第2話 錬金術師よ、大志を抱け!?

 

 

     「やるからには、完璧を目指す!!」
     やる気満々のエドの様子に、ロイは気づかれないように、
     こっそりと口元を綻ばせた。





     「ちわーす!お久し振りです!」
     そろそろお昼にしようと、ホークアイ大尉達が、仕事の手を
     休めた時、軽いノックの後に、ひょっこりと顔を出すエドに気づき、
     その場の雰囲気が一気に和んだ。
     「あら!エドワード君!おめでとう!!無事元の身体に戻れて
     良かったわ!」
     目を輝かせてエドに声をかけるのは、エドワード君は私のもの!と
     公言して憚らない、軍の影の支配者、ホークアイ大尉。超お気に入りの
     登場に、ニコニコと上機嫌でエドを招き入れる。
     「お久し振り。ホークアイ大尉。何とか、無事に元の身体に戻れました。
     みんなには、本当にお世話になりました。ありがとう。」
     頭を下げるエドに、ホークアイはゆっくりと近づくと、エドの身体を抱き締めた。
     「いつ、こっちに?」
     「昨日の夕方、こっちについたんだ。」
     エドはにっこりと微笑みながらホークアイを見上げる。
     「そうなの?昨日は私は非番だったのよ。言ってくれれば、食事に
     招待したのに・・・・・。」
     残念そうなホークアイに、エドは済まなそうにペコリと頭を下げる。
     「ごめん!ちょっと事情が・・・・・。」
     「事情・・・・?」
     ピクリとエドの言葉に反応する。
     「それって、一体・・・・・。」
     「よお!大将!昨日は無事だったか?」
     ホークアイの言葉を遮るように、ハボックがエドに声をかける。
     心なしか、憔悴しきった様子に、エドは訝しげな顔で、首を傾げる。
     「何だよ。無事って・・・・。俺は騒ぎは起こしてねーぞ!!」
     プクリと可愛いらしい頬を膨らませるエドに、ハボックは苦笑しながら、
     エドの頭をグリグリと撫でる。
     「縮むだろ〜!!離せ〜!!」
     「大将は可愛いなぁ〜。癒される〜。」
     調子に乗ってグリグリとエドの頭を撫でるハボックに、無言のままホークアイの
     銃が突きつけられる。
     「じょ・・・冗談ッスよ!」
     乾いた笑みを浮かべながら、両手を上に上げるハボックに、ホークアイは
     満足そうに頷くと、ハボックに乱された髪を必死で直すエドに、蕩けるような
     笑みを浮かべる。
     「大丈夫?エドワード君。あっちで髪の毛を直してあげるわ。それから、一緒に
     お昼を食べましょう!」
     嬉々としてエドを連れて行こうとしたホークアイに、エドは申し訳ないような顔で
     再びホークアイにごめんと頭を下げる。
     「ごめん!俺、今日は准将と一緒に食べようと思って、
     お弁当を持って来たんだ・・・・・・・。」
     その言葉に、ホークアイはピタリと歩みを止めると、勢い良く振り返った。
     「どうして!何故!!あんな無能なんかに!!」
     滅多に取り乱す事のないホークアイの、凄まじいまでの取り乱しように、エドは
     何と答えていいか分からずに俯いた。
     「やあ!待たせたね!鋼の!!」
     そこへ、運が良いのか悪いのか、ロイが会議を終えて、戻ってきた。
     「准将!!」
     当然、怒りの対象が現われた事で、ギリリとホークアイがロイを睨む。
     「何かね?ホークアイ大尉。」
     ホークアイの怒りを更に煽るように、ロイは余裕の笑みをホークアイに向ける。
     「何故、私のエドワード君が、准将へお弁当を作ってくるのでしょうか?」
     にっこりと青筋を立てながら、ホークアイはロイに向き直る。
     「何故とは?何かおかしいことでもあるのかね?」
     「おかしくないところを探すほうが、困難かと。」
     エドを挟んで両者の間に、火花が激しく散る。
     「さぁ、エディ。執務室へ行ってお昼にしようか。」
     ロイは、困惑しているエドに、にっこりと微笑むかける。
     「お待ち下さい!質問に答えてもらっておりません!!」
     エドの前にホークアイが立ちはだかる。
     「何故君にそこまで言う必要があるんだ?」
     僅かに気分を害したように、ロイは眉を顰める。
     「それは、東方司令部勤務時代から、私はエドワード君達が司令部に
     滞在する日の全ての食事を一緒に取る権利を得ているからです。勿論、
     エドワード君とアルフォンス君の両方から、同意を得ています!!」
     胸を張って言うホークアイに、ロイの顔から表情が消える。そして、
     ちらりとエドの方を見ると、意地の悪い笑みを浮かべて話しかける。
     「ほう。それは初耳だったな。では、エドワード。君の口から、今後一切、
     大尉との食事をキャンセルすることを、伝えたまえ。」
     その言葉に、ホークアイは青ざめてエドを見る。
     「な・・・!何で今後一切なんだよ!!たかが1カ月の間じゃん!!」
     猛然と抗議をするエドに、ホークアイは、探るように二人を見る。
     「1カ月?」
     「そう!!査定の研究の為に、一ヶ月の間、仕方なく准将のご飯を作るの!!」
     ふん!と、怒りのため、腕を組んで横を向くエドに、ロイは苦笑する。
     「仕方なくだと?今朝はやる気満々だったではないか。」
     「それは・・・その・・・・・。」
     途端、言葉に詰まるエドを見かねたように、それまで事の成り行きを静観して
     いたハボックが声をかける。
     「とりあえず、飯でも食いながら、事の真相を教えてくださいませんか?」
     俺、今から飯を買ってきますから。と、部屋を出て行こうとするハボックに、
     エドが慌てて声をかける。
     「あっ、良かったら大尉と少尉も俺が作った弁当を食べる?結構一杯作って
     きたから。」
     にっこりと笑うエドに、ハボックも微笑み返す。
     「お!いいのか?大将の飯はうめぇからな!!」
     「まぁ!久々のエドワード君の手料理なのね!」
     喜ぶ部下に、ロイは内心面白くない。漸くエドの手料理を昨日の夜から食べる
     事が出来た自分と違い、話から部下達はかなり前から頻繁にエドの手料理を
     食べていたらしい事実に、ロイの目がだんだんと据わってくる。
     「鋼の!分かっているのか?1カ月1万センズだぞ!?」
     急に怒り出すロイに、エドも負けじと睨み返す。
     「分かっているよ!その辺に手抜かりはない!!」
     嫌なら食うな!!とまで言われて、ロイはしぶしぶホークアイ達も一緒に
     お昼を取る事を了承する。





     「へぇえええ。1カ月1万センズで2人が生活かぁ。」
     食後のコーヒーを飲みながら、ハボックは感心したように頷く。
     「ああ。准将と共同研究って形を取っているからさ。昨日から
     何とかやってるよ。」
     コーヒーの苦手なエドの為に、ホークアイがココアを渡しながら、
     エドの横に座る。
     「あら、だったら私達が食べてしまって、大変なんじゃない?」
     心配そうに言うホークアイに、エドは大丈夫と胸を張る。
     「大丈夫だって!!小麦粉を大量に安く仕入たし、他の食材も
     メチャメチャ安い店を探したし、今回の弁当代、三人合わせても、
     たったの272センズだぜ?1人68センズだし。」
     得意げに言うエドに、ロイ達は一斉に自分達が食べた後の
     バスケットを見た。
     「もしかして、パンも何かも、全て手作りか?」
     驚くロイに、エドは何を言っているんだとばかりに、眉を顰める。
     「当たり前だろ?そうだ!家庭菜園をやりたいから、庭の一角を
     畑にしてもいいか?やっぱり、買うよりも安上がりだし、何よりも、
     味が全然違うんだよ!!」
     ふと思いついたように、エドはロイに尋ねる。
     「ああ。それは構わないが・・・・・・。」
     「へへっ。母さんも、野菜を作ってたんだよね・・・・・。」
     ふと表情を和らげるエドに、何と言って良いのか分からず、大人三人は
     顔を見合わせる。
     「あと・・・・節約できることは・・・・。それと、錬金術との連携をどうするか
     だな・・・・・。」
     ぶつぶつと1人で呟いているエドに、ホークアイは慈愛の笑みを浮かべる。
     「楽しそうね。」
     「ああ!最初はつまんない研究だと思っていたけど、やってみると、結構
     面白いんだ!」
     にっこりと微笑むエドに、ホークアイもにっこりと微笑み返すが、直ぐに
     ロイに冷たい視線を送る。
     「で?共同研究なのに、エドワード君1人にさせて、准将には、良心の
     呵責はないのですか?」
     この、無能!無能!無能!!と、目で電波を送っているあたり、ホークアイの
     怒りはまだ解けていないどころか、更に増大しているらしい。
     「まぁ、私も手伝うとは言っているのだがね・・・・。」
     苦笑するロイに、エドはウンザリとした顔で更に追い討ちをかける。
     「だって、こいつ使えないんだぜ?せいぜい荷物持ちか、火を点けさせる
     くらいしか役立たないんだよ。」
     火を点けることしか能がないとはっきり言われ、ロイは引きつる。
     「だがね、エディ・・・・。」
     「あ!!そろそろ洗濯物を取り込まないと!!じゃあ、俺帰る!!」
     慌てて帰ろうとするエドに、ホークアイはふと疑問に思った事を尋ねる。
     「そう言えば、夜はどこに泊まっているの?宿代もばかにならないでしょう?
     良かったら、私の家に来ない?」
     「あー・・・その事なんだけど・・・・。」
     言いづらそうなエドに変わって、ロイがにっこりと微笑みながら言う。
     「昨日から私の家に泊まっているよ。共同研究を行っているし、その方が
     何かと都合がいい。」
     瞬間、ホークアイの怒りがMAXへと跳ね上がる。
     「エドワード君!!ちょっと来て!!」
     青い顔で立ち上がると、ホークアイは有無を言わせずエドの腕を引っ張ると、
     引き摺るように部屋を出て行った。






     使用していない会議室に、エドを押し込むと、使用中のプレートをかけて、
     ホークアイは扉に鍵をかける。
     「エドワード君!准将の家は危険よ!!早く私の家に来て頂戴!!」
     「大丈夫だって!准将は俺の性別なんてわかんないし。」
     エドの性別を知る数少ない人間の1人であるホークアイは、エドの貞操の
     危機とばかりに、必死に説得を試みるが、エドは首を縦に振るどころか、
     ニコニコと笑ってばかりいる。
     「では、せめてアルフォンス君を呼びましょう!」
     超シスコンのアルフォンスなら、例えロイが暴走しても、身体を張って
     止めてくれるはず!そう思っての提案なのだが、エドは困ったような顔を
     した。
     「アルなら今はダブリスの師匠の家で、修行している。なんか良く分かんない
     けど、強くなりたいとか何とか・・・・・。」
     きっと姉を守るために強くなりたいと言っているのだろう。健気なアルフォンスに、
     ホークアイは微笑ましいものを感じるが、何で一番危険な時にいないのかしら!と、
     内心泣きたくなる。
     「では、こうしましょう!私と一緒に研究をして、後で准将の名前を付け加えると
     いうのは?」
     「それも考えたんだけどさ・・・・。准将が言うには、個別に質疑応答があるから、
     矛盾が出たらまずいんだって。だから、なるべく2人一緒じゃないとって・・・・・。」
     困惑するエドの様子に、ホークアイは頭の中でロイに向かって、銃を乱射、最後に
     バズーカー砲をぶっ放していた。
     (計画犯罪よ!これは!!)
     今ほど自分が錬金術師でないことが、悔やまれる。もしも国家錬金術師で
     あったならば、あの無能の好き勝手には、させなかったのに!!と、
     険しい表情になるホークアイに、エドは恐る恐る声をかける。
     「そんなに、心配しなくっても、大丈夫だよ。・・・・准将は・・さ・・・俺の事、
     なんとも思ってないし・・・・・。」
     俯くエドに、ホークアイは内心そんな事はない!!と強く否定する。あの
     他人が見ても十分恥ずかしいアプローチの数々を、エドが気づく前に、
     さり気なくアルと2人で妨害していたのだ。
     「エドワード君、辛い事があったら、いつでも私のところに来てね。」
     「うん!ありがとう!!じゃあ、俺そろそろ行くね。」
     にっこりと微笑みながら、トボトボと会議室を出て行くエドの後姿を見送りながら、
     ホークアイは、ロイの暴走を止めるべく、打つ手を考える。
     「本当は、国家錬金術師は止めて欲しいのだけど・・・・。」
     何故、エドが資格を返上しないのか、理由を知っているだけに、ホークアイは
     それだけは口にすることは出来ない。
     「とりあえず、連日残業をしてもらうしかないわね・・・・・。」
     極力ロイとエドの接点を作らせない作戦だが、ロイのエドの作ったものしか絶対に
     口にしない!宣言に、エドが文句を言いつつも、お昼の他に、夕食まで
     作って司令部に来る状況になってしまった。昼間ならともかく、
     夜1人で出歩くのは危険だ。いくらエドが国家錬金術師であっても、
     女の子なのだ。何かあってからでは遅い。仕方なく、ホークアイの方が
     折れたのだ。


     こうして、ロイとエドの奇妙な共同生活は、中盤に差し掛かろうとしていた。





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次回、ちょっと進展があるはず・・・・。
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