LOVE'S PHILOSOPHYシリーズ

          ロイ・マスタングの野望 〜宿命の対決〜
 

                      第8話


   
   「それでは、俺はこれで!」
   ビシッと敬礼すると、ハボックは踵を返した。
   「待て。ハボック。」
   「グエッ!!」
   ロイに思いっきり襟首を掴まれ、ハボックはカエルが潰れたような声を出す。
   「何すんですかぁあああ!!」
   ゲホゲホと咳き込むハボックに、ロイはにこやかな胡散臭い笑みを浮かべる。
   「司令部に戻るついでに、任務をやろう。あいつら達を、駅まで送り届けろ。」
   クイッと親指で指し示す方向を見ると、先ほどの門の所にいた二人連れ。
   「はぁ?准将のお客・・・・。」
   「ではないな。いいから、さっさと捨てて来い!!
   不審な顔のハボックに、ロイは発火布の手袋を翳しながら、睨みつける。
   「ひっどいなぁ〜。ロイ君。捨てて来いなんて。犬や猫じゃあるまいし。
   第一、君と僕との仲じゃないか〜。最後にあった、あの日の事
   を忘れてしまったのかい?僕は一日たりとも忘れていないのに。」
   ロイとハボックの間に飄々とした顔で若い方の男が入り込むと、
   ロイに向かってニッコリと微笑む。
   「何の事を言っているのか私は知らんな。いいから、ハボック。
   こいつらを駅まで連れて行け!」
   ギロリとハボックを睨みつけるロイに、男は肩を竦ませる。
   「まだ怒っているのかい?君も案外心が狭いね。親愛なる従兄弟殿に、
   ちょっとした御茶目な悪戯じゃないか。」
   「ほほう?ちょっとしたと言ったか?マーチ?」
   男・・・・マーチの言葉に、ロイのピクリと反応する。
   「うん!ちょっとしただよ?まさか、国家錬金術師でもあり、国軍准将でもある、
   ああ、あの時はまだ少佐だったっけ。とにかく、軍人の君が、ど素人が作った
   罠に嵌るなんて、思ってもみなかったからさ♪」
   「あれのどこが!!屋敷を半壊したくせに!!」
   激昂するロイに、マーチはキョトンと首を傾げた。
   「そーだっけ?確かに罠を仕掛けたのは僕だけど、抜け出そうとして屋敷を半壊
   させたのは、君だろ?嫌だなぁ。もうボケが始まったのかい?」
   良い医者を紹介しようか?とニコニコと嬉しそうに笑うマーチに、
   ロイはため息をつくと、クルリと背を向ける。
   昔からこの従兄弟に関わると碌な目に合わない。
   これ以上相手をしてはいられないとばかりに、さっさと家の中に入ろうとした。
   「とにかく、私は忙しい。二人ともさっさと帰れ。」
   「逃げるなよ。・・・・・逃げれば・・・・斬る。」
   いつの間にか真剣な表情になったマーチは、どこに隠し持っていたのか、
   サーベルを抜いて、ロイの背中に突き付けていた。
   「フッ。相手を良くみるんだな。何故私が背を向けたと思っている?」
   「?」
   余裕のロイに、マーチは訳が分からず眉を寄せたが、次の瞬間、ハボックが
   自分の米神に銃を突き付けている事に気づいた。
   「・・・・なるほどね。伊達に側近を名乗ってないって?」
   ハボックに向かって、ニヤリと笑うマーチは、サーベルを鞘に納めると、
   肩を竦ませる。
   「チェッ。ロイ君、余裕で面白くないなぁ。また慌てふためく顔が見れると思った
   のに。」
   「・・・・・ハボック。時間は。」
   「08時48分です。」
   未だマーチに銃を突き付けたままのハボックは、時計を見ながらロイの質問に
   答える。
   「・・・・・?ロイ君?」
   自分を無視するロイに、マーチは眉を潜める。
   「よし!ロイ・マスタング准将暗殺未遂容疑者だ。連行しろ。」
   「イエッサー!!」
   ビシッと敬礼すると、ハボックは、マーチの腕を掴む。
   「ロイ君。君、ジョークが分からないの?第一、僕は・・・・。」
   「例え、貴様がどんな立場であれ、やった事の責任は取ってもらおうか。
   それが、次期当主と言われる者なら、猶更自分の行動には責任を
   持たなければならない。」
   冷たい視線でマーチを見据えるロイに、マーチは不敵な笑みを浮かべる。
   「ふ〜ん。なるほどねぇ〜。だから君はエドちゃんに責任を取ったんだね?」
   「!!」
   サッと顔を青ざめるロイと静かな怒りを向けるマーチの、一触即発の事態に、
   それまで、事の成り行きを静かに見つめていた老人が、深いため息をつきながら、
   二人の傍に近づいてきた。
   「いい加減にせんか!!
 二人とも!!

   老人とは思えない、張りのある力強い一喝に、ロイとマーチはもとよりハボックも
   居住まいを正す。
   「・・・・・・久しいな。ロイ。」
   厳めしい表情でロイを見据えた老人の言葉に、ロイは渋々頭を下げる。
   「ご無沙汰しております。お祖父さん。」
   「・・・・・次期当主としての心構えは立派だ。流石は、マスタング家の次期当主と
   言ったところか。だが・・・・。」
   そこで言葉を切ると、先ほどまで矍鑠とした態度を取っていたくせに、急にゴホゴホと
   咳き込み始める。
   「こんな寒空の中、病弱な老人を長い間、立たせるなど、人間としてどうかと
   思うのだが、お前はどう思う?次期当主たるもの、常に相手に気を配る事も大事だ。」
   “病弱!?どこに病弱な老人が!?病だって裸足で逃げ出す老人なら目の前に
   いるが!”
   そんな事を心の中で、思いっきり罵倒するも、ロイは表面上は穏やかに微笑む。
   「ご謙遜を。当主たるもの、常に自身の健康管理には気をつけよというのが、
   ヘイルウッド家の家訓だったと記憶しておりますが。」
   ロイの言葉に、フッと憂いを帯びた目を向ける。
   「いくら健康に気を付けていても、死期というのは、どうにもならんのだ・・・。
   だが・・・・せめて、せめて、ひ孫を抱くまでは!!ゲホゲホゲホ!!」
   「お祖父様!!」
   芝居がかった老人の言葉に合わせるように、マーチが縋り付く。
   「ご安心を!必ずこの僕がお祖父様の願いを叶えてみせます!!」
   「おお!!マーチ!!」
   老人とガシッと抱きしめ合うと、マーチは顔をロイに向ける。
   「と、いう訳で、ロイ君。僕の花嫁は一体どこに・・・あれ?」
   ふと気が付くと、そこには自分達だけで、肝心のロイはもとより、ハボックの
   姿さえなかった。



   ガンガンガンガン
   容赦なく扉を叩く音に、ハボックは呆れたようにロイを見る。
   「で?一体何なんですか?親戚なんでしょう?」
   いいんですか?と言うハボックに、ロイは肩を竦ませる。
   「ああ、ヘイルウッド家の前当主のステファン・ヘイルウッドとその孫の
   マーチ・ヘイルウッドだ。当主の座を息子に譲って、よっぽど暇らしいな。
   彼は孫と漫才コンビを結成したようだ。彼らの暇つぶしに付き合う
   義理はない。さて、私はエディの所に戻る。お前はあの二人が
   妙な事をしないように、ここで見張っていろ。絶対に家に入れるなよ。」
   「ひどいッスよ!!准将〜!!」
   さっさと二階に上がっていくロイに、ハボックの悲壮な声が響き渡った。
   
   
   

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