LOVE'S PHILOSOPHYシリーズ

          ロイ・マスタングの野望 〜宿命の対決〜
 

                              第1話



        ピーンポーン
        ある麗らかな春の日の午後。
        思わずコックリコックリと転寝したくなる長閑な日差しの中、
        生まれたばかりの我が子フェリシアを腕に抱きながら、ソファーで寛いでいた
        エドワードは、チャイムの音に慌てて腰を浮かせた。
        「ああ!エディはここにいなさい。私が出よう。」
        何とか優秀なる副官から有給をもぎ取って、朝から愛妻と愛娘の傍にベッタリと
        張り付いていたロイは、チュッと軽くエドの頬にキスを送ると、ゆっくりとソファーから
        立ち上がる。

        ピーンポーン

        ピーンポーン

        ピンポーン
        ピンポーン
        ピンポーン

        ピンポン
        ピンポン
        ピンポン
        ピンポンピンポンピンポンピンポン・・・・・・(以下エンドレス)


        最初は普通の間隔で鳴らされていたチャイムだったが、なかなか出てこない事に、
        苛立ったのか、ロイが玄関の前に立った時には、超高速連打となっていた。
        そのことに、ロイの眉間の皺がグッと深まる。
        愛妻と愛娘との至福の時間を邪魔された事への苛立ちに加え、さっさと出て来いとばかりの
        傲慢なチャイムの鳴らし方に、ロイの機嫌は、現在地底深くにまで下がっている。
        「・・・・たく!ここをロイ・マスタングの家と知っての狼藉か!!」
        問答無用に、さっさと相手を消し炭にして、エド達の元へ戻ろうと、(良い子の皆さんは真似しては
        いけません。)発火布の手袋を翳しながら、ロイは勢い良く玄関の扉を開けたが、直ぐに扉を閉めて
        鍵をガチャリと掛ける。
        「ちょっ!!ロイ!!何するの!!さっさとここを開けなさい!!」
        ガンガンガンと扉を叩く音と共に聞こえる声に、ロイは青ざめた顔でその場に立ち尽くす。
        「ありえん・・・。あってはならないことだ・・・・。」
        ふう〜と首を振りながら肩を竦ませると、ロイは私は何も見なかったと、ブツブツ呟きながら、踵を返す。
        すると、目の前にいる、オズオズとした様子で自分を見つめるエドの姿に気づいた。
        「エディ・・・・。」
        「ロイ?一体、何の騒ぎなんだ?」
        ガンガンと扉を叩く音に、エドは困惑したようにロイを見る。
        エドの腕の中のフェリシアも、異常な気配を感じたのか、若干強張った顔で、ジッとロイを見つめていた。
        「エドちゃん!?エドちゃんなの!?私よ!私!!」
        エドが傍に来たことに気づいたのか、扉の向こうでは、嬉々とした声が聞こえた。
        「え!?この声って、お義母さん!?」
        扉の向こうから聞こえる声が、ロイの母親であるソフィアだと気づいたエドは、驚きに声を上げる。
        「そうなのよ!!エドちゃん!ここを開〜け〜て〜!!」
        「ちょっと待ってて下さい!今直ぐに開けます!!」
        ホッと安堵の声を漏らすソフィアに、驚いて扉に駆け寄ろうとしたエドの体を、ロイは受け止めた。
        「ちょっ!!ロイ!何してるんだ!お義母さんが!!」
        ムーッとした顔でロイを睨むエドに、ロイはニッコリと微笑む。
        「エディ。あれは今流行の【オレオレ詐欺】だ。
        危ないから、二人は家の奥に避難しなさい。」
        「何、馬鹿な事言ってるんだ!!すみません!お義母さん!!今開けます!!」
        訳の分からない事を言い出すロイに、痺れを切らせたエドは、ポカリとロイの頭を叩くと、
        慌てて玄関の鍵を開ける。
        「ああ!!エディ!!何て恐ろしいことを!!」
        絶叫するロイを無視して、エドが満面の笑みを浮かべながら扉を開けたと同時に、
        何者かに抱きしめられた。
        「エドちゃん!!会いたかったわ!!」
        「お義母さん!!」
        ビシッと抱きしめあう二人だったが、次の瞬間には、ロイによってエドは引き離される。
        「ロイ・・・・。一体何のまね?」
        折角のエドとの感動の再会を邪魔され、ムッと自分を睨みつける母親に、ロイも負けじと
        目を細める。
        「・・・・・懲りない人ですねぇ。あなたは。何度だって、ここから叩きだしてあげますよ。」
        「出来るものなら、やってご覧なさい。」
        バチバチバチ・・・・。
        不敵な笑みを浮かべながら、親子は火花を散らし始めた。