学園天獄番外編

 

           ヴァンパイアの恋人

 

 

文化祭当日、多少のハプニングがあったものの、俺と京一は、2人っきりで休憩時間を過ごす事が出来、俺は今、すこぶる機嫌がいい。
「ひーちゃん・・・・。愛している・・・。」
幸せな気分で京一の声を、聞きながら、俺はそっと目を閉じる。間髪入れずに、俺の唇に重なる京一の唇の感触に、さらに幸せな気分になれる。
「ひーちゃん・・・。」
京一の声が好き。
もっと、もっと聞いていたい・・・。
その俺の想いが通じたのか、京一は飽きずに俺の名前を繰り返し呼んでくれる。
「なぁ、ひーちゃん・・・。俺の事好き?」
京一の声に、俺は素直に頷いた。
「へへっ。愛しているぜ♪ひーちゃん。」
目を閉じていても、京一が嬉しそうに笑ったのが判る。そのことに、俺もさらに嬉しくなる。
「なぁ・・・。」
京一は、俺の耳を甘噛みしながら、耳元で、囁く。
「ひーちゃん、そろそと交代のじかんだけど・・・。」
現実に引き戻され俺は面白くなさそうに、口を尖らせた。
「もう時間なのかぁ・・・・。」
そんな俺の様子に、京一は苦笑しながら、軽く唇を合わせると、俺を抱き上げて、体育倉庫から出てきた。「京一、俺一人で歩ける!!」
「駄目だ。さっき、あいつらを巻く時に、ひーちゃん、足を少し捻っただろ。だから、このまま教室に戻る。」
「で・・でも・・・。」
こんな姿、京一シンパにでも見られたら・・・・。
シュンとなる俺に、京一は宥めるように口付けをくれた。
「俺がしたいんだ。ひーちゃんは、何にも心配することじゃねぇ。」
そんな事を話していたら、3‐Cのお化け屋敷まで、やってきた。そろそろ京一が休憩から戻ってくる事を聞きつけたのか、お化け屋敷の前には、女の子達の長蛇の列があった。
「京一先輩、カッコイイ!!」
列を通りすぎるヴァンパイア姿の京一を一目見るなり、女の子達の黄色い声援が飛び交う。
「私、暗闇のドサクサに、京一先輩に、抱きつこうかなぁ・・・。」
などと、俺にとって、無視できない声を聞くに至っては、声がした方を振りかえって、睨みつけた。
「どうした?ひーちゃん。足が痛むのか?」
当の京一は気づかなかったらしく、俺がすごい顔で睨んでいるのに気づき、的外れな心配をしてきた。
「まぁ、どうしたの?2人とも!!」
入り口に入った途端、近くにいた美里が、俺達の姿、特に京一に抱き上げられている俺に気づき、心配そうに近寄ってきた。
「オメ−のせいで、ひーちゃんが怪我をした。」
京一の言葉に、菩薩眼は、にっこりと微笑んだ。
「うふふふ。変な言いがかりは止めてくれないかしら?京一君。」
ピカリ−ンと、菩薩眼を光らせ、京一に牽制しながら、俺の顔を心配そうに覗き込んだ。
「お客さんが待っているし・・・。どうしても、立てないのかしら?」
本当は、ちょっと捻っただけで、大した事ないけど、これ以上、メイドという格好を人前に晒すのが嫌な俺は、堂々と嘘をついた。
「駄目。もう動けない。」
「困ったわねぇ・・・。じゃあ、椅子を持ってくるわ・・・・。」
美里が踵を返そうとした時、京一は慌てて言った。
「その必要はねぇ。それより、血糊用の赤絵の具、残ってねぇか?」
「京一?」
一体何をするのかと、俺と美里は、訝しげながら京一を見ていると、美里から絵の具を入れた小瓶を渡された京一は、いきなり俺の首から胸にかけて、中身を振りまく。
「冷たい・・・。」
真っ赤に染まった白いエプロンに、俺は背筋が凍るような感触を覚えた。これじゃあ、まるで・・・・。
京一は、俺の様子に満足そうな笑み浮かべながら、再び俺を抱き上げる。
「ちょっと、京一君!!」
焦る美里に、京一は不敵な笑みを浮かべた。
「やっぱ、ヴァンパイアには、美女だろ?」
「うふふふ。やるわね。京一君。」
その後、俺と京一は暗闇をいい事に、ずっとイチャついていたのは、言うまでもない。
 

 

                                           FIN