緋  恋

 

                 第1話                

 

           あなたと一緒にいられるだけで、
           私は幸せです・・・・・。




           “ここは、何処なんだろう…・。”
           暗闇の中、アンジェリーク・リモージュは、
           歩き続けていた。
           「誰か、いないの・・・・?」
           人の気配が全くない、虚無の空間。
           このまま、ここにいてはいけない。
           そう、本能は告げているが、この闇の中、
           何処が出口なのか、アンジェリークには、
           判らない。闇雲に歩いていても、出口に
           辿り着けない。いや、もしかして、出口とは、
           反対の方へと歩いているのではないか。
           そう、思いもしたが、立ち止まると、たちどころに
           闇に取り込まれそうで、アンジェリークは、
           歩みを止めることが出来なかった。
  

           「闇がこんなに怖いなんて・・・・・。」
           自分の知っている闇と、正反対だ。
           そう思って、不意に可笑しくなる。
           “闇”とは、そもそもこういうものだ。
           何を自分は知っているというのだろうか。
           「でも、“闇”は怖いだけではない・・・と
           一瞬思ったのよ・・・・。」
           アンジェリークは立ち止まると、改めて闇を見据えた。
           闇は何処までも深く、何処までも暗い。
           「ふう・・・。」
           アンジェリークは、溜息をついた。
           「まただわ・・・・。」
           何かを思い出そうとすればするほど、闇の触手に 
           囚われるように、意識が闇に沈んでいく。
           もう既に、アンジェリークは、自分が一体何者で
           あるかすら、判らなくなっていた。
           「でも、私には、自分のことより、大切な何かが
           あったはず・・・・。」
           その時、ふいにネックレスの宝石が、闇の中、
           まるでアンジェリークを守るかのように、炎のような
           光を放つ。
           アンジェリークは、驚いてネックレスを手にとってみる。
           涙の形をしたその宝石から、何故か炎の暖かさを
           アンジェリークは感じた。
           「暖かい・・・。この・・・この感じは・・・・・。」
           暫く、宝石を見つめていたアンジェリークだったが、
           背後に、何かの気配を感じで、慌てて振り返った。
           闇の中、淡い光を放ちながら、自分と同じ年頃の
           少女が、アンジェリークを、悲しそうに見つめていた。
           「あなた・・・・誰・・・?」
           “あなたも同じなの・・・。私と・・・・。”
           少女は、悲しそうに呟いた。
           「同じ・・・・?」
           訳が判らず、アンジェリークは、少女をただ見つめていた。
           “可哀相な人・・・・。”
           少女は、そう呟くと、闇にその姿を滑り込ませた。
           「あっ!待って!!お願い!」
           アンジェリークは、慌てて少女がいた場所まで走り出すが、
           少女の姿は、完全に消えた後だった。


           “可哀相な人・・・・。可哀相な人・・・・。”
           少女の声だけが、辺りを埋め尽くす。
           「やめて!やめて!!」
           堪らず、アンジェリークは、両耳を塞いで、蹲った。
           しかし、声は直接アンジェリークの脳へと
           響き渡り、一層アンジェリークの恐怖を高める。
           「助けて・・・。助けて・・・・・様・・・・・。」
           アンジェリークは、その場に、崩れるように倒れた。