エドの捻挫も完治し、漸くレポートを提出した
翌日、マスタング邸に掛かってきた一本の
電話が、嵐の到来を告げた。
「もしもし!マスタング・・・・・って、アル!?」
電話に出た途端、弟の切羽詰った声に、エドは
よくここが分かったな〜とのほほんと答えた。
「わかったな〜じゃないよ!!姉さん!そこに
准将いるの!?ねえ!どうなの!!」
「へっ?ロイ?ロイに用なのか?」
姉が親しげにロイの名前を言った途端、アルから
どす黒いオーラが滲み出る。
「姉さん。いつの間に准将と仲良くなったのさ・・・・。」
まるで地の底から響いてくるようなアルの声色に
天然ボケ少女のエドは、全く気づくことなく、まるで
お天気の話をするように、ニコニコと笑いながら言った。
「だって、ロイが階級名だと、家の中でも寛いだ気が
しないっていうからさ。」
次の瞬間、アルの持つ受話器にピシリと亀裂が走る。
「・・・で、准将は?」
代わってくれる?と黒い笑みを浮かべながら、ロイを
電話口に出すように頼むが、エドは途端に、申し訳
ない様な声で言う。
「ああ。お昼までいたんだけど、急に会議が入ったらしくて、
ホークアイ大尉に、銃で脅されて司令部に行った。」
その言葉に、アルは内心ホッと胸を撫で下ろす。
「そっか・・・。いないのなら好都合・・・・。」
「アル?」
流石にアルの様子がおかしい事に気づいたエドは、
訝しげな声を出す。
「姉さん!!自分が女だって自覚があるの!?
1カ月振りに修行を終えて、師匠の家に帰ってみたら、
ホークアイ大尉から伝言があってさ。急いで連絡を
取ってみたら、姉さんがここ一ヶ月の間、准将の家に
泊まっているって聞いて・・・ボク・・・ボク・・・・・。」
電話口でエグエグと泣き出す弟に、エドは困ったような
顔で頭をゴシゴシと掻く。昔から、自分はこの弟の涙に
弱いのだ。どう宥めようかと、口を開こうとしたところ、
いきなりの大音量が聞こえてきた。
「この馬鹿弟子があああああああ!!!!」
「せ・・せ・・・師匠(せんせい)!?」
思わず受話器を離しても聞こえる大音声に、エドはキーンと
なる耳を押さえながら、驚いた。
「なんで、師匠が!?」
「それは、私の家から電話をかけているからに、決まっている
だろう?それよりも、エド!!嫁入り前の娘が、独身男性の
家に泊まりこむとは、どういうことだ?」
本気で怒っている師匠である、イズミ・カーティスの声に、
エドはさっと顔を青ざめると、ガタガタ震えながら何とか
状況を説明しようとした。
「そ・・・それは・・その・・・・査定の為の研究で・・・・。」
「エド。お前とアルは無事元の身体に戻ったんだ。
一体、いつまで軍の狗を続けるつもりだ。」
イズミの言葉に、エドは唇を噛み締める。
「・・・・ずっとです。俺、国家錬金術師、辞めるつもりないですから。」
「エド!?」
一歩も引かないエドの決心を感じ取ったのだろう。
イズミは深い溜息をついた。
「・・・・・とりあえず、この件は保留にしよう。今から私とアルは
そっちに向かう。多分、明日の夕方頃には着くだろう。
そこで待っていなさい。」
そう言うと、イズミは一方的に電話を切った。
「・・・・明日・・・来る・・・?師匠が・・・・?」
茫然と呟くエドだったが、次の瞬間慌てて踵を返した。
「ただいま。・・・・・・・・・エディ・・・・?」
やっと退屈なだけの会議を終わらせて自宅に戻ってきたロイが
見たものは、パニックになって慌ててバタバタと家の中を走り回っている
エドだった。そして、何故か玄関先には、家を出て行くときにはなかった、
エドのトランクと赤いコートが置いてあるのを見つけ、ロイの眉間に
皺が寄る。
「えっと・・・・。戸締りしたし・・・・。夕飯の支度も出来ているし・・・・・。
あとは・・・・えっと・・・・・。手紙・・・・は、いいや!!後で電話すれば・・・。
とにかく急いでここを出て行かないと・・・・・。」
ブツブツ呟くエドに、ロイは不機嫌も露な声をかける。
「・・・・・・どこへ行く気だ。」
「うぎゃあああ!ロイ!!」
振り向いた先には、超不機嫌なロイの姿があったのだが、パニック状態の
エドが気にするはずもなく、ほっとした笑顔をロイに向ける。
「ああ。良かった。おかえり!ロイ!!取りあえず、これ返しておくな。
エドは、ポケットに入れてあった、この家のスペアキーを、ロイに手渡す。
「エディ?」
ショックに、ロイがエドの顔を凝視していると、エドは早口で捲くし立てる。
「夕飯は出来ているから、適当に暖めて食べてくれよ。レポートは昨日提出
したし、もう俺がここにいる必要ないしな!そんじゃあ、俺、ここを出て
行くから。今まで世話になったな!」
そのまま駆け出そうとするエドの腕を、ロイは咄嗟に掴む。
「待ちたまえ!エディ!!」
「離せ〜。早くここを出て行かないと、師匠に殺される〜!!」
暴れるエドに、ロイは訳が分からない。
「師匠?一体どう言う事なのかね?」
どうやら自分を嫌って出て行こうとしている訳ではないことを悟って、
少し余裕が出来たロイは、優しくエドに尋ねる。
「じ・・実は・・・・・。」
エドは観念して事情を説明する。まさか自分が女である事を
バラす訳には行かないので、女であるエドが独身のロイの家に泊まって
いる事を師匠が怒っている事は話さず、国家錬金術師嫌いの師匠が、
身体を取り戻した今でも国家錬金術師になっている自分に腹を
立てていること。そして、その事で、師匠とアルが明日の夕方に、
ここを訪れる事を話した。
「・・・・師匠に殺される・・・・・。」
よほど師匠が怖いのだろう。そう言って、エドはガタガタと震え出す。
そんなエドに、全てを聞き終えたロイは深い溜息をつく。
「エディ・・・・・。君は何のために国家錬金術師を続けていくのだね?」
ロイの問いかけに、エドの身体がピクリと跳ねる。
「それは・・・・・。」
まさか目の前の男を守りたいと言うわけに言わず、何と答えていいのか
わからず、エドは唇を噛み締める。
「・・・・君はこの家を出て行こうとしていた。明確な理由さえあれば、
ここを出て行こうとはせず、師匠を出迎えられるはずだ。」
その言葉に、エドは唇を噛み締める。急いでここを出て行こうとした
理由は、エドがここに居る事を、快く思わない師匠の怒りを少しでも
宥める為であって、決して国家錬金術師を続けていく理由がないから
ではない。だが、それも目の前にいる男に告げることはできない。
八方塞で黙り込むエドの態度に、ロイは自分の仮説を肯定していると
感じ、深い溜息をつく。
「・・・・・・君には時間が必要のようだね。」
その言葉に、エドはハッと顔を上げる。
「・・・・・本当は、1人で研究をしてくれた君への感謝に、招待する
つもりだったのだが・・・・・。」
ロイは、じっとエドの顔を覗き込む。
「明日、私の別荘へ行かないか?落ち着いてこれからの事を
考えるのには、最適な場所だと思うが?」
「へっ?別荘・・・?」
いきなり話が飛んで戸惑うエドに、ロイは優しい笑みを浮かべる。
「行こう。・・・・・一緒に・・・・。」
何故かエドはコクリと頷く事しか出来なかった。
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一緒にって、アンタ、仕事は!?とセルフ突っ込みをしてしまう、
上杉です。口では1人で研究をしてくれた感謝だの、これからの事をじっくりと
考える場所を提供するだの、立派な事を言っていますが、この男は、
120%下心満載です。いえ、それしかありません。
全部が全部巧妙に張られたロイの罠です。
哀れ、エド子さんはどうなってしまうのか!?
待て!次回!!
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