以上?)の国民行事となっているため、 無視しきれないのが、人間の情というものだ。そう思い、京一はニヤリと笑う。 毎年毎年、この時期、チョコレートには不自由したことがないためか、 バレンタインに特別な思い入れはなかった。そう、去年までは。 だが、今年は特別なのだ。それは何と言っても、京一の恋人、 緋勇龍麻の存在が大きい。 「やっぱ、好きな子から貰えるチョコってぇのは、ポイント高いよな!」 そんな訳で、京一は朝から不気味な笑みを浮かべている。 「それにしても、ひーちゃん、何時渡す気でいるんだ?」 何時渡されてもいいように、京一は、朝から龍麻にべったりとくっついていた。 無視した電話の数とチャイムの数、数知れず。 だが、もう夕飯まで食べ終わってしまったのに、龍麻はチョコレートを渡す 素振りさえ見せない。だんだんと不安になった京一は、思いきって 雑誌を読んでいる龍麻に声をかける。 「なぁ、ひーちゃん。」 「なんだ?」 雑誌を閉じて龍麻は京一のほうを振りかえった。 「何か忘れてないか?」 「何を?」 龍麻は首を傾げた。その、何もわかっていない態度に、京一の不安は さらに膨れ上がる。 「今日って、何の日だ?」 それでも、一縷の望みを託して、遠回しに尋ねてみる。 「2月14日。バレンタインだろ?」 その言葉に、京一は破顔する。 「そう!今日はバレンタインだよな!」 「あぁ、それがどうかしたのか?」 それがどうかしたのか? それがどうかしたのか? ソレガドウカシタノカ? 龍麻の言葉が京一を直撃する。 どうやら、龍麻にとっては、どうでも良いことだったらしい。 「京一?」 がっくりと肩を落とす京一を、龍麻は訝しげに見つめた。 「俺・・・・ひーちゃんから、チョコ欲しかったのに・・・・。」 ボソリと呟く京一に、龍麻は呆れた顔をした。 「俺が?京一に?何で?」 「何でって・・・・。折角のバレンタインじゃねぇか。」 京一の言葉に、龍麻は大きく溜息をついた。 「あのさ・・・・。バレンタインってさ、どういうのか知ってるか?」 「勿論。好きな男にチョコを贈る日だ!」 胸を張って答える京一に、龍麻は、さらに溜息をつく。 「あのさ、京一判ってる?女の子が、片思いの男の子にチョコを贈って、 愛の告白をするんだぞ?」 龍麻は京一の首に腕を回すと、にっこり微笑んだ。 「俺とお前って、両想いだろ?だったら、今更チョコを贈って 告白する必要ないじゃん。」 「でもよぉ・・・・。」 まだ納得がいかない京一に、龍麻はくすくす笑いながら、頬に軽くKISSをする。 「京一、好きだよ。」 「ひーちゃん・・・・。」 突然の告白に、京一は一瞬目を見開く。 「京一は?」 龍麻の言葉に、京一はニヤリと笑うと、龍麻をきつく抱き締めた。 「勿論、愛している。」 「な?今更だろ?」 くすくす笑う龍麻の頬に、お返しとばかりに、音をたてて、思いっきり京一は口付ける。 「あぁ・・・そうだな・・・。龍麻・・・・。」 「京・・・・一・・・・・。」 京一と龍麻は、もつれ合いながら、ゆっくりと床に倒れ込んだ。 情事の後、ベットの上で、気だるい身体を京一の胸に預けていた龍麻は、 京一ににっこりと微笑むと、耳元で囁いた。 「きょういち・・・・。俺、喉か沸いたから、冷蔵庫から、ポカリ持ってきて・・・・。」 「おう、いいぜ。」 京一は、龍麻の頬に軽くKISSをすると、キッチンに向かった。 京一の姿がキッチンに消えるのを眺めていた龍麻は、ニヤリと笑う。 “まっ、意地悪もそろそろやめないとね。” その後の京一のリアクションを見たいが、睡魔には勝てないようだ。 ゆっくりと目を閉じると、龍麻はそのまま寝てしまった。 「えっと、ポカリ、ポカリは・・・・っと・・・。」 冷蔵庫を覗くと、ポカリの横に、包装された箱が置いてあった。 「何だ?これ・・・・。」 何気なく箱を取り出して、そこに貼ってあるメモを読むと、 京一は慌ててベットに戻った。 「ひーちゃん!これ・・・・。」 だが、ベットの中の龍麻は、安らかな寝息を立てていた。 その安心しきった顔を見ていると、無理やり起こすのもどうかと思う。 「全く・・・・。ひーちゃんの奴め。起きたらどうしようか?」 ニヤニヤと笑いながら、京一は箱に貼ってあるメモをもう一度読む。 “京一へ 愛を込めて。龍麻より” 京一は箱からチョコを一つ取り出すと、美味しそうに食べた。 今まで食べた、どのチョコレートよりも、美味しいのは、 やはり龍麻からのプレゼントだからだろう・・・・。 「全く・・・・お前には敵わないな・・・・。サンキュ。龍麻・・。」 京一は、眠っている龍麻の頬に、そっと口付けした。 FIN |