大佐の結婚生活シリーズ

           素晴らしきかな人生は

 

  

 

         7月  ・・・ふとある事に気づく

  

            「そういやぁ、おまえらって・・・。」
            それは、ヒューズの一言から始まった・・・・・。

        

            「その事なら、心配はいらん。既に手配済みだ。」
            自信満々な親友に、ヒューズは、ほっと胸を
            撫で下ろす。
            「そっかぁ。全然そんな様子がなかったから、
            気になっていたんだ。グレイシアもな、すごく
            気にしていて、『このままじゃあ、エドちゃんが
            可哀想』とか言って・・・・・。」
            優しい妻だろ〜。まさに、女神!!と、再び愛妻自慢を
            繰り広げようとするヒューズに、ロイも負けじと
            愛妻自慢を始めるのが、これまでもパターン。
            だが、今日はいつもと様子が違う。
            深い溜息をつくロイに、ヒューズが怪訝そうな顔を
            向ける。
            「どうしたんだ?溜息なんてついて。」
            「・・・・・出発が明日なんだ。」
            「そっか、良かったな・・・・ってオイ!大丈夫なのか!!」
            バンと机を両手で叩く。途端、机の上に、これでもかと乗せられた
            書類が山崩れを起こす。
            「・・・・・・大丈夫ではないな。ところで、ヒューズ。
            私達は親友だな。」
            「お・・・おう。」
            頷くヒューズに、ロイの眼がキラリと光る。それに気づいた
            ヒューズは慌てて首を横に振る。
            「ちょっと待て!俺に仕事を押し付ける気か?」
            「いや?」
            まさかとばかりにロイは首を横に振る。
            「明日、出発だよな?」
            「ああ。」
            ヒューズの確認に、ロイは大きく頷く。
            「この大量の書類が今日中に終わるのか?」
            恐る恐る尋ねるヒューズに、ロイはあぁ、とチラリと
            部屋全体に積まれている書類の山を一瞥する。
            それに釣られて、ヒューズも部屋を見回す。
            全く、何を考えているのか、部屋には足の踏み場もない
            くらいに、書類の山が積まれている。その膨大な量に、
            見ているだけで、ヒューズは気分が悪くなってきた。
            「明日出発出来るように、お前の代わりに神に祈って
            やるぜ。仕事、頑張れよ。」
            さぁ、愛する家族の元へ帰るか〜と、手をヒラヒラさせながら、
            部屋を出て行こうとするヒューズの、首根っこを、ロイは
            押さえた。
            「何すんだ!ロイ!!」
            猛然と講義するヒューズに、ロイはまぁまぁと宥める。
            「早とちりするな。仕事は全て終わらせてある。」
            「まさか・・・・。」
            ロイの言葉に、素早く未処理の山をざっと調べる。
            確かに、ざっと見る限りでは書類は終わっている。
            「じゃあ、何でこの状態なんだ?」
            先程の、キレる寸前のホークアイの顔が脳裏に浮かぶ。
            彼女を怒らせるメリットとは、一体・・・・・・。
            考え込むヒューズに、ロイは苦笑する。
            「明日の事を、ある人物に知られたくないのでね。」
            その言葉に、ヒューズはピンとくる。
            「・・・・アルか?」
            「ご名答。」
            ニヤリとロイは微笑む。普段仕事をサボる自分が
            真面目に仕事を終わらせる事で、カンの良いホークアイに
            全てを知られてしまう。そうなると、ホークアイの口から、
            アルフォンスへと情報が流れる可能性は高い。
            別に隠す必要もないと言われれば、
            その通りなのだが、そうなると、今までの経験から、
            絶対にアルフォンスの邪魔が入る。それだけは
            絶対に避けたいロイは、処理済の書類をわざと
            未処理だと言い張り、こうして敵の目を欺く
            作戦に出たのだった。
            「そこまでせんでも・・・・・。」
            案の定、ヒューズは、ロイの徹底振りに呆れ顔だ。
            「甘いな。貴様はアルフォンス君の性格を知らんから
            そう言うのだ。」
            途端、苦虫を噛んだ顔になるロイに、不思議そうに
            首を傾げるヒューズだった。
            「アルの性格〜?大人しくて、控えめで、出来た奴
            じゃないか。」
            予想通りの答えに、ロイの顔が引きつる。
            「エディが絡むと、奴は豹変するぞ。」
            「お前も人のこと言えんぞ。まぁ、アルの事を
            多めに見てやれよ。第一、たった一人の家族を
            お前に取られたんだ。少し寂しいだけさ。」
            ガハハハと笑うヒューズに、ロイは溜息をつく。
            アルフォンスは、ロイ限定で性格の悪さを全面的に
            出している。それを知らない他人はアルフォンスの
            肩を持つのはいつものこと。ロイはフッと意地の悪い
            笑みを浮かべながら、ヒューズを見る。
            「そう言っていられるのも、今のうちさ。そのうち・・・・。」
            「そのうち?何だ?」
            ロイの言葉に、ヒューズは首を傾げる。だが、ロイは
            ニヤリと笑ったままだ。どうせ今、言葉で説明しても
            ヒューズは決して納得しないだろう。この計画を実行すれば、
            ヒューズもアルの攻撃対象になり、アルの攻撃を受けた時に、
            自分の言い分が正しかったのだと認識するに違いない。
            だから、今は余計なことは言わないほうがいいだろう。
            そう、ロイは判断した。
            「まぁ、それはおいおい分かるさ。そんな事よりも、お前を
            見込んで頼みがある。」
            フフフと黒い笑みを浮かべるロイに、ヒューズは背筋が凍り
            つくのを感じ、一歩後ろに下がる。
            「一体、俺に何をさせる気だ、お前・・・・・。」
            「何、無理難題ではないさ。お前にとっては、朝飯前の
            事だ。」
            とてもそう思えないのだが、先程からこれ見よがしに
            発火布の嵌めた右手をヒラヒラさせているロイに、
            ヒューズは身の危険を感じながら、話の続きを促した。
            「で?俺は何をすればいい?」
            その言葉に、ロイはにっこりと満面の笑みを浮かべる。
            「あるものを預かって欲しい。」








            「今日もいい天気だな。洗濯物が良く乾きそうだ。」
            鼻歌交じりで洗濯物を干しているのは、ロイの新妻、
            エドワード。干された洗濯物を眺めながら、機嫌よさそうに
            眺めながら、額の汗を拭う。
            「こっちも終わったよ。兄さん。」
            ヒョイと花壇から顔を覗かせているのは、弟のアルフィンス。
            丁度花壇の手入れが終わり、エドに声を掛けたのだ。
            「じゃあ、お茶でも飲むか。」
            まだお昼にはだいぶ時間がある。エドはアルを伴い
            家の中に入っていくと、丁度玄関に置いてある電話が鳴る。
            「ん?誰だ?」
            首を傾げるエドに、アルはじゃあ、お茶の準備してるね〜と、
            キッチンへと歩いていく。エドは首を傾げつつ、受話器を手に取る。
            「もしもし?」
            「もしもし、エディか?」
            いつもと違い、何故か小声で話すロイに、エドは首を傾げる。
            「ロイ?どうしたんだよ。」
            何か忘れ物か?と尋ねるエドに、ロイはさらに声を潜める。
            「いいかい。アルフォンス君にも、誰にも知られずに、駅まで
            来てくれないか?なるべく早く。」
            「どうしたんだよ!一体何が・・・・。」
            困惑するエドに、ロイは切羽詰った声を出す。
            「エディ!私を愛しているなら、急いでくれ!!」
            「わ・・・分かった。直ぐに行く!!」
            ロイの只事ではない雰囲気に、エドは慌てて電話を切ると、
            家を飛び出す。
            「どうしたんだよ。ロイ〜。」
            半分泣きそうになりながら、エドは駅までの道程を全力疾走
            で駆け抜ける。
            ロイの指示通り、誰にも会わないように、裏道を行ったせいで、
            いつもより時間がかかったが、エドは何とか15分後に
            駅に到着する。
            「ロイ〜。何処だよ〜。」
            ロイの身に何か起こったのではと、慌てて来てみたのだが、
            普段と変わらない駅の様子に、エドは困惑を隠しきれない。
            「ロイ〜。」
            グスグスと半泣きになるエドを、後ろからそっと抱き締める
            腕に、エドは慌てて後ろを振り返った。
            「やぁ!エディ。」
            ニコニコと笑うロイに、エドは安堵の為に泣きながら
            飛びつく。
            「ロイ〜。良かった!無事で!!」
            えぐえぐと泣き出す愛妻に、ロイはギュッとその身体を抱き締める。
            「すまなかったね。エディ。時間が迫っていたものだから。」
            「時間?」
            ポロポロと涙を流しながら、エドは首を傾げる。
            そんなエドの涙を、ロイは優しく拭う。
            「そう言えば、何でロイ私服なんだ?」
            確か今朝家を出たときは、軍服だったはず。
            「それは・・・・あぁ。いけない。時間だ。」
            「ロイ?」
            キョトンと首を傾げるエドに笑いかけると、ロイは
            エドの腕を取り、改札へ向かう。
            「ロイ?どうしたんだ?」
            ズンズンと駅の構内へと入り、止まっている列車へと
            入っていくロイに、エドは不安げに辺りをキョロキョロする。
            「さぁ、ここだ。」
            案内された先は特一等車両で、豪華ホテル並みの
            設備を目の前に、エドは困惑気味にロイを仰ぎ見る。
            「さぁ、可愛い顔が涙で汚れているよ。まずはシャワーでも
            浴びるかい?」
            ニコニコと笑うロイに、エドは不機嫌も露に食って掛かる。
            「ロイ!一体、これはどういうことなんだ!!」
            返答次第では許さないという意志の元、ロイを睨み付ける
            エドに、ロイは蕩けるような笑みを浮かべてエドに口付ける。
            「今日から一ヶ月間、私達は新婚旅行へ旅立つのだよ。
            エディ?」
            「な・・・な・・・・・・
    なんだとぉおおお!!

            絶叫するエドに、出発の合図が、高らかに鳴り響いていた。





            「で?何でボクがここに?」
            丁度その頃、アルはヒューズを目の前に不機嫌極まりない顔で
            テーブルを挟んで睨み付けていた。
            エドが家から飛び出したのを確認してから、ヒューズは
            我が家にアルを拉致したのだった。
            「いや〜。今日から一ヶ月ロイ達は新婚旅行だろ?
            その間、アルが一人じゃ、可哀想だからって、ロイに頼まれた
            んだよ。」
            ガハハハハと笑うヒューズの横で、お兄ちゃんがお家にお泊り〜♪と、
            ヒューズの愛娘エリシアが、手を叩いて喜んでいる。
            「自分の家だと思って、遠慮しないでね♪」
            ヒューズの愛妻、グレイシアも嬉々としてアルに紅茶を勧める。
            そんなのほほんとした、ヒューズ一家に、アルは怒りがぶつけられず、
            心の中でロイに悪態をついていた。
            ”准将〜。ボクを嵌めましたね〜。帰ったら覚えてて下さいよ〜。”
            



             こうしてロイは漸く愛するエドとの二人だけの時間を
             手に入れることが出来たのだった・・・・・・。






                                              FIN

                   ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

            この続きの、新婚旅行編は、フリーSSの部屋に置いてあります。

 

                   ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

  いきなり!次回予告!!

       「ロイ〜。しっかりしろよ!!」
       半分涙目になりながら、エドはロイの身体にしがみつく。
       「エディ・・・・・。私はもう駄目だ・・・・・。」
       「そんな!ロイ!!」
       ポロポロと涙を流すエドに、ロイは弱弱しく微笑む。
       「エディ、私のお願いを聞いてくれるかい?」
       「イヤだ!ロイ!」
       イヤイヤと首を横に振るエドに、ロイはその華奢な身体を
       ゆっくりと抱き締める。
       一体、ロイに何が起こったのか!!
       エドの涙の訳は!?
       次回、『大佐の結婚生活シリーズ 8月 ・・・夏の暑さにやられて』を、
       お送りします。乞うご期待!!




                      なお、予告もなく内容が変更する場合があります。
                      ご了承下さい。

 

                   ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇