LOVE'S PHILOSOPHY 【お子様編】

     ロイ・マスタングの野望
           〜ぼくらの七日間戦争〜

         第4話  台風の目 

 

        「はい。アーンして。ロイ。」
        フウフウとお粥を醒ましながら、エドはニッコリとロイにスプーンを向ける。
        ロイはニコニコと笑いながら、大きく口を開けると、エドはゆっくりとロイの
        口の中にお粥を流し込む。
        「うまいか?」
        「もちろんだよ。エディ。本当に君は料理がうまい。私は幸せも者だな。」
        ロイの台詞に、エドは真っ赤になると、照れ隠しに、食べ終わった食器を
        片付けると、慌てて立ち上がろうとした。
        「エディ。まだ足りないよ。」
        「へっ!?じゃあ、もう少しお粥を持ってこようか?それとも、デザートが
        いい?」
        デザート、何があったかな・・・と、考え込むエドに、ロイはニヤリと笑うと
        エドの腕を取って、自分の方へと引っ張る。
        「ちょ!!ロイ!!」
        慌ててロイの腕の中から逃れようとするが、それよりも先に、ロイは
        エドに深く口付ける。
        「んんっ!!」
        まるで息すらも奪うような激しい口付けに、エドは眩暈がして、ロイの
        胸に凭れかかる。
        「ご馳走様。エディ。美味しいデザートだった。」
        名残惜しげに、ペロリと唇を一舐めすると、ロイは上機嫌な笑みを浮かべる。
        「この!馬鹿!!もう知らない!!」
        エドはポカリとロイの頭を殴ると、真っ赤な顔で慌てて部屋を飛び出していった。
        「全く・・・いつまでたってもかわいいね・・・。エディ・・・・・。」
        ロイはクスクス笑うと、ベットに潜り込んだ。





        ロイとエドがイチャついている頃、中央司令部では、ちょっとした人事異動が
        あった。
        「本日付で、こちらの部署に配属になりました、クロード・グリーンウッド少尉で
        あります!宜しくご指導をお願いします!!」
        背筋をピンと伸ばして敬礼する人物は、まだ少年の域を脱していない顔立ちを
        しており、着任早々、軍の半数以下の女性達に、弟にしたい!などと
        騒がれるくらいに、ロイと張る美貌の持ち主であった。
        「楽にしていいわよ。グリーンウッド少尉。さて、本来ならば、この部署の責任者の
        ロイ・マスタング中将に目通りをするはずだけど、生憎中将は、有休休暇中なの。
        駄々さえこねなければ、4日後くらいには、出勤してくるから、その時に、紹介するわね。」
        ホークアイの言葉に、クロードは、眉を顰める。
        「・・・・駄々?」
        「そのうち、嫌でも分かるわ。さて、隣の部屋へ行って、ジャスミン少尉から引継ぎを
        しなさい。」
        「イエッサー!失礼します。ホークアイ中佐。」
        敬礼をして、退出するクロードをチラリと見ながら、ハボックは、ホークアイに話しかける。
        「あれが【例の】ですか?」
        「ええ。そうよ。」
        頭が痛いわと、ホークアイは溜息をつく。
        「クロード・グーリンウッド少尉。年は19歳。名門、グリーンウッド家の長男。黒目黒髪の
        甘いマスクに、女性の人気がすこぶる高く、マスタング中将の若い頃よりも、女性関係が
        派手である。今回、大総統直々に面倒を見ろと言われて、本日付けで我が部署に配属。」
        ホークアイは書類を読むように、スラスラとクロードについての情報を口にする。
        「なんだって、【ここ】なんッスか?グリーンウッド家の人間なら、ここではなく、もっと
        楽な部署じゃないッスか?中将への嫌がらせですかねぇ・・・・。」
        ハボックの言葉に、ホークアイは溜息をつく。
        「嫌がらせというより、ただ単に面白がっているのよ。大総統は。若い頃、女性関係が
        派手だった中将の元へに配属になれば、少しは落ち着いた人間になると、グリーンウッド
        少尉のご両親が大総統に直談判したらしいわ。」
        中将が大人しくなったのは、エドワードに出会ったからで、決して歳とともに落ち着いた
        訳ではないのだ。
        「幸せな誤解をしてますね・・・・。」
        サボり魔のロイと遊び人のクロード。ホークアイの苦労が二倍に増え、自分にも
        火の粉が降りかかってくることが容易に想像できて、ハボックはガックリと肩を
        落とした。
        「・・・・・・これからは、常に2丁の拳銃を携帯しようかしら・・・・。」
        ロイ用とクロード用にと、ホークアイは溜息をついた。







        べチッといきなり顔に冷たいビショ濡れのタオルを叩きつけられて、ロイは驚いて
        飛び起きた。
        「あら?起きたのね。」
        残念と言う声に、ロイは顔を引き攣らせる。
        「母さん!タオルはキチンと絞って下さい!!」
        「いやぁあねぇええ、絞ろうと思ったら、ちょっと手が滑っただけじゃない〜。」
        ニコニコと笑うソフィアに、ロイはジトーっと批難の目を向けるが、ハッと我に
        返ると、キョロキョロと部屋の中を見回した。
        「母さん。フェリシアとレオンは?」
        「今日、熱が下がったばかりなのよ。大事を取って、二人とも休ませたわ。」
        その言葉に、ロイはホッとする。
        「それで、エディは?」
        最愛の妻の姿が見えない状況に、ロイは拗ねたように言う。
        「エドワードちゃんなら、どっかの馬鹿が風邪引いたから、薬を貰いに行って
        いるわ。」
        「そうか・・・・。では、帰ったらすぐに私の所に来るようにと・・・・。」
        ロイの言葉に、ソフィアは呆れた顔をする。
        「全く!いつからあんたはそんなに赤ん坊になってしまったのかしら・・・。」
        「エディ限定です。」
        しれっと言うロイに、ソフィアはガックリと肩を落とした。
        「やっぱ、育て方を間違えたわ・・・・。」
        「そうでもないですよ。母さんには感謝してます。」
        クスリと笑うロイに、ソフィアは信じられないものを見たとばかりに、
        呆然となる。
        「ロイ?風邪のウィルスが脳にまで浸透したの!?」
        「・・・失礼な。人が珍しく素直になっているというのに・・・・。」
        憮然となるロイに、ソフィアはクスクス笑う。
        「だって、あなたは、小さい頃から大人ぶって、素直な子ども時代と
        いうものがなかったじゃない。」
        ソフィアは、愛しそうにロイの乱れた前髪を直す。
        「本当に・・・あんなに小さかったロイがこんなに大きくなって・・・。」
        ソフィアはニッコリと微笑むと、そっとロイをベットに寝かしつけた。
        「ロイ、今幸せ?」
        「当然です。これで幸せではないと言うのならば、一体何が幸せと
        言うのでしょうね。」
        「・・・・全て、エドワードちゃんのおかげね。」
        ソフィアの言葉に、ロイは幸せそうな顔をした。
        「エディに出会えて良かった・・・・・。」
        「さて、もう寝なさい。少し熱が上がったのではなくて?エドワードちゃんが
        帰ったら、こちらに来るように言うから、暫く寝ていなさい。」
        「優しいですね。いつもなら、エディを独占するためには、手段を
        選ばない人なのに・・・・。」
        ロイの言葉に、ソフィアは苦笑する。
        「病人相手ではね。流石の私も遠慮するわよ。だから、早く直しなさい。
        わかった?ロイ。」
        こっちの調子まで狂うのよと言うソフィアに、ロイはニヤリと笑う。
        「出来る事なら、エディをずっと独占したいのですがね。」
        「だ〜め〜。私だってエドワードちゃんを独占したいもの。」
        ソフィアはロイの布団を直すと、優しく微笑んだ。
        「さぁ、目が覚めたら、大切なエドワードちゃんがいるからね。暫く
        寝ていなさい・・・・。」
        まるで子守唄のように、優しく母に言われ、ロイはゆっくりと目を閉じた。
        まるで、小さな頃に戻ったかのような感覚に、照れを感じ、頬を赤く染めた
        ロイだったが、暫くすると、静かな寝息が聞こえ、ソフィアはニヤリと笑みを
        浮かべる。
        「フフフ・・・掛かったわね。まだまだ甘いわ。ロイ。」
        ソフィアは、そっとロイを起こさないように、寝室を後にする。
        「さて!邪魔者は寝たし、あとはエドワードちゃん達を独り占め〜♪」
        嬉々として、一階に向かおうとするが、その前に、ギギギ・・・・と、独りでに
        寝室のドアが開く。
        「やはり!エディ達を独り占めする気ですね!母さん!!」
        「何言ってるの!?あなた!エドワードちゃん達に風邪を移す気なの!?
        大人しく寝ていなさい!!」
        ドアから顔を出すロイに気づき、部屋から出さないように、ソフィアはロイの
        身体を押しやる。負けじとロイも寝室から出て行こうとソフィアを押しやろうと
        するが、玄関から聞こえるエドの声に、一瞬気を逸らせたロイは、思わず
        力を抜く。それを見逃さずに、素早くロイを部屋の中に押し込めると、ソフィア
        は、寝室のドアに鍵をかける。
        「母さん!!ここを開けなさい!!」
        ドンドンと扉を叩くロイに、ソフィアはニヤリと笑う。
        「自分が錬金術師だと忘れているほどに、熱があるのだから、暫くそこで
        頭を冷やしていると良いわ。さてっと。私はエドワードちゃんとお茶でも
        飲みましょう!」
        ルンルン気分で階段を下りていく。
        「今日もいい天気ね〜。」
        今日は外でお茶でも飲もうかしら。そんな事を考えて、かなり上機嫌な
        ソフィアだったが、それがただ単に、嵐の前の静けさである事を、彼女は
        まだ知らなかった。

         




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 ロイさん、35歳で、アーンはないと思うのですが・・・・。
 流石、万年新婚馬鹿ップル夫婦の第一位に輝いただけはあります!
 一応、見た目まだ20代後半で通用する容姿というムチャクチャな設定
 だったりします。ご都合主義も、ここまでくると立派ですね。
 今回は、台風の目ということで、平穏(?)な1日をお送りしました。
 そして、次回はオリキャラ君が一騒動を起こしてくれます。