LOVE'S PHILOSOPHY 【お子様編】

     ロイ・マスタングの野望
           〜ぼくらの七日間戦争〜

         第1話     台風上陸

            

 

       「ん・・・・。エディ・・・?」
       鳥の囀りで目覚めたロイは、手探りで、横で寝ている最愛の妻の
       姿を求めて、手を伸ばすが、空しくシーツを叩くだけに終わった。
       「・・・・もう起きたのか・・・・。」
       ロイは不服そうな顔でベットから起き上がると、サイドテーブルに
       置いてある、目覚まし時計に眼を向けた。
       時刻は午前7時36分。普段のロイならば、とっくに起きている時間
       なのだが、今日から、一週間の有休を、有能で鬼のように非情な
       副官に土下座してまで勝ち取ったのだ。もう少しゆっくりとして
       いたい気持ちはあったが、肝心の妻の姿がなければ、それは
       意味がない。
       「そろそろ起きるか・・・・。」
       今頃は、エドワードが朝食の準備をしている頃だろう。そして、
       可愛い子供達も、一緒にお手伝いをしているに違いない。
       その事を想像するだけで、ロイの心に温かい光が満ちてくる。
       「・・・・・幸せだ。」
       愛する妻と子ども達のいる生活。まさか、自分がこのように
       穏やかな日々が過ごせるとは、思いもよらなかった。
       「全て、エディのお陰だ・・・。」
       そう思うと、一刻も早く愛する家族を抱きしめたく思い、慌てて
       身支度を整える。漸く取れた休みを、家族サービスに当てようと、
       頭の中で様々な計画を立てるロイは、幸せそのものと言った
       穏やかな笑みを浮かべていた。だが、その幸せは、一通の手紙
       によって、壊される事になる。
       「そうだな。朝食を食べ終わったら、久し振りにみんなで公園に
       でも行くか・・・・。」
       ニコニコしながら、洋服に着替え終えたロイは、寝室を出て行こうとして、
       ふとサイドテーブルに置かれた一通の手紙に気づいた。
       「ん?手紙?」
       何故、書斎ではなく、寝室に置かれたのか気になって、ロイは手紙を
       手に取る。差出人の名前を見て、ロイは慌てて封を開けると、手紙を
       読み始めた。
       「なっ!!」
       だんだんと読み進めていく内に、ロイの表情に驚愕が走る。
       「エディ!!フェリシア!!レオン!!」
       全てを読み終えると、ロイは愛する家族の名前を呼びながら、
       慌てて寝室を飛び出していった。
       「フェリシア!!レオン!!」
       「あっ!パパだ〜!!」
       「おはよう〜!パパ〜!!」
       ロイがダイニングへと慌てて駆け込むと、テーブルの上に
       お皿を並べていたフェリシアと、そんな姉の後ろにくっついて、
       テーブルの上にナイフとフォークを並べていたレオンの2人は、
       ロイに気づき、満面の笑みを浮かべて、トテトテと駆け出して、
       ロイに抱きついた。
       「ああ。おはよう。フェリシア、レオン。」
       ロイは片膝をつくと、抱きついてくるフェリシアとレオンの2人を抱きしめ、
       頬におはようのキスをする。
       「どうしたんだよ。朝っぱらから・・・・・。」
       騒ぎを聞きつけたエドが、手にサラダを持って、キッチンから出てきた。
       だが、ロイは幾分青ざめた顔でフェリシアとレオンの2人を抱き抱えると、
       エドに向かって言った。
       「エディ!急いでこの家から離れるぞ!!」
       「はぁ!?何で?朝食は!?」
       折角作ったのに・・・と、悲しそうな顔をするエドに、ズキリとロイの胸が
       痛む。
       「す・・・すまない。だが、時間がないんだ!早くしないと・・・・・・。」
       何とかエドの機嫌を直そうと、エドに近づいたロイは、その後ろにいる
       人物に気づくと、表情を固くさせた。
       「全く、朝から騒がしいわね・・・・。一体、どうしたっていうの?ロイ。」
       妖艶に微笑むその女性に、ロイは一瞬殺意が芽生えた。
       「・・・・何でここにいるのですか。母さん・・・・・。」
       「あら?手紙に書いてあったでしょう?今日、ここに来るって。」
       全く、もう老人ボケなの?いやあねぇ、年寄りって。と、コロコロ
       笑いながら、ロイの母親である、ソフィアは、湯気が立っている
       コンソメスープを、テーブルに置いた。
       「・・・・何時からいるんですか・・・・。」
       確かに、手紙には今日来るとは書いてあったが、流石に時間までは
       書かれていなかった。だから、母が来る前に一家で逃げようと思った
       のだが、敵の方が一枚も二枚も上手である。流石に母親だけあって、
       ロイの行動は全てお見通しであった。早朝奇襲と言う荒業を
       やってのけたのある。
       「そりゃあ、一刻も早く可愛い嫁と孫達に会いたかったんですもの〜。
       居ても立っても居られなくって、7時に来たのよ。折角だから、可愛い
       嫁や孫達と一緒に朝食を食べようと思って。」
       フフフと不敵な笑みを浮かべながら、ロイに挑むような視線を向ける。
       ”なにが、折角だからだ・・・・。最初から計画していたくせに・・・・。”
       だが、ロイも負けてはいない。ここで負けたら、愛する家族はこの
       目の前の若作りババアのものになる!そう判断したロイは、
       母親と対決すべく、抱いたままのフェリシアとレオンを席に着かせると、
       じっと母親を凝視した。
       「そうですか。長旅でお疲れでしょう。母さんは、食事が終わったら、
       直ぐに休んでください。ああ、子供達が煩いでしょうから、私達は
       その間、外へ出ていましょう。
     お1人で、ゆっくりとお休み下さい。

       その言葉に、ソフィアの眉が跳ね上がる。
       「あら?私はちーっとも、疲れていませんよ。それに、可愛い
       フェリシアとレオンが煩いですってぇ?そんな事はありません!
       流石は、エドワードちゃんの子ども。本当に思いやりのある
       優しい子供達に育っているわ。騒ぐなんてとんでもない!!
       そんな事も判らないようでは、父親失格ね。ロイ?」
       「誰もそんな事を言っていないでしょう!!私のフェリシアとレオンが
       世界で一番優れた子供達であるのは、私が一番良く知っています!
       ただ、私は母さんが子供達に遠慮して、休みたくても休めないのでは
       と、思っただけですよ。」
       他意はありませんと、にっこりと微笑むロイだったが、内心、チッと
       舌打ちした。
       「・・・・あの・・・。折角の食事が冷めちゃうけど?」
       ソフィアとロイの険悪な雰囲気がわからず、エドはキョトンと首を傾げる。
       「ああ!そうだったわね。エドワードちゃんが折角私の為に
       作ってくれた食事を冷ましてしまうなんて・・・ごめんなさいね。」
       「ああ、すまない。エディ。君が私と子供達の為だけに
       作ってくれる美味しい食事を冷ましてしまうところだった。でも、君の食事は、
       例え冷めても美味しいよ。エディ。」
       我先にエドに詰め寄るように言った後、横目でお互いの顔を睨みつける。
       「そ・・・そう・・・?じゃ・・・じゃあ、食べようか・・・?」
       ロイとソフィアの鬼気迫る様子に、エドは引きつった笑みを浮かべた。




       朝食は、和やかな雰囲気で行われた。もっとも、一部大荒れ警報が
       出ていたが。
       「本当に、エドワードちゃんの食事は美味しいわ〜。」
       ニコニコとエドに微笑みかけるソフィアに、エドも真っ赤になりながら、
       微笑みかける。
       「でも、お義母さんの方が美味しい!俺、このスープ好き!!」
       幸せそうにソフィアの作ったスープに舌鼓を打っているエドに、ソフィアは
       蕩けるような笑みを浮かべる。
       「そう!気に入ってもらえて嬉しいわ。そうだ!後で一緒に買い物に
       行きましょう!そして、お昼は外で頂きましょうね!夕飯はまた一緒に
       ご飯を作る!ああ、夢のような一週間になりそうね〜。」
       1人ではしゃぐソフィアに、ロイは驚いて、叫んだ。
       「一週間!!」
       ソフィアは、嫌そうな顔をロイに向ける。
       「ロイ、食事中に騒がないの。でね、エドワードちゃん・・・・。」
       再びエドに話しかけるソフィアに、ロイは慌てて言った。
       「ちょ・・・ちょっと待ってください!一週間って・・・・。」
       「あら?手紙に書いたでしょう?」
       心外だと言わんばかりのソフィアに、ロイはこめかみをピクピク引きつらせ
       ながら言った。
       「手紙には、数日としか、書かれていませんでしたが・・・・。」
       「あら?そうだったかしら。いいじゃない、別に。」
       すっとぼける母親に、ロイの怒りが爆発する。
       「冗談じゃない!一週間も居座られて溜まるか!!第一、父さんを
       一週間も放っておいて・・・・・。」
       「何言っているの?父さんなら、そこにいるでしょ。」
       ソフィアの視線の先に、いつの間にいたのか、父親のロバートが、
       ニコ二コと笑いながら、コーヒーを飲んでいた。そして、その傍らには、
       いつのまにかエドワードがいて、ロバートにコーヒーを注いでいた。
       「ああ。ありがとう。エドワード。」
       にっこりと微笑むロバートに、エドもにっこりと微笑み返す。まるで、そこだけ
       春の日差しを受けたように、ポカポカとほのぼのとした雰囲気を醸し出して
       いた。
       「・・・・父さん、相変わらず存在感がない・・・・。」
       昔から、母親の存在感が強烈過ぎるのか、父親の存在をついつい
       忘れてしまうロイだった。
       「そうだ!お義父さんの好きなお菓子ってなんですか?お義母さんと
       明日のお茶会に出すお菓子を作ろうと思うんですけど・・・・。」
       エドの言葉に、ロイは反応する。
       「お茶会?何のことだい?エディ。」
       「ん?あれ?ロイに言っていなかったっけ?明日ホークアイ中佐が遊びに
       来るから・・・・・・。」
       「なっ!!聞いていないぞ!私は!!」
       驚くロイに、ソフィアがにっこりと微笑む。
       「私がお招きしたのよ。いっつもロイが迷惑をかけているって言うし、それに、
       情報提供のお礼を兼ねてね。」
       その言葉に、ロイは何故ホークアイが一週間の有休を取る事を許可したのか、
       漸くわかった。要するに、ソフィアをここに呼び寄せたのは、ホークアイの
       陰謀だったのだ。一週間エドと子供達を独占させない為の。
       「ロイ・・・・。嫌だった・・・・?」
       シュンとなるエドに気づき、ロイは慌てて首を横に振った。
       「そうじゃない。そうじゃないんだ。エディ。ただ、私だけ知らなかったから、
       ちょっと悲しかっただけなんだよ。」
       「・・・・ごめんなさい。」
       ギュッとロイの首にしがみ付くエドを、ロイは嬉しそうに抱きしめる。
       「ささ、エドワードちゃん!早く朝食を食べましょう!時間が勿体無いわ。」
       熱い抱擁を交わす若夫婦を見て、ソフィアは、エドをロイから引き離す。
       「・・・・・負けませんよ。母さん。」
       こうして、一週間にも及ぶエドワード&子供達争奪戦は、始まったのである。

       

  

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ロイの父親のロバートさんが初登場。しかし、存在感がありません。
性格はすごく穏やかな人です。ソフィアさんの存在感が強烈すぎて、存在が
掠れてしまいますが、全てを包み込むような大きな包容力がある人だと思ってください。