緋  恋

 

                 第2話

  

            “可哀想に・・・・・。”
            “私はあなた。”
            “あなたは、私・・・・・・。”
            “だから、あなたの想いが、分かるの・・・・。”

            ・・・・・こんなに苦しいのなら、恋などしなかったのに。
          



           「アンジェリーク!!」
           アンジェリークの寝室のドアを、荒々しく開け放ちながら、
           炎の守護聖、オスカーは、殺気だった目を、アンジェリークが
           眠っているベットを向ける。
           「・・・・静かにしないか。オスカー。」
           アンジェリークの枕元に立っていた、光の守護聖、ジュリアスが、
           非難めいた瞳をオスカーに向ける。
           「・・・・申し訳ありません。ジュリアス様・・・。それで、アンジェ・・・。
           いえ、陛下のご様子は・・・・・。」
           ジュリアスの鋭い眼光に、漸く平常心を取り戻したオスカーは、
           深く頭を下げた。
           「あー、そのー、オスカー、ここでは、何ですから、別室で・・・。」
           丁度、ドア近くに立っていた地の守護聖、ルヴァが慌てて
           オスカーを別室へと誘おうとするが、オスカーは、ルヴァの制止を
           振り切って、アンジェリークの元へ行こうとする。
           「そこから、動くな。オスカー。」
           だが、ジュリアスの制止にも、オスカーの歩みは止まらない。
           「オスカー様!!」
           「行けません!オスカー様!」
           慌てて風の守護聖、ランディと緑の守護聖マルセルが、オスカーを
           両脇から押さえようとするが、オスカーは乱暴に二人を振り払う。
           「ご無礼を。オスカー様。」
           見かねたヴィクトールが、オスカーを後ろから羽交い締めにすると、
           漸くオスカーの歩みが止まった。
           「放せ!ヴィクトール!」
           ヴィクトールを振り払おうと、オスカーは暴れたが、後ろから羽交い締めに
           されているため、なかなか振り払うことが出来ない。
           「・・・・・・・ヴィクトール、オスカーをそのまま別室へ。」
           ジュリアスが苛立ちげに吐き捨てるように言った。
           「承知しました。」
           幾分、表情を硬くしたヴィクトールが、ジュリアスの言葉に、オスカーを
           引き摺るように、部屋から出て行こうとする。
           「おい!一体何故!!」
           オスカーの問いに、その場にいた全員は固い表情のまま、視線を逸らせた。
           「アンジェリーク!!」
           オスカーは、右手を思いっきり、アンジェリークの方に伸ばすが、その差が
           縮まることはなかった。いや、むしろ離れるばかりである。
           「俺を放せ!!」
           再びオスカーがヴィクトールを振り解こうと暴れた時、それまでドア近くの
           壁に背中を預けていた、鋼の守護聖ゼフェルが、溜息をつきつつ、オスカーの
           側まで来ると、その頬を思いきり叩く。
           「ゼ・・フェル・・・・。」
           室内に響く叩いた音よりも、ゼフェルの怒りの炎に燃え盛る紅い瞳に、オスカーは
           呆然と呟く。
           「・・・・・一体、テメーは何したんだっ!!」
           ゼフェルは、もう一度オスカーの頬を叩くと、足音も荒く部屋を飛び出した。
           「おい!待てよ!ゼフェル!!」
           「ゼフェルってばっ!!」
           そんなゼフェルの後を、ランディとマルセルが慌てて追いかける。
           三人の後ろ姿を、心配そうに見つめていたルヴァだったが、やがて
           溜息をつくと、厳しい瞳でオスカーを見据えた。
           「オスカー。聞きたいことがあります。別室に来てくださいますよね。」
           逆らうことを許さないルヴァの様子に、オスカーは搾り出すような声で言った。
           「一体、何がどうなっているんだ・・・・。」
           「・・・・・・・・。あなたのせいですよ。オスカー・・・・・。」
           対するルヴァは、憎しみを込めた声で答えた。





           「・・・・・さて、お前ならどうする・・・?」
           暗闇の中、闇の守護聖、クラヴィスが、水晶球に映し出された
           オスカーの顔を見つめながら呟く。
           “くす・・・。”
           “くす・・・・。”
           “クス・・・・。”
           “クス・・・・。”
           闇の中から、少女の笑い声だけが、いつまでも響き渡っていた。