グリーンウッド家では、朝から当主であるリヒャルド・グリーンウッドと
妻のルイーズ・グリーンウッドが、言い争いをしていた。
「一体、何がどうなっているの!!」
「落ち着け。ルイーズ。」
ヒステリックに騒ぎ出すルイーズに、リヒャルドがギロリと睨み
つける。
「あなた!!これが落ち着いていられますか!!
何故クロードがあんな眼に合わなければならないのですか!!」
ルイーズは、夫を睨みつける。
「第一、私はクロードを軍人にする事に、最初から反対だったのです!
それをあなたが、マスタング中将に預ければ、落ち着きのある人間に
なるだろうからって!!」
ルイーズの非難に、リヒャルドは、溜息をつく。
「しかし、上官不敬罪とは・・・・・。クロードの奴は何て事を
したのだ!!」
頭を抱える夫に、ルイーズは、さらに眦を吊り上げる。
「あなた!クロードが悪いのではありません!!きっと、その中将の
妻が、クロードを誘惑したのです!子どもが2人もいるくせに、
若い男に現を抜かす、その女がいけないのですわ!!」
興奮するルイーズは、部屋の中を歩き回った。
「私の可愛いクロードを傷つけた女に、一体どういう報復をしようかしら。」
その言葉に、リヒャルドは青くなる。
「おい!滅多な事はするな!中将夫人は、大総統のお気に入りだ。
今回の事で、特に大総統から厳重注意を受けたのだぞ!下手をすれば、
グリーンウッド家は!!」
「うるさいわね!!何よ。婿養子のくせに、私に意見するつもり!?」
ルイーズの言葉に、リヒャルドは、グッと唇を噛み締める。
「全く、人の顔色を伺う事しかできないくせに。」
馬鹿にしたように笑うルイーズに、リヒャルドの目が冷たく光る。
「そういうお前は、一体、何が出来るというんだ?」
「そうねぇ・・・・・・。」
まるで肉食獣のような目で、ルイーズはチロリとリヒャルドを見ると、
ニヤリと笑う。その視線に、リヒャルドの背筋が凍る。
「・・・・その事について、私に良い案がありますわ。伯母様。」
ノックと共に現れたのは、少しウェーブ掛かった長い髪を一つに
一つに束ねた美女で、ルイーズと同じように挑発的な笑みを浮かべて
いる。
「まぁ!ステラじゃない!いつこちらへ?」
ルイーズは、姪のステラに気づくと、嬉しそうに近寄ると、頬にキスをする。
「一昨日ですわ。伯母様。ところで、クロードの事を聞きました。あの優しい
クロードが大変な陰謀に巻き込まれたとか・・・・・。」
ステラの言葉に、ルイーズは大きく頷く。
「ええ。あのどこの馬の骨とも知れないマスタング中将夫人よ!!
あの小娘が、マスタング中将にも飽き足らず、大総統にまで取り入って、
私のクロードを!!」
興奮するルイーズを、ステラは優しく抱きしめる。
「ええ。私も色々と噂を耳にしますわ。もともと田舎娘が、中将夫人、ましてや
大総統に取り入るなんて、きっと身体を使ったに決まっていますわ。そんな
人間に、こちらが正当な事を言っても、勝ち目はありませんわ。だから・・・・。」
そっと耳元で囁かれるステラの言葉に、流石のルイーズも青くなる。
「でも!それは!!」
「あら、こちらは、クロードを傷つけられたのですわ。これくらい当然ですわ。」
「そ・・・そうかしら・・・・。」
戸惑うルイーズに、ステラはにっこりと微笑んだ。
「伯母様。全てはクロードの為ですわ。」
ステラの言葉に、ルイーズがハッとすると、大きく頷いた。
「ママ!!ママ!!」
友達と公園に遊びに行ったフェリシアが、ものの30分と経たない時間に、
息を切らせながら、家に帰ると必死でエドを探す。
「どうしたんだね!フェリシア!!」
尋常でない様子の愛娘の様子に、レオンを抱き上げたまま、ロイが
慌てて飛び出してくる。それに少し遅れて、キッチンからソフィアが
お玉を片手に飛び出してきた。
「フェリシア!?何があったの!!」
「パパ〜。お祖母ちゃま〜。」
父親と祖母の顔を見た途端、フェリシアは、大きな声で泣き出した。
ロイは、レオンを慌てて床に下ろすと、泣いているフェリシアを抱きしめる。
「どうしたんだい?泣いているだけでは判らないよ?」
ロイの言葉に、フェリシアは、ママは?と繰り返す。
「ママなら、買い物に行くと・・・・・・。」
ロイの言葉に、フェリシアは、火がついたように、泣き出した。
「ママ、もう帰って来ないの?フェリシアとレオンは、もうパパの子ども
じゃないの?」
その言葉に、ロイは慌ててフェリシアの顔を覗き込む。
「誰がそんな馬鹿な事を!?」
怒鳴るロイに、自分が怒られたのかと勘違いしたフェリシアは、ますます
声を枯らして泣き出す。
「もう!ロイ!!フェリシアが可哀想でしょう!!」
見かねたソフィアは、ロイからフェリシアを引き離すと、優しくフェリシアを
抱きしめた。
「フェリシア?誰に何を言われたのか、お祖母ちゃまに言えるわね?」
優しく頭を撫でられて、フェリシアは、コクンと頷くと、先程の出来事に
ついて、ひゃっくりと上げながら、フェリシアはポツリと話し始める。
「あの・・ね・・・。ヒック。公園でね・・・・・。っく・・・友達とね・・・・
遊んで・・・たの・・・・。そしたら、知らないオバちゃんが来たの。」
エグエグと泣きながらも、フェリシアは、何とか伝えようと、一生懸命に
話す。
「そしたらね・・・そのオバちゃんがね・・・えっえっ・・・ヒック・・・。
パパが・・・フェリシアと・・・・レオンの事嫌いになったって・・・・。
だから、もうパパの子どもじゃないのって・・・・・・。」
その事を思い出したのか、フェリシアは、さらに涙を流す。そんなフェリシアを
ロイはソフィアを押しのけると、きつく抱きしめた。
「フェリシアとレオンは、パパの子だ。誰が何と言おうと、絶対に
離さない!!」
「えっえっ・・・・パパ〜!!」
ロイの首に抱きついて、フェリシアは大声で泣き出す。それに釣られる
形でレオンも泣き出した為、ロイはさらにレオンも抱きしめた。
「でも・・・ママが・・・ママが・・・・・。」
暫くして、少し落ち着いたフェリシアが、心配そうな顔でロイを見上げた。
「ん?ママかい?もう直ぐ帰ってくるよ?」
ロイの言葉にも、フェリシアは、不安そうな顔でじっと玄関を凝視している。
その様子に、嫌な予感を覚えたロイは、フェリシアに、優しく尋ねた。
「他に、そのオバちゃんは、何か言っていなかったかい?」
「うんと・・・ね・・・。オバちゃんが、フェリシアとレオンがパパの子じゃないって
言うから、嘘よ!!って言ったの。そしたら、オバちゃんが、嘘だと
思うなら、おうちへ帰りなさい。ママはいないからって・・・・・・。」
再び涙を溜めるフェリシアに、ロイはきつく抱きしめると、ギリリと唇を
噛み締める。大切な我が子を傷つけた人間は、絶対に許さないと、
眼は虚空を睨みつける。
「フェリシア、そのオバちゃんは、どんな顔してた?」
ロイの言葉に、フェリシアは、コクンと首を斜めにして、思い出そうとする。
「うんとね・・・・。怖い顔。」
「じゃあ、髪は?」
「パパと同じ色〜。でも、長くて、ちょっとふわふわしてるの。」
「他に何か気づいたことは?」
真剣な表情のロイに、フェリシアは、考えながら言った。
「オバちゃんって言ったら、叩かれたの〜。」
「何!!どこだ!どこを叩かれたんだい!!」
驚くロイに、フェリシアは、頬に手を当てた。
「ここ〜。パチンって・・・・痛かった。」
シュンとなるフェリシアに、ロイは優しく頬を撫でる。
良く見ると、フェリシアの頬が赤く腫れていた。
「可哀想に・・・・。痛かっただろ?」
もう大丈夫だよと、優しく抱きしめるロイに、フェリシアは、ロイの
服をギュッと握った。
「そしたらね、オバちゃんが、ステラ・グリーンウッドって言ったの。」
「ステラ・グリーンウッドだと?」
驚くロイに、フェリシアはコクンと頷いた。
「・・・母さん。子供達をお願いします。それから、エディが戻ってきたら、
家から一歩も出ないように言ってください。」
ゴゴゴゴ・・・・・と、背中に焔を背負ったロイが、ゆらりと立ち上がる。
「ロイ。こんな小さな子を傷つけるような事を言って、あまつさえ、
手を上げるなんて非常識な人間は、絶対に許してはいけないわ。」
対するソフィアも、可愛い孫が傷つけられた怒りに、ロイに負けず劣らずに
背中に焔を背負う。
「では、二度とこんな馬鹿な事を起こさないように、制裁を与えに行って
来ます。」
ロイは発火布を右手に装着すると、玄関を出ようとした時、荒々しく
ハボックが扉を開けて入ってきた。
「大変です!!エドが誘拐されました!!」
「何だと!!」
ロイの顔から表情が消えた。
時折吹く風が、優しくカーテンを揺らしている。
少し陽が傾きかけた部屋の中央に置かれた天蓋付きのベットの
中に、夕日を受けて、黄金に輝く髪が覗く。
「エドワードさん・・・・・。」
カーテンの向こうのベットに横たわるエドを、クロードは、夢見る表情で
じっと見つめていた。
********************************
フェリシアちゃんごめんよぉぉぉぉぉ!!と心の中で謝る上杉です。
幼児虐待はいけません!!やはり、悪い事をした人間には、それ相当の
いえ、それ以上の報復を与えなければ!と言う事で、次回はロイさん
大活躍!!・・・・になるといいなぁ・・・・。どうだろう。うちのロイさんは、
究極のヘタレだから・・・・・・。