第8話

 

               

The fountains mingle with the river,
泉は川と交わり

     And the rivers with the ocean;
 川は海と交わる

The winds of heaven mix forever
 天を行く風は常に

     With a sweet emotion;
  優しい想いと交わる

Nothing in the world is single;
この世に孤独なものはない

     All things by a law divine
  全てのものが神の定めで

In another's being mingle--
一つの霊に溶け合う

     Why not I with thine?
        何故、私はそなたと溶けあえないのか

See, the mountains kiss high heaven,
見よ、山々が空にくちづけし

     And the waves clasp one another;
  波が互いに砕け散るを

No sister flower could be forgiven
我が妹なる花々は

     If it disdained its brother;
    兄弟を支持すれば許されるであろう

And the sunlight clasps the earth,
大地はかたく抱き合い

     And the moonbeams kiss the sea;--
  月光は海にくちづけする

What are all these kissings worth,
その甘美さも何になろう

     If thou kiss not me?
   そなたのくちづけなしには



              Love's Philosophy
                        by: Percy Bysshe Shelley 
 

 

 

         「やぁ・・・・・あっ・・・・。」
         深くなる口付けに、エドは首を振って逃れると、軽くロイの胸を
         押して、力が緩んだ所を見計らって、ロイの腕の中から逃れる。
         「エディ?」
         何故だと悲しそうなロイの顔に、ズキリと心が痛んだが、
         エドは唇を噛み締めると、俯いて呟く。
         「もう・・・もういいから・・・・。」
         「エディ?」
         エドはくるりと後ろを向いてロイに背を見せると、震える肩を抱き締めながら、
         一気に言う。
         「もう、俺の事は忘れていくれ!!子どもが出来たからって、別に
         責任をとっても貰おうなんて、思ってない。もう二度とアンタと会う気なんて
         ないから・・・・・。だから・・・・・・アンタは好きな人と結婚しろよ・・・・。」
         「エディ!!!」
         ロイは頑ななまでのエドの言葉に、我を忘れると、ツカツカとエドに
         歩み寄り自分の方へ向かせる。涙に濡れるエドの顔に、ロイは怒りに
         満ちた表情が、ふと辛そうに歪む。
         「エディ・・・・・。私の言葉は、君に届かないのか・・・?」
         「大佐・・・・・。もう、俺の事は忘れてよ・・・・・。」
         切ない表情のエドに、ロイは思いつめた表情でエドの腕を取ると、
         扉に向かって歩き出す。
         「た・・・大佐・・・?」
         身重の身体を気遣ってか、ゆっくりと、だが決して逃げないようにエドの
         腕をとりながら、ロイは無言のまま家を後にする。
         「ねぇ!どこ行くんだよ!!」
         何度か、腕を振り解くことを試みたが、その都度、ロイの無言の圧力に
         エドは黙ってロイの後をついていく。
         「ここは・・・・・。」
         ロイに連れられた場所に、エドは驚いてロイの顔を凝視する。
         町を一望できる丘。以前、ここであった事を、ロイも忘れずに
         いてくれたのだろうか。エドはポケットに入ったままのしおりを、
         ぎゅっと握り締める。
         「君にとって何でもない場所かもしれない。だがね、ここは、
         私にとって、一番大事な場所なんだ・・・・・。」
         ロイはゆっくりと一本だけ立っている、大きな木の下へとエドを導くと、
         その木の根元に、エドを座らせ、自身もその横に腰を降ろす。
         暫く二人は並んで風に吹かれていたが、やがてポツリとロイは
         呟く。
         「・・・・・君は覚えているだろうか。ここで私が君にあげたものを・・・。」
         ロイの言葉に、エドはピクリと身体を振るわせる。
         「私は、初めて会ったときから、君を愛している。」
         ロイはゆっくりと顔をエドに向けると、そっとその華奢な両手を
         握る。
         「・・・・元の身体に戻ったんだね。おめでとう。」
         嬉しそうに微笑むロイに、エドは真っ赤になる。
         「・・・・ありがとう。」
         消え入りそうなエドに、ロイはふと表情を和らげる。
         「あの時に渡したお守りは、君には効果があったようだ。」
         ロイは逃げるように手を引くエドを許さず、再びエドの腕を
         自分の方へ引き寄せる。
         「エディ。私があのしおりを渡したのは、意味があるのだよ。
         いつか・・・・全てが終わったらこの私の【想い】を君に
         伝えようと。その願いを【花言葉】に託したんだよ。」
         「【花言葉】・・・・?幸福だろ・・・?」
         首を傾げるエドに、ロイは優しく微笑む。
         「幸福は、クローバーの花言葉だ。私があげた四葉のクローバーには、
         別の意味がある。」
         ロイは右手で上着の内ポケットから小さな箱を取り出すと、器用に
         片手だけで蓋を開ける。
         「四葉のクローバーの葉には、一つ一つ意味があるんだ。」
         そう言って、ロイがエドに差し出した小箱の中身は、四葉のクローバーを
         模した指輪だった。驚くエドに、ロイは真剣な顔で言った。
         「Wealth(富)、Glorious Health(すばらしい健康)、Fame(名声)、
         Faithful Lover(満ち足りた愛)を示していて、四枚揃って、
         True Love(真実の愛)を表しているそうだ。」
         「真実の・・・・愛・・・?」
         ロイはきつくエドの手を握る。そのあまりの強さに、エドが
         顔を顰めるが、緊張しているロイはそのままエドを自分の腕の中へと
         引き寄せる。
         「そして、四葉のクローバーの花言葉は・・・・・・・・。」
         ロイはエドの耳元に唇を寄せると、想いを込めて囁く。
         「Be Mine・・・・・・。私のものになってください。」
         途端、エドの顔が真っ赤に染まる。
         「エドワード・エルリック、どうか私の妻になって下さい。」
         エドの身体を抱き締めながら、ロイはどうか指輪を受け取って欲しいと
         強く祈っていた。だが、エドはロイの予想に反して、エドは悲しそうな
         顔で首を横に振る。
         「何故だ!!理由を、理由を聞かせてくれ!!」
         「大佐には、好きな人がいるんだろ・・・?」
         俯くエドに、ロイは絶句する。
         「エディ、君は私の言う事が、嘘だとでも・・・・・私の君への
         【想い】を嘘だというのかね・・・・?」
         「だって!!俺、聞いたんだ!!」
         怒りに震えるロイに負けじと、エドは悲しそうに怒鳴る。
         「2ヶ月前のあの時!!」
         「2ヶ月前?君はあの時、私の話を聞こうとしなかったではないか!!」
         怒りを露にするロイに、エドは涙をポロポロ流しながら、呟く。
         「あの日、大佐は誰かと電話をしていた。その相手に向かって言ったじゃ
         ないか!!『愛している。誰よりも。』って!!」
         肩で息を整えながら、エドの脳裏には2ヶ月前に見た、電話の相手に
         向けた幸せそうな笑顔が浮かび上がり、再び涙が零れ落ちそうに
         なるのを、エドは目に力を込める事で、なんとか押さえる。
         「2ヵ月前・・・・・・?電話・・・・?」
         何の事か分からず、顎に手を当てて考え込んでいたロイだったが、
         ふと何かを思い出したのか、いきなり笑い出した。
         「ちょっと!!大佐!!」
         ゲラゲラと笑い出すロイに、最初は唖然としていたエドだったが、だんだんと
         怒りが満ちてきて、ロイを怒鳴りつける。
         「ククク・・・・。私が誰か別の人間にそれを言ったと思って、拗ねて
         いたのだね?」
         嬉しそうに笑うロイに、エドはムッとして顔を横に背ける。
         「す・・・拗ねてなんかねーぞ!!アンタに、好きな人間がいる
         だろって・・・・。」
         「エディ!!」
         エドの言葉を、ロイの鋭いセリフが遮る。
         「・・・・誓って言う。私には、君しかいない。電話で言った、誰よりも
         愛しているという言葉は、君に対しての事だ。」
         「な・・・何言って・・・。」
         困惑するエドに、ロイはふと表情を和らげる。
         「あの電話の相手は、私の母だ。」
         「お・・お母さ・・・ん・・・・・?」
         ロイはエドの身体を抱き寄せた。
         「私は母に手紙を書いたのだよ。近々、婚約者を・・・・エドワード・
         エルリックを、母に会わせる為に、実家へ戻ると・・・・・。」
         ロイの言葉に、エドは息を呑む。
         「今まで縁談には見向きもしなかった私が、いきなりそんな手紙を
         送ったので、母は慌てて電話をかけてきたという訳さ。
         本気なのかと。」
         エドはロイの顔をじっと凝視する。
         そんなエドにロイは真剣な表情で告げる。
         「私は母に言った。本気だと。エドワードを愛している。誰よりもと・・・・。」
         ロイの幸せそうな表情に、2ヶ月前に見たロイの表情が重なり、漸く
         エドが己が勘違いしていた事に気づき、顔を真っ赤に染める。
         「エドワード。改めて君に願う。私の傍にいて欲しい・・・・・。」
         「でも、大佐・・・・。」
         戸惑うエドに、ロイは重ねて言う。
         「エディ。私は”YES”しか聞かないよ?」
         ロイの縋るような目に、エドは小声で呟く。
         「俺達は人体練成を行った。ばれたら、大佐だって・・・・・。」
         「エディ。”YES"と・・・”YES"と言って欲しい。」
         ロイはエドの唇を塞ぐ。
         「エディ。ただ一言でいいんだ。”YES"と言ってくれ。」
         再び深く口付けをするロイに、エドは囁くように呟く。
         「・・・・・YES・・・・・・。」
         「エディ!!」
         漸く得られたエドの言葉に、ロイは満面の笑みを浮かべて、エドを
         抱き締める。
         「愛している。君だけを愛している。」
         「俺も・・・・ううん・・・・。私も・・・・大佐が好き・・・・。愛しています・・・・。」
         頬を染めるエドに、ロイはクスリと笑う。
         「エディ。こういう時は、名前で呼んで欲しいのだが・・・?」
         「名前・・・?・・・・・ロ・・・イ・・・・?」
         真っ赤になって俯くエドの顎を捉えると、ロイは深く口付ける。
         長い間、恋焦がれてきたエドが自分の腕の中にいるという幸せに、
         ロイの心の中は、歓喜で震えていた。
         「・・・あっ!!」
         いきなり小さな叫びをあげるエドに、ロイは腕の力を緩めると、エドの
         顔を覗き込む。
         「エディ?」
         「・・・・ロイ・・・・。お腹の子どもが・・・・蹴った・・・・・。」
         幸せそうなエドの顔に、ロイはおずおずとエドの大きなお腹に、
         手を添える。
         「この中に・・・・・私の子が・・・・・・・。」
         ロイは愛しそうにお腹を摩ると、口をお腹に近づける。
         「初めまして。パパだよ・・・・・。」
         ロイは愛しそうにお腹にキスをする。
         「愛しているよ。早く君に逢いたい・・・・・。」
         その言葉に、エドは涙をポロポロ流す。やはり、クリストファーの
         言った事は正しかったのだ。父親の愛情溢れる言葉に、お腹の
         子が、初めてはしゃぐ様に、お腹を蹴った事に、エドは心の中が
         幸せに満ちてくるのを感じた。
         「1人きりで、辛かっただろう・・・・。」
         悲しそうに呟くロイに、エドは首を思いっきり横に振ると、そっと
         ポケットの中から、あの日、ロイから貰った四葉のクローバーの
         しおりを取り出す。
         「これがあったから・・・・頑張れた。」
         エドの手の中にあるしおりに、ロイは嬉しそうな顔をすると、
         未だ自分の手の中にある指輪を箱から取り出すと、ゆっくりと
         エドの左の薬指に嵌める。
         「これからは、ずっと一緒だ。」
         ロイは幸せそうに嵌められた婚約指輪に口付けた。






                                              






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やっとくっついてくれました。一時はどうなることかと・・・・・・。
ただ単に、四葉のクローバーをプロポーズに使いたくって、
書いたのですが、こんなに話が長くなるなんて、思ってみませんでした。
次はいよいよエピローグ。フェリシアちゃん誕生のお話です。
某大佐シリーズに負けないくらいの馬鹿ップルになるか!?
大佐、暴走しそう・・・・・。

感想を頂けると、嬉しいです。