ロイ・マスタングの野望 〜宿命の対決〜
第9話
「なぁに?随分と騒がしかったようだけど?」
2階に上がったロイは、階段を上りきった所で、部屋から出てきた
ソフィアと鉢合わせになった。
「ああ、暇にあかせて結成した祖父と孫の漫才コンビが来たので、
追っ払っただけですよ。」
にっこりと微笑むロイに、ソフィアは状況を察すると、眉を顰めた。
「もう来たの?相変わらず人の迷惑を考えない人達よねぇ・・・。」
ふうとため息をつくソフィアに、内心、あなたも人の事が言えないじゃないかと
思いつつも、今は心強い味方であるが為、ロイはさらっと流すと、
そのまま部屋に入ろうとする。
「ちょっと待ちなさい。ロイ。」
慌ててロイの腕を引くと、ソフィアは手近にある部屋へと入っていく。
「何ですか。母さん。私はエディの傍に・・・・・。」
「いいから!!静かにしなさい!!」
抗議するロイをピシャリと黙らせると、ソフィアは顎に手を当てて考え込む。
「さて、これからどうするかよね・・・・。」
「どうするも、こうするも、無視すれば・・・。」
「無視しただけでは、治まらないことくらい、分かってるでしょう?
エドちゃんに関わる事だから、冷静になれないかもしれないけど、
ここは頭を冷やして、冷静に対応すべきよ。」
ギロリと睨まれ、ロイはウッと言葉を詰まらせる。
「・・・・冷静ではありませんでしたか?」
「見苦しいほど、狼狽えてるわよ。」
呆れたようなソフィアに、ロイは頭を掻く。
そんな息子に、ソフィアはフフフと笑う。
「・・・・何がそんなに可笑しいんですか。」
笑っているソフィアに気づいたロイは、憮然な表情で訊ねる。
「別に。エドワードちゃんのお蔭だと思うと、嬉しくって。」
以前はほとんど感情など表さない人間だったのに、ここ最近の人間味溢れる
ロイの行動に、ソフィアは嬉しくて笑ってしまったのだ。
「・・・・・・はぁ!?ついにボケましたか?」
そんなソフィアの心の中を知らず、思わず本音を漏らすロイに、
ソフィアは引き攣った顔をする。
「失礼な子ね!!」
「訳も分からない理由でいきなり笑い出したら、頭の心配をするのは、
当然だと思いますが?」
ニヤリと笑うロイに、ソフィアは肩を竦ませる事だけに留め、気持ちを
切り替えて真剣な表情でロイを見る。
今問題にすべきなのは、息子の人間性うんぬんではなく、大事な嫁と
孫の事。俄然、ソフィアに力が入る。
「二人まとめて来ているなら、話が早いわ!家に招き入れて、いかに
エドワードちゃんがマスタング家の嫁になって幸せか、あの二人に
骨の髄まで分からせるわよ!!」
「!!なるほど!その手がありましたか!」
ポンと手を打つロイに、ソフィアがニヤリと笑う。
「フフフフフ・・・・私たちに喧嘩を売った事、後悔させてあげるわよ!」
「そうですね。エディに二度と手を出そうなんて考えないように、徹底的に
叩き潰してやりましょう!!では、あの二人を私とエディが出迎えますので、
母さんは、お茶の準備を宜しくお願いします。」
そう言って、上機嫌に部屋を出ようとしたロイだったが、ガシッと腕を掴まれ、
慌てて後ろを振り返る。
「母さん!危ないじゃないですか。」
文句を言うロイに、ソフィアは不機嫌も露わな目を向ける。
「何を言っているの?私とエドワードちゃんが二人を出迎えるに決まっている
でしょ!?」
「そっちこそ、何を言っているんですか!!円満な夫婦生活をアピールする為にも、
私とエディが出迎えるべきです!」
怒鳴るロイの目の前で、ソフィアはチッチッチッと人差し指を振る。
「分かってないわね。古今東西、円満な夫婦生活に必要不可欠な要素とは、
一体なんだと思ってるわけ?」
「お互いの愛情に決まってるじゃないですか。」
ロイの予想通りの答えに、ソフィアは馬鹿にしたように鼻で笑う。
「はっ!何を言っているんだか。いい?人生の先輩である、この母が、夫婦円満な
秘訣っていうのを伝授してあげるわ!」
そう胸を張って言うと、コホンと咳払いをする。
「まず、一番大事なのは、嫁と姑の関係ね。これ常識。」
「・・・・・・はぁ!?何を言っているんですか。」
それのどこが夫婦円満なんですかと呆れるロイに、ソフィアは真顔で答える。
「本当に、何も分からない子ねぇ・・・。いい?離婚原因の第一位って、性格の不一致
とか言われているのは、知っているわね?」
「ええ・・・そうですが。それとこれと何の関係が・・・。」
まだ納得がいかないロイに、ソフィアはクスリと笑う。
「いくら夫婦だからって、性格が一致する訳ないじゃない。別々の人間なんですもの。
性格不一致なんて、当たり前。では、何故そんな理由が一番なのか。答えは簡単。
それが、当たり障りのない事だからよ。」
「・・・・当たり障りのない?」
ますます訳が分からないというロイに、ソフィアはポンと肩を叩く。
「そうよ。要するに、本当の理由を言えば、泥沼決定になるからよ。では、
その泥沼決定とは一体何かというと、ずばり!嫁姑問題。
例えば、嫁と姑が険悪な状態だと想像してみなさい。仕事から疲れて帰ってきた
夫は、嫁と母親両方から相手の愚痴やらを聞かされるのよ?それに嫌気が
差して、夫は浮気。妻も自分を庇ってくれない夫を見限って浮気なんて事もありえるわ!
そして、そのまま即離婚なんて話は珍しくないの。だから娘が嫁ぐ時、真っ先に
心配するのは、嫁姑問題と言うくらい、常識よ!常識!!」
力説するソフィアに、ロイは呆れた目を向ける。
「それは、あくまでも同居している場合でしょう?うちは同居していませんし・・・・それに、
母さんとエディが喧嘩した場合、私は100%エディの味方です。そんな離婚なんて事態、
起こりようがありませんね。」
「私だって、あなたとエドワードちゃんが喧嘩したら、100%エドワードちゃんの味方よ!!」
いくら同盟を結んでいても、所詮は一時的なもの。エドの事になるとお互い譲る事を知らない
二人がギリリリリっと鋭い目で相手を睨みつけていると、いきなりガチャリとドアが開いて、
エドが入ってきた。
「あれ?こんなとこにいたんだ。」
キョトンとなるエドに、ロイはギュっと抱きしめる。
「エディ!!すまない。一人で寂しかっただろう?もう離れないからな!!」
「ちょっと!!ロイばっかりずるいわ!ごめんなさいね。エドワードちゃん!
私もエドワードちゃんと離れない〜!!」
負けじとソフィアもエドに抱きつく。
「母さん!私のエディから離れてください!!」
「あなたこそ、私のエドワードちゃんから離れなさいよ!」
エドを挟んで睨むあう二人に、エドは困惑気味な顔で口を開く。
「あ・・あのな?お客様が来て部屋にお通ししたんだけど・・・・。」
その言葉に、パッと二人の視線がエドに集中する。
「客ってまさか、祖父と孫の漫才コンビか!?」
「まさか、お父様とマーチ!?」
二人に詰め寄られ、エドはシドロモドロに答える。
「うん。ヘイルウッドのじっちゃんと、マーチが来てくれて・・・・。」
「母さん!」
「ええ!ロイ!!」
その名前に、ロイとソフィアは大きく頷くと、にっこりとエドに微笑みかける。
「すまなかったね。エディ。お客の相手をさせて。」
「本当にごめんなさい。さぁ、一緒に行きましょう。」
ロイとソフィアは負けるものかと決意を露わに、エドの手をそれぞれ取ると、
エドを挟むようにしてマーチ達がいるであろう部屋へと歩き出した。
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