「体育祭なんて、かったりーな・・・・。」 掲示板に貼られた、体育祭のポスターを見ながら、俺は呟いた。 「?どうして?京一こういうの好きそうじゃん。」 傍らにいるひーちゃんが、ニコニコ笑いながら言う。まぁ、確かに一日授業がない なんて、俺には天国のような日だが、どうもな。熱血スポーツなんてガラじゃねぇんだよ。 だいたい、そんなに熱血が好きなら、部活なんかサボんねーよ。だが、そんな事を いとおしい恋人であるひーちゃんに言う訳いかねぇ。で、俺が言ったのは違うことだ。 「・・・俺は、一日中ひーちゃんとだけ、一緒にいる方がいい。」 まっ、これは偽らざる本心てやつだ。去年は堂々ととサボったが、今年はひーちゃんが いるから、サボるのだけはやめよう。いや、、待てよ。二人でサボればいいじゃん! 「・・・・・・・・ばか。」 俺の言葉に、ひーちゃんが真っ赤になって俯く。くーっ、メチャメチャ可愛い。今から 放送室を占拠して、「緋勇龍麻は蓬莱寺京一だけのモンだー!!」って全校生徒に 向かって叫びたいくらいだぜ。まぁ、そんな事すれば、即黄龍が飛んでくるからやんねー けど、いつか絶対にやってやる!! 「なんだよ。俺は自分の気持ちを正直に言ったんだぜ。・・・・ひーちゃんは違うのかよ。」 恋人同士がいつも一緒にいるってのは常識だろ? 「・・・・それは・・・。」 ピンポンパンポーン・・・・・。 ひーちゃんが何か言いかけた時、放送がかかった。 「3−Cの蓬莱寺君。3−Cの蓬莱寺君。至急生徒会室に来て下さい。繰り返します。 3−Cの蓬莱寺君、至急生徒会室に来て下さい。」 ピンポンパンポーン・・・・・。 なんだ?美里の奴、俺に何か用なのか? 「・・・・どうして京一だけ呼び出すんだろう?」 ひーちゃんも不信そうに首を傾げる。 「京一、また、なんかしたのか?」 なんだよ、ひーちゃんその疑いの眼差しは!俺は恋人だろ?どうして俺を信用して くれないんだよぉ。 「・・・だって、この前他校生と喧嘩したって・・・・。」 あれには、ちゃんと理由があるんだよ。あいつら、ひーちゃんの着替えとかの写真を 撮ったり、下駄箱にラブレターを入れたりと、(俺にとって)悪行の数々をしたんだぜ? 勿論、写真は全て回収し、ラブレターはひーちゃんの目につく前に破り捨てた。でも、 それがあまりにも頻繁なので、怒った俺は、ここはビシッと俺のひーちゃんに手を出す な!って制裁を加えたんだ。・・・なんて、本当の事をひーちゃんに言えるわけもないよな。 ひーちゃんって、殊恋愛に関しては、超ニブイ。自分がどれだけもてているが、全然 分かってねぇ。 「はぁ・・・。」 「何でそこでため息をつくんだよ。さては、心当たりあるんだな!」 どうなんだと詰め寄られても、俺には全く心当たりねぇぞ。 「ひーちゃん、俺を信じろ!!」 「・・・・信じたいけどね。なにぶん前科があるし・・・・。」 ひ〜ちゃあん!!それって、あまりにも冷たい言葉じゃねぇか。 「な〜んて、勿論、京一を信じているさ!」 おお!やっぱ俺のひーちゃんだぜ!感動のあまり、ひーちゃんを抱きしめようとした時、 背後から物凄い殺気を感じた。 「うふふふ。こんにちわ!」 やっぱり、美里が悪魔の笑みを浮かべながら立っていた。 「どうしたんだ?美里。」 ひーちゃんの問いに、美里はチラリと俺を見つめた。ヤバイッ!その目は獲物を狙う 目だ!!そんな目をしている時の美里には、絶対に近づいては行けないというのが、 真神の常識。俺は慎重に間合いを取りながら、美里からひーちゃんと二人で逃れられるか チャンスを伺った。だが、俺が行動を起す前に、美里が先手を打った。 「うふふふ。ちょっと蓬莱寺君に、剣道部について、聞きたいことがあったの。なかなか 来ないから、捜しに来たのよ。」 おい、たった今呼び出したばっかだろうがっ!! 「ふ〜ん。そうなんだ。」 あっ、ひーちゃん納得すんな!そんなのただの口実に決まっている。きっと無理難題を ふっかけるに決まってるんだ。 「じゃあさ、ここで聞いたら?」 ナイス!ひーちゃん!!ここなら、一般の目がある。美里も無理難題を言ったりしない だろうという俺の目論みは、次の瞬間大きく外れた。 「あら?困ったわ。必要な書類を生徒会室に置いて来てしまったわ。」 それは絶対に嘘だ。 「という訳だから、京一君、生徒会室まで来てくれるわよね。」 キラリーンと、今、美里の目が光ったような・・・・。 「じゃあ、俺も一緒に行ってもいい?」 ひーちゃんがニコニコしながら言う。 「おう!勿論・・・・。」 「あら、そう言えば、さっきマリア先生が緋勇君を呼んでいたわよ。」 俺の言葉を遮って、美里がひーちゃんに言う。 「わかった。俺、行ってみる。じゃあ、京一後でなっ!!」 ひーちゃんはそう言うと、走り去ってしまった。あぁ、ひーちゃん、カムバーック!! 「オイ、美里。」 今度は何を企んでいるんだ。 「うふふ。ここじゃあ人目がつくわ。生徒会室に来て頂戴。」 「おう、行ってやろうじゃねーか。」 俺は美里の後に続いた。 「で?一体何の用なんだ?」 俺の怒り心頭の声にも、美里は平然として、いや、そればかりか笑みまで浮かべる 余裕さえある。 「うふふ。京一君、去年は体育祭を堂々とサボっていたわね。」 あん?んなの時効じゃん!時効!! 「そうだったけか?」 「まっ、過去の事はいいわ。」 だったら黙ってろよ。 「私がこれから言うのは、現在のことよ。」 「・・・何の事だ?」 前置きが長い女は嫌われるぜ。生徒会長さん。 「私、京一君にお願いがあるのよ。」 にっこり微笑まれても、俺は嫌だぜ。お前のお願いってロクなもんがねぇ。 「体育祭で3−Cを優勝させてもらいたいのよ。」 「・・・んなの、何で俺にだけ言うんだ?」 俺一人の力で優勝できる訳ねぇじゃん。 「だって、釘をさしておかなくっちゃ、当日、緋勇君と二人でサボられちゃったら、 優勝が危ういんだもの。」 「・・・分かった。出りゃあいいんだろ?これで用は終わりか?」 話がこれだけなら、俺はさっさと退散するぜ。 「待ってよ。まだ話は終わっていないわ。」 まだあるのかよ。 「3−Cの優勝の為に、京一君には、応援団長をはじめ、可能な限り1位を取って もらいたいのよね。」 「なんだとぉお!!おい、何で俺がそんなことしなくっちゃなんねんだよっ!!」 「・・・・・京一君なら、必ず協力してくれると思ったから。」 「な訳ないじゃん。知っているだろ?俺、熱血って嫌いなんだよ。」 ったく、冗談じゃねぇ。そんなに競技ばっか出てたら、ひーちゃんと一緒にいられねぇ じゃん!まさか、俺とひーちゃんを引き離す作戦なのか? 「これは、双方にとっても、損な話じゃないと思うんだけど。」 「はぁ?俺には損だけだろ?」 得なのは、お前だけだ。 「ねぇ、京一君、優勝したクラスの中から、MVPが選ばれるって知ってるわよね。」 「MVP?それがこれと何の関係があんだよ。」 「うふふふ。大アリよ。」 MVPなんか関係ないような気がすんだけど・・・。 「そう言えば、緋勇君って、ディズニーランドに行ったことがないって行ってたわよね。」 「なっ・・・・・。」 「そして、二人で行く約束をしたけど、未だにそれが果たされていない・・・。」 「な・・・何でお前が知っているんだっ!!」 そう、確かにひーちゃんはディズニーランドに行った事がない。今年の4月に大阪から 転校して来たから、無理ねェけど。だから、俺はひーちゃんをディズニーランドに連れて 行きたかった。だが、何故か約束した日に限って、事件が起きてしまう。だから、未だに ひーちゃんとの約束は果たされていない・・・・。 「仕方ないよね・・・・。」 行けなくなる時のひーちゃんの悲しそうな顔が、脳裏に浮かぶ。 「今年のMVPの賞品は、ディズニーランドのパスポート。しかも、ペア。」 「・・・・・。」 「1位を取れば10点。2位が5点で3位が1点。応援団長はそれに100点がプラスされる のよねぇ。可能な限り出場した種目を全て1位を取って、応援団長を引き受けてくれれば、 MVPは間違いなしよ。」 美里はさらに言葉を繋げる。 「体育祭が金曜日でしょう。で、土曜日の休みは、体育祭の疲れを取って、日曜日に、 朝からディズニーランドでデートっていいわよねぇ。」 「やる!」 俺は即答した。ひーちゃんの笑顔の為だっ!!何が何でもMVPを取って、ひーちゃんと ディズニーランドでデートだっ!! 「うふふ。京一君なら、必ず引き受けてくれると思ったわ。そうねぇ。必ず競技にやる気を 起させる為に、緋勇君とのツーショットの場面をいくつか作ってあげてもいいわ。」 「つ・・・ツーショットォ!!それって・・・・。」 「勿論、緋勇君と手を繋いで走れるっていうような場面よ。そうすれば、校内は勿論、 他校の緋勇君を狙っている輩に、立派に牽制出来ると思うけど?」 美里・・・悪い。俺、お前の事誤解してたみてぇだ。お前って良い奴だったんだな・・・。 「おう!3−Cの優勝は任せろ!応援団長も引き受けるぜ!!」 フフフ・・・・。体育祭がこんなに待ち遠しいと思ったのは、始めてだぜ!見事優勝して、 MVPを必ず取ってやる!!俺の気合は不可視の炎となって、生徒会室の天井にまで 届きそうに、轟々と音をたてて燃え始めた。そんな俺の姿を、美里は不敵な笑みを 浮かべながら見つめていた。 FIN. |