「すっかり、雪一色だな・・・・。」
京一が感心したように、街を見回しながら言った。
「昨日の雪、凄かったよね。」
俺の言葉に、京一はうんうん頷く。
「クリスマスイブに雪が降って感動したけど、一夜明けてこれじゃあな・・・。」
「何?京一、気に入らないの?」
俺は、心配げに聞いた。だって、京一、昨日言ったじゃん。雪が積もれば、
カマクラ作って、中で鍋を食べようって。
「いや・・・気に入らないって言うか・・・・・。」
煮え切らない態度の京一に、俺は不機嫌になっていく。
「あっそう。判った。」
俺はズンズン先を歩いていく。
「おい、ひーちゃん!何怒ってんだよ!」
慌てて俺の跡を追いかける京一を無視して、俺はスーパーとは
反対方向へと歩いていく。
「おーい!ひーちゃん。スーパーはこっち・・・・って、何処へ行く気だ!!」
流石に俺の様子がおかしい事に気づいた京一は、全速力・・・・とはいかないらしいが、
(道路が雪に埋まっているから)急いで俺に追いつくと、俺の肩をつかみ、自分の方へ向けた。
「どうしたんだよ!ひー・・・・・ひーちゃん?泣いているのか?」
俺の顔を覗き込む京一は、次の瞬間、驚いたような声を出す。
「な・・・泣いてなんか・・・・。」
俺は横を向くと、京一の手を振り払おうとしたが、次の瞬間、足元が滑って、大きくバランスを
崩した。
“転ぶ!!”
衝撃を思い、咄嗟に眼を固く瞑ったが、中々衝撃が襲ってこない。恐る恐る眼を開けると、
京一に抱き締められている状況に気づき、真っ赤になった。
「ご・・ごめん。京一・・・。大丈夫だから・・・・。」
「大丈夫じゃねぇ。」
京一は、ますます俺を抱き締める腕に力を込めた。
「何で、泣いてるんだよ。」
「だって・・・・。」
例え京一にでも、言いたくない。俺は、そのまま俯く。そんな俺の顎に手をかけると、京一は
俺の顔を持ち上げた。
「言えよ。言わなきゃ判らないだろ。」
京一の方が泣きそうな顔だね。でも・・・・。言ったら・・・・・。
「・・・・・・・。」
無言のままの俺に、京一は辛抱強く待っていてくれる。
「だって・・・・・。」
無言のまま自分を見つめる京一の視線に耐えきれず、俺はとうとう白状してしまった。
昨日、大雪が降った、本当の理由を・・・・。
「だって・・・・。京一、雪が降って欲しいっていったから・・・・。だから俺は・・・・・。
龍脈の力をちょっと利用して・・・・・。」
「雪を降らせたって?」
京一の声に、俺はコクンと頷いた。
「・・・・ひーちゃん、黄龍の器だったんだっけ・・・・。」
しみじみと京一は呟く。森羅万象を司ることが出来る、便利な宿星の元に生まれた俺は、
京一の願いを叶えるべく、昨日、大雪を降らせたのだ。
「京一の喜ぶ顔が見たかったんだ・・・・。・・・・怒った?」
絶句している京一に、恐る恐る尋ねてみる。
「・・・・・ひーちゃん。ごめんな。」
京一は、俺をギュッと抱き締めてくれた。
「俺の為に、雪を降らせてくれたのに、俺、ひーちゃんに酷いこと言った・・・・。」
「・・・・・京一。」
「本当に、すまねぇ。知らなかったとは言え、ひーちゃんの恋人失格だよな。」
その言葉に、俺は慌てて首を横に振った。
「違う!京一が悪いんじゃない!俺が勝手にやったことだし!」
「ただ・・・。こんなに雪が降って、寒がりのひーちゃんが風邪引くんじゃないかって・・・・。」
それだけが、心配だったんだと、言われ、俺の中にあった怒りが完全に消えた。
「サンキュー!ひーちゃん!すっげー嬉しいぜ。」
笑顔で言われ、それだけで、俺は幸せになった。
「さっ、最初の予定通り、鍋の材料とか買いに行こうぜ。」
京一は、俺の手を取ると、俺がまた転ばないように、ゆっくりとスーパーに向かって、歩き出す。
「京一・・・・。」
俺の呼びかけに、京一は振り向いた。
「大好き。」
俺は繋がれている手をギュッと握る。
「俺も、愛しているぜ。ひーちゃん。」
京一も握り返してくれる幸せに、俺は心が暖かくなった。
FIN